連載
#15 夜廻り猫
「お母さんといると…つらい」音信不通の娘へ「夜廻り猫」が描く家族
「お母さんと離れたい」。そう言って家を出ていった娘。11年間、連絡はありませんが、娘の友人が写真を送ってくれました。その写真は……。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られ、ツイッターで「夜廻り猫」を発表してきた漫画家の深谷かほるさんが、「家族」を描きました。
「泣く子はいねが~」。人の涙の匂いをかぎつける猫の遠藤平蔵。きょうも夜廻り中に、ひとり物思いにふける女性を見つけました。「むっ 涙の匂い…!」
女性は自分の思い出を振り返ります。
厳しい両親に育てられ、「愛された」という経験がありません。結婚生活もうまくいかず、とにかく「娘に不自由させない」と独り働いてきました。
学校を卒業した娘は、遠く離れた他県に就職すると言い出します。
「家を出たらやっていけない 世間は厳しいのよ」。いつものように娘に言い聞かせます。
すると娘は、「お母さんと離れたい お母さんといると、生きてくのがつらい」と気持ちを明かしました。
それから11年、連絡はありませんが、先日、娘の友人が写真を送ってきてくれました。
優しそうな男性の隣でほほえむ、ウェディングドレス姿の娘。
女性は「お祝い、送ってあげたいけど 受け取らないかも」とつぶやきます。
遠藤は「お母さんが楽しそうに暮らしていること」を知らせたら、と提案して、顔をほころばせるのでした。
作者の深谷さんは「『家族は難しいな』と思います」と語ります。
子どもに対して過干渉だったり価値観を押しつけたりといった「毒親」についての新聞記事を読んで、この漫画を描いたそうです。
深谷さんは、「あたたかい家庭を築きたいと思う気持ちも当然だし、精一杯努力する責任もある」としたうえで、「ただ『うまくいって当たり前』みたいな常識に苦しむ人へ、私は『難しいと思います』と伝えたくて」と話します。
深谷さんも、シングルマザーとして息子を育ててきました。
「自分だって、すべてに落第したような気持ち」と振り返りますが、
それでも「うまくいかなくても報われなくても、誰かを愛したということを心の中で大切にしたいと思います」と話しています。
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
◇
深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。単行本1・2巻(講談社)に続き、11月22日には3巻が発売される。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受けた。自身も愛猫家で、黒猫のマリとともに暮らす。
1/27枚