IT・科学
フェイクニュースが広まる「カラクリ」 信じやすい芸能人の発言
アメリカ大統領選で問題化したフェイクニュース。SNSが発達した現代の問題として、情報が簡単に拡散してしまう怖さがあります。そこで、フェイクニュースの発信源ではなく受け手に近い立場の大学生と一緒に、なぜフェイクを信じるのか、考えてみました。そこから見えたのは芸能人の発言力など、フェイクニュースを巡る「日本特有の事情」でした。
一緒に取り組んだのは明治大学情報コミュニケーション学部の清原聖子准教授のゼミです。
ゼミではメディアやインターネットを切り口に日米を比較した政治の研究などに取り組んでいます。
アメリカの大統領選などでフェイクニュースが問題化していることを受け、日本でのフェイクニュースの広がり方をゼミのメンバーと考えました。
そもそも、選挙をはじめ、デマの問題は昔からありました。報道機関などには、ファクスが主流だった時代、選挙のたびに怪文書が送られてきました。
では、今、問題化しているフェイクニュースとは何が違うのでしょう?
怪文書ファクスとの違いは、拡散の担い手に普通の人たちが簡単に関われてしまうことです。「いいね」や「リツイート」は、クリック一つでできます。誰かに伝えたいという積極的な気持ちがなくても、結果的に、拡散に手を貸すことになります。
そして、ツイッターのフォロワーは自分の好みや意見が近い人同士がつながりやすくなります。一対一のうわさ話で伝わるよりも、SNS上でのシェアの方が格段に多くの人に効果的に情報を伝えることができます。
情報の受け手が発信者にもなり、その拡散が容易にできるところに、現代のフェイクニュースの特徴があると言えます。
フェイクニュースの対策を考える場合、発信源への対策と同じくらい、拡散をさせてしまう「普通の人たち」の気持ちを考える必要があります。
そのため、学生には「フェイクニュースだと思ったニュース」を探してきてもらい、なぜそう思ったのかについて意見を聞きました。
まず目立ったのが、芸能人の存在です。発信源が有名なタレントの場合、間違っている情報でも信じやすく、拡散もしてしまいそうだという意見が見られました。
「発言しているのがどんな人かわかるので、普通のニュースより説得力がある」
「話し方がうまく、伝え方もうまい」
「自分がそう思っているのではなく、その芸能人の発言という形だとシェアしやすい」
実際に2017年5月には、著名なアニメ監督の発言を巡って、ジョークとしてネット上に出回っていた情報が、芸能人のコメントによって拡散したことがありました。
拡散の「土壌」に注目する意見もありました。
東日本大震災直後に外国人の犯罪が被災地で横行しているというデマが広がりました。
拡散した理由を学生たちは次のように考えました。
「外国人を批判したい人が一定数いる」
「調べようがないものは、間違っているかどうか確かめずに拡散させてしまう」
ジョークとして誤った情報を広めてしまう例もありました。
アメリカの富豪と同じ名前の日本の会社が倒産したというニュース。実際は富豪本人と関係ありませんが、名前と倒産を結びつけて、拡散しました。
学生からは「写真も富豪に関係するものでわかりにくかった」という声があった一方、「ジョークだとわかったけど、読後感としては許せるし笑えるのでシェアされやすい」という意見も。
ところが、ジョークだと思った情報が本当の話として伝えられることもあります。
ネット上で架空のお菓子の商品がジョークとして投稿されたことがありました。実際は製品化されていないものでしたが、テレビ番組で本当の情報として取り上げられ、後日、訂正されました。
拡散の原因の一つになったのは、最初のジョークを楽しむ人の間で作られた精巧な画像でした。
SNSなどネット上の情報がシェアを繰り返すと、はじめはジョークだったという文脈がわかりにくくなります。画像などがつくと、まるで本物であるかのような「完成度の高い」見え方で拡散することがあります。
「完成度の高い」見え方において、画像が果たす役割は少なくありません。
報道写真などであっても、その画像を別の目的で使おうとする発信者の解釈によって、デマを広げる効果的なツールになる場合があります。
10月22日に投開票があった衆院選をめぐって、ある学生は1枚の画像がついたツイッターの投稿をあげました。
画像は、安倍晋三首相と握手しようとする人の手の部分をアップして「手をにじり切られそうになる」という文字がついていました。
マウスで描いたような赤い丸で画像の「握手」部分が強調されるなど、完成度はあまり高くありませんが、逆に普通の人が見つけたかのような説得力を感じさせる可能性もあります。ツイートは、野党などへの批判ともに拡散しました。
アメリカ大統領選で問題となったフェイクニュースですが、ゼミを指導する清原准教授は「日米のメディア環境の違いを考慮する必要がある」と言います。
清原准教授は、アメリカのメディアの特徴として「右と左にはっきりと分極化している点」を挙げます。
「アメリカでは、オンライン上のコミュニケーション空間も分極化してしまい、マスメディアに対する信頼度の国際比較調査を見ても、日本と比べるとかなり低くなっている」と指摘します。
一方、今回のゼミの学生との議論で清原准教授が注目しているのは、日本でのメディア、特にテレビの存在感の大きさです。
「ネット上の情報でニュースソースがテレビである時や、テレビでオピニオンリーダーや有名人がコメントしていた場合、学生は、ほとんど疑わない傾向がある」
逆に、情報の出所がテレビなどのマスメディアではない場合は「その情報をシェアするかどうか、信じるかどうか、という点で学生は慎重な様子が見られた」と分析します。
清原准教授は、日本でのフェイクニュース対策には、学生のような情報の受け手自身が参加する調査プロジェクトが有効だと提案します。
「情報の受け手側のスキルを今後上げていくための取り組みは、高校生も含めて広がっていくことが必要ではないか」と話しています。
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