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まるでウユニ塩湖?「撮れるものなら撮ってみな」エゾシカとの攻防
北海道に赴任して1年半。北の大地の大自然に触れて、野生動物を撮ることが好きになった。(朝日新聞北海道映像報道部・白井伸洋)
道内あちこちにいるエゾシカも、大阪出身の僕には新鮮だ。時間を作っては、道東部にある野付(のつけ)半島での姿を追っている。
先端まで26キロメートルの半島は、野鳥が訪れ、原生花園もある自然の宝庫。一本道の両脇にすぐ海が広がっている。
この道路を車で走っていれば、エゾシカには会える。ただ、撮影となると簡単にはいかない。少しの音でもすぐに逃げ出す性格だからだ。僕とエゾシカの間で、「だるまさんが転んだ」が繰り広げられることになる。
カメラを手に外にでて、車のドアを閉めると、音に反応したエゾシカが首をくるっと回して見つめてくる。その瞬間、僕は動きを止める。100メートルの距離でも気づかれる時がある。
しばらくしてエゾシカが草をはみ始めると、そろりそろりと近づいていく。ふっと顔を上げて再び見つめてくると、僕も動きを止める。その繰り返し。まるで「だるまさんが転んだ」をしている気分になるのだ。
最終的にカメラを構えたとき、エゾシカが逃げなかったら僕の勝ち。だが、そううまくはいかない。シャッターを切る寸前に、他の車が走ってきたことに驚いて、逃げられたこともあった。
動きが思い通りにはならないだけに、光の当たり方や背景、構図などいつも以上に考える。
時々、レンズ越しに「撮れるものなら撮ってみな」と挑発されているようで、こちらも燃えてくる。
一方で、エゾシカによる食害がここ野付半島でも広がっていると聞いた。エゾカンゾウなどの植物が食べられているという。
豊かな植生がなくなれば、昆虫や野鳥が減っていき、生態系への影響も懸念される。こうした現状があることも忘れてはならないと思う。
この一枚は、6月の早朝のものだ。帰り支度を始めたところで、海の方からゴボゴボと音が聞こえてくるので見ると、エゾシカの一群が遠くで泳いでいた。だんだんと僕の方に近づいてくる。先回りして海と陸の際が見渡せる場所に立って、じっと待つことにした。
風がないで波が穏やかだったので、シカたちが海からあがって水際を歩いてくれたら、鏡面反射のような写真が撮れるかもしれないと考えた。
結果は完全な鏡面とはいかなかったが……。何となく不思議な感じのする一枚になった。
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