話題
また事故が起きたね…「それは絶対に嫌」遺族が伝えたかったこと
相次ぐ子どもの事故。「かわいそう」で話題が終わらないように、自分たちならどんな予防ができるのか関心をもってほしい」。ある遺族は悩みながら、事故の教訓の伝え方を考え続けています。
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相次ぐ子どもの事故。「かわいそう」で話題が終わらないように、自分たちならどんな予防ができるのか関心をもってほしい」。ある遺族は悩みながら、事故の教訓の伝え方を考え続けています。
この夏も、子どもが川や海でおぼれて亡くなる事故が相次ぎました。「かわいそうな事故だね」で話題が終わらないように、ある遺族は悩みながら、事故の教訓の伝え方を考え続けています。(朝日新聞文化くらし報道部・田渕紫織、滝沢卓)
「遺族として世の中に伝えたいことはたくさんある。けれど、予防のメッセージを一番伝えたいときは、事故の事実を淡々と語るように努めています」。
5年前、5歳だった長男の慎之介君を川の事故で亡くした吉川優子さん(46)は、そう話します。
当時通っていた愛媛県西条市の幼稚園が、山間部で開いたお泊まり保育の川遊びで、事故は起きました。急に水かさが増し、慎之介君を含む園児らが流されました。園は子どもにライフジャケットを着せていませんでした。
吉川さんは事故後、溺れるのを予防するためにライフジャケットを着用することを、保育の仕事をする人や家庭向けの講演会などで繰り返し訴えています。
子どもを亡くした悲しみや、幼稚園や行政の対応など、話したいことがたくさんあるといいます。
しかし、いろいろな内容をいっぺんに話すことで、論点がぼやけてしまうのでは、という不安もあるそうです。
今年6月、5年前に川の事故で夫を亡くし、大阪大学大学院で事故予防について研究する岡真裕美さん(37)と共に水難事故を予防するための勉強会を大阪市で開きました。このときも話題の中心は、ライフジャケットの大切さと、製品を選ぶ時のポイントについてでした。
9月には、自身が立ち上げに関わった「日本子ども安全学会」の大会あいさつで、こう話しました。
「子どもの事故は発生直後は、大きく報道されても、だんだん風化してしまう。そして何年後かに、また起きたね、というのが今の状態。私、それは絶対に嫌なんです。事故の教訓は風化してほしくないんです」
川で溺れて流された子どもを、近くにいた大人が間一髪で救出――。
「結果的には『良かった良かった』というニュースかもしれない。それでも、なぜ流されてしまったのか、溺れないためにライフジャケットは着ていたのか、と考えることも大事」
子どもの事故予防活動に約30年かかわる「緑園こどもクリニック」の小児科医、山中龍宏さん(69)は、そう話します。
「『奇跡の救出劇』のように、事故のニュースは興味の範囲として捉えられることがある」といいます。
また、原因や予防のことに関心が向いても、子どもの事故の場合は「親や周囲の大人は何をしていたんだ、とぼんやりとした注意喚起に終始することが多い。『ちょっと目が離れた隙に』という決まり文句で処理されてしまう」といいます。
山中さんによると、例えば幼児がピーナッツで窒息することを予防する際、日本では多くが「気をつけましょう」ですが、アメリカでは「4歳以下の子どもがいる家庭にはピーナッツを持ち込まない」という指導がされているそうです。
幼い子がプールで溺死しないようにするために、欧米では「大人の手が届く範囲内でのみ泳がせる」という指導がされていますが、日本では「決して目を離さないで」に終始してしまいがちといいます。
山中さんは「漠然と大人の責任にしたり、『注意して見ておきましょう』で済ませるのではなく、将来の事故を防ぐための具体的な考え方が大事。メディアの報道も含めて、社会全体でそういった情報を今よりも増やしていくことが求められます。命を落としたり重症になったりしないような環境にしていくことや製品の改善も必要です」と話します。
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