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大阪湾が2色に? 命綱まいて撮影、空港で待機…ヘリ空撮の舞台裏

堤防を境にくっきりとツートーンに分かれた大阪湾=朝日新聞のヘリから、加藤諒撮影
堤防を境にくっきりとツートーンに分かれた大阪湾=朝日新聞のヘリから、加藤諒撮影

目次

 災害や事件など地上からたどり着くことが難しい現場で、最初に最前線へ飛び出していくのが、上空からの撮影(空撮)を担当するカメラマンです。現場では時に思いもよらない風景と出会います。ヘリコプターや飛行機の中ではどんな状態で撮影しているのか、空撮についてご紹介します。(朝日新聞映像報道部記者・加藤諒)

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災害取材ではまず「空撮」

 大災害が発生した時、空撮は被害の全容を表現するのに効果的です。複数の現場を迅速にカバーできる機動性にも優れています。今年10月、日本列島に甚大な被害をもたらした台風21号の取材でも、空撮は重要な役割を担いました。

伊丹空港にある朝日新聞社の格納庫から運び出される本社ヘリ「あかつき」=加藤諒撮影
伊丹空港にある朝日新聞社の格納庫から運び出される本社ヘリ「あかつき」=加藤諒撮影

 台風21号が接近した10月23日、私は事件や事故の発生に備えて、伊丹空港の敷地内にある格納庫で待機する「格納庫番」でした。前日から警戒を呼びかけるニュースが相次ぎ、「朝イチで離陸になるだろう」と心の準備をしていました。

 午前7時すぎに格納庫に到着し、パイロットと打ち合わせ。被害が大きそうな現場を優先的に回るルートを決めて離陸しました。

大型台風の災害現場へ

 まず到着したのは、土砂崩れで1人が亡くなった和歌山県紀の川市の現場。山の斜面がごっそりと崩れ、住宅を押しつぶしていました。

土砂が流れ込んだ住宅=10月23日午前9時49分、和歌山県紀の川市、加藤諒撮影
土砂が流れ込んだ住宅=10月23日午前9時49分、和歌山県紀の川市、加藤諒撮影

 現場の全景、土砂が流れ込んだ住宅のアップ、捜索する救助隊……。10分ほど撮影し、次の現場へ向かいます。その間、撮影したばかりの写真をパソコンで拡大してみると、救助隊員たちが住宅の近くで立ち尽くしていました。

土砂が入り込んだ住宅の周辺で救助作業が進められていた=10月23日午前、和歌山県紀の川市、加藤諒撮影
土砂が入り込んだ住宅の周辺で救助作業が進められていた=10月23日午前、和歌山県紀の川市、加藤諒撮影

 二次災害の危険があるのだろうか、もしくは救助に必要な機材が届かないのだろうか。山となって崩れた土砂の中に人がいるのかもしれない――。豪雨の爪痕を見せつけられました。

 その間も、地上からは「住宅が広域にわたって浸水しているようだ」「行方不明者の捜索が始まったようだ」という情報が刻々と無線で入ってきていました。

空撮特有の「しきたり」とは?

 入社7年目の私は、空撮をするようになってから、4年ほどしか経っていません。新人がすぐに空撮をすることはあまりなく、初めは先輩と一緒に乗って、空撮特有のしきたりを学びます。

ヘリの中でカメラを構える加藤カメラマン
ヘリの中でカメラを構える加藤カメラマン 出典: 朝日新聞社

 たとえば、安全に取材をするためのいくつかのルール。ヘリは基本的に時計回りに旋回します。そのため撮影席は右側にあり、窓の一部をスライドして開けます。

 外は時速70~90キロほどの風が吹いているため、少しでもレンズを外に出すと吹き飛ばされてしまいます。そのため、空撮時はレンズの先に付ける「レンズフード」を外し、上着のポケットもチャックを閉め、機体から物が落ちないよう細心の注意を払います。

 今年4月に導入された最新のヘリ「あかつき」は、撮影窓が上半身を乗り出せそうなほど大きいため、命綱を腰に巻いてから窓を開けます。

パイロットに希望を伝える難しさ

 空撮ならではの難しさもあります。自分で現場を自由に動くことができないため、自分の意思をきちんとパイロットに伝えることが必要です。

 「A地点とB地点を、タテの構図で収めたい」「さきほどより高度を上げて近寄って」など。これが思いのほか難しいのです。

広範囲にわたって水没した地域を広角レンズで撮影した=10月23日午前9時38分、和歌山市、加藤諒撮影
広範囲にわたって水没した地域を広角レンズで撮影した=10月23日午前9時38分、和歌山市、加藤諒撮影

 しかも、パイロットは航空法で決められた高度制限(人口密集地では対象物から300メートル以上の高度等)や、同じ現場を取材する他社のヘリとの交信、近隣住民への騒音の影響など、様々なことに気を配りながら操縦しています。

 「もっとアップで撮りたいので、高度を下げて対象に近づいて」とリクエストしても、法律や安全を守るため断られることも。一方で、熟練パイロットから「こっちの方から撮らなくて良いの?」と助け舟を出してくれることもよくあります。

水没した住宅で救助活動を行う消防隊員。2階の窓から様子を見守る人も見えた。500ミリの望遠レンズで撮影した=10月23日午前8時38分、和歌山県紀の川市、加藤諒撮影
水没した住宅で救助活動を行う消防隊員。2階の窓から様子を見守る人も見えた。500ミリの望遠レンズで撮影した=10月23日午前8時38分、和歌山県紀の川市、加藤諒撮影

 現場で何を伝えたいか、それをどの角度から絵にしたいのか。空撮を始めた頃は特に、自分の中にあるイメージを言葉にする訓練が必要でした。

ベテランカメラマンに聞く3つのコツ

 空撮を30年以上経験する先輩の堀英治カメラマンによると、空撮のポイントは三つあるそうです。

 一つ目は「安全第一の飛行」です。空撮では一つのミスが命にも関わるため、パイロットの判断に従い安全を最優先していることがわかります。堀カメラマンはこう言います。

 「安全に帰るため、素早く撮影を終えてむやみに燃料を浪費しないようにと先輩から厳しく指導されました。特に機体の燃料は『血の一滴』だと思え、と」

堀さんが撮影した御嶽山噴火翌日の山頂付近の写真。捜索活動が行われていた。左上が御嶽神社。御嶽頂上山荘(中央下)の屋根などが火山灰で覆われている=2014年9月28日午後0時56分、長野、岐阜県境
堀さんが撮影した御嶽山噴火翌日の山頂付近の写真。捜索活動が行われていた。左上が御嶽神社。御嶽頂上山荘(中央下)の屋根などが火山灰で覆われている=2014年9月28日午後0時56分、長野、岐阜県境

 二つ目はパイロットや整備士との円滑なコミュニケーション。

 そして三つ目が、「写真をまとめる『絵心』」です。確かに私も、写真のイメージを持たずに出たとこ勝負で現場に入ると、失敗することが多いです。上空に滞在できる時間は限られていて、スピード勝負の面もあります。

 上空で「どうしたものか」と迷っている間に、事態が変わることも。事前の準備が大切なのはもちろんですが、現場に到着してみると想像とかけ離れていることもあり、臨機応変さも必要だと感じています。

 堀カメラマンはほかにも、「カゼで鼻づまりになると気圧の変化で耳を痛めるので、体調管理が重要」「上空ではトイレにも行けないため、利尿作用があるカフェインを含むコーヒーや紅茶を控える」など体調にも気をつけているそうです。

思わぬ光景と出会う空撮取材

 台風21号の空撮では、川が氾濫して水没した街や、土砂崩れで寸断された道路など、8カ所を取材しました。3時間弱のフライトを終えて伊丹格納庫に引き返す途中、思わぬ光景に出会いました。

 大阪市と堺市の間を流れる大和川からの茶色い濁流が湾内に注ぎ、河口のすぐ近くにある防波堤を境に、くっきりとツートーンに分かれていたのです。

大和川から流れ込んだ土砂で大阪湾が茶色に染まる。堤防で遮られた部分は本来の海の色のままだった=10月23日午前、加藤諒撮影
大和川から流れ込んだ土砂で大阪湾が茶色に染まる。堤防で遮られた部分は本来の海の色のままだった=10月23日午前、加藤諒撮影

 台風が過ぎ去った後の海の空撮は、珍しいわけではありません。しかしこの日は厚い雲が空を覆っていたせいで、海面がよどんで見えたり、高度を上げられなかったりして、狙うのは難しいと思っていました。

 そこにちょうど光が差し、鮮やかなコントラストを描く大阪湾に目を引かれました。「この光に照らされた部分を切り取れば面白い写真になるかも」と感じて撮影したのが、「2色」の写真になりました。

2色の対比がわかりやすいように、真上から切り取るように撮影しました=10月23日午前、加藤諒撮影
2色の対比がわかりやすいように、真上から切り取るように撮影しました=10月23日午前、加藤諒撮影

 大阪湾に流れ込んだ濁流がつくった光景は美しくも見えましたが、同時に、この濁流が奪った人々の生活や、田畑の実りを思わずにはいられませんでした。

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