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作ったこと…あるある! 飲食店の「箸袋」作品 1万3千点を集めた男
飲食店の箸袋で客が作品をつくり、店への「ありがとうのしるし」だととらえてみよう――。そんな取り組みを広め、集まった箸袋の作品で展覧会を開こうと、全国一周の旅をした若者がいます。奈良市出身の辰巳雄基さんです。
客が作った箸袋の「造作物」をチップに見立て、「JAPANESE TIP」と名付けられたプロジェクト。軽自動車で約1年間、全国の飲食店をめぐり賛同店を募りました。
11~12月に開かれた展覧会に合わせ、全47都道府県の約130店から箸袋の作品が集まりました。その数、なんと1万3千点。そのうち展覧会では厳選した8千点を展示、ツイッターでも話題となりました。
全国の飲食店でお客さんが半ば無意識に箸袋で作った造形物「JAPANESE TIPS」がすごい。日本人特有の文化。壁一面に全国から集めた約8000点の迫力よ。いい意味で気が狂ってるな。
— 徳谷 柿次郎 (@kakijiro) 2017年12月8日
展示場所はアーツ千代田3331。無料。 pic.twitter.com/OzUB7FZWmI
辰巳さんには、展示された箸袋の作品について思いを語ってもらいました。
まずはエビの天ぷらやエビフライに見える作品。
「シャカシャカ感が衣をうまく表現しています。箸を抜くとき、箸袋をギューッて下におろして、上の部分を切ってひねった作品です。箸袋の赤のグラデーションをうまく使っている。赤っぽくなくても映えますよ」
「作り終わった後、客は『店員驚くやろな』とニヤニヤしてるんやろな。それを想像するのがおもろい。たぶん、テーブルにそっと置いとくんですよ、彼女へのプレゼントみたいに」
「箸袋を折ったラインをそのまま残しています。何かの構造が作れそう。みんな立体を作る中で、ラインだけを残すのはかっこいいなと思う。これこそ『技術』って感じ」
流れ星を表現した作品。
「星だけでなく、流れているように表現して余韻を残している。星だけでなく、そこから展開させているところにグッとポイントがつきます」
四足歩行の動物を表現した作品。
「これはやりすぎ。すごい。普通に技術賞です。これを作った人は、たぶん素人じゃないな」
ハート型の作品。
「ピンクの柄のせいで、『ハート割れとるやん』って(笑)。恋を表現したのか、失恋を表現したのか、というのを想像するとおもろい」
「モモヤ」という喫茶店で作られた桃の作品。
「まさに『桃や!』という作品。お店と客の息がピッタリ。ピンクのラインも桃らしい。実はこのお店、ちょっと前まで緑の箸袋を使っていたんです。それが、娘さんが喫茶店に戻ってきて、『なんでモモヤなのに緑なの?』ということで、ピンクに変えたそうです」
辰巳さん曰く「タイガー」を表現した作品。普通の立体作品とは違い、クッキーの型のようになっている。
「普通に作るより、机の上からのぞき込んだ時に発見があるのが面白いなぁ」
三つの箸袋を重ねてイソギンチャクのようなものを表現した作品。
「仲間同士の合体技。『お前も作れよ』とか3人で作った様子が想像できて楽しい。1人で作った作品なら寂しい」
肉の写真がプリントされた箸袋でつくったブラジャー「肉ブラ」。
「肉々しいブラジャー。『今日が本番』という時に着けるんやろな」
辰巳さんが「JAPANESESE TIP」のプロジェクトを始めたきっかけは、京都造形芸術大学3年の時。飲食店でアルバイトをしていて、食べ残しの多さにうんざりしていました。
あるとき、客が無造作に作って机の上に置いていった箸袋の造作物を発見。「面白い形だ」と意識してみてみると、たくさんの客がいろいろな形を作っていることに気が付いたそうです。
「これが、客から店へのありがとうのしるしになればいいな」と思うようになった辰巳さん。学生時代からプロジェクトに賛同してくれる店を募りました。卒業後、島根県海士町にIターン。「全国から集まった作品で展覧会を開きたい」とクラウドファンディングで約110万円を募り、全国一周の旅に出ました。
全国一周の旅で、182店の賛同店が集まりました。箸袋の作品が集まった店からは「楽しみが増えた」「コミュニケーションツールだと思う」「お金のチップよりも、心のこもった作品の方がうれしい」との感想があったそうです。
また、たとえ客が意図して作ったものでなくても、店のスタッフは「お客さんからのメッセージかな」と思うようになったといい、店側も楽しんで集めてくれたといいます。
集まった作品の中には、単に四つ折りされたものも。辰巳さんは「店員さんが『これも作品だな』と集めてくれた。店員さんの寛大さが見受けられます」と話します。
作品には、箸袋を結んだものや、鶴や亀、魚を表現したものが多く、「日本人ならではのカタチ」が集まったといいます。また、ひな祭りや兜、ハロウィーンのかぼちゃなど、四季折々の多様な文化を表現した作品もあり、辰巳さんは「その季節に作ったんやろな」と想像しています。
全国から1万3千点もの箸袋の造作物が集まりました。
「今までの手癖の延長で、お客さんが自然と作り始めたんだと思う。日本人の知恵や技術の集合体のような気がします」
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