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家族の死、美談で終わらせないで…川に飛び込み犠牲に、遺族の違和感
最愛の家族の命を突然奪う事故。なんでこんなことが起きたのか、という原因があまり注目されず、「美談」や、「かわいそう」といった感情が目立っているんじゃないか――。事故が繰り返されないことを願いながら、報道や周囲からの見られ方に違和感を覚えたり、悩んだりする遺族たちがいます。
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最愛の家族の命を突然奪う事故。なんでこんなことが起きたのか、という原因があまり注目されず、「美談」や、「かわいそう」といった感情が目立っているんじゃないか――。事故が繰り返されないことを願いながら、報道や周囲からの見られ方に違和感を覚えたり、悩んだりする遺族たちがいます。
最愛の家族の命を突然奪う事故。どのようにこんなことが起きたのか、という原因があまり注目されず、「かわいそう」といった感情や「美談」が目立っているんじゃないか――。事故が繰り返されないことを願いながら、報道や周囲からの見られ方に違和感を覚えたり、悩んだりする遺族がいます。プールや川で子どもや夫を亡くした人たちに思いを聞きました。(朝日新聞文化くらし報道部・田渕紫織、滝沢卓)
2012年7月30日、京都市立養徳小学校の1年生だった浅田羽菜さん(当時6)は、夏休みに小学校で開かれた水泳指導に参加しました。
事故が起きたのは、自由遊泳の時でした。児童69人が泳ぐプールで、羽菜さんが溺れてうつぶせに浮いているのを、教員に発見されました。翌日、病院で亡くなりました。
事故が起きた当時は一人娘を奪われた死亡事故として大きく報道され、2年ほどは両親への取材も相次ぎました。大学職員の母親(56)は「報道を通し、羽菜がどんなに大事だったかを一部でも知ってもらえた」と振り返ります。
一方、羽菜さんへの思いや悔しさだけが前面に出る報道を夫と見ながら、残念に思うこともありました。
例えば、自宅そばの保育園が羽菜さんを悼んで木を植えた時のこと。新聞記事では、木の成長に娘を重ね合わせるストーリーで伝えられました。母親の発言もそのストーリーに沿ったニュアンスになっていた時には、「知らない所で美談になっている」と違和感を感じたといいます。
テレビのニュースで特集された時には「羽菜の人となりについてはおおむね話した通りに放送されましたが、教育委員会や第三者委員会による事故調査について意見を話した部分は多くがカットされた」といいます。
「私たちの思いは反映しきれていないと感じました」
羽菜さんの母親は、「whyとhow。事故をめぐっては全く別の問いがあるけれど、whyだけが強調される」と話します。
whyとは、なぜ他でもない羽菜さんがあの時あの場で死ななければならなかったのか、という感情のレベルの問い。「これに答えはなく、後悔とともに私たちの中でずっと続く」といいます。
もう一つのhowとは、どのように羽菜さんが亡くなったのか、という事実のレベルの問いです。「whyだけが前面に出ると、howがうやむやになる。丁寧に分けて考えてほしい」と願っています。
同じ2012年4月、大阪府に住む岡真裕美さん(37)は、夫の隆司さん(当時34)を川の事故で失いました。大阪府茨木市の安威(あい)川で、コンクリートブロックで遊んでいた小中学生3人が川に転落。助けようと飛び込んだ隆司さんと、中学生1人が深みにはまり、亡くなりました。
川の深さが浅く見えたから、夫は助けられると思ったのかもしれない。真裕美さんはそうした状況も事故の原因になったと思いました。
2人の子どもを育てながら、深い場所があることを注意喚起する看板をつけてもらえるように、行政にかけあいました。その後、深みに気をつけるよう注意する看板が事故現場を含む川沿いに設置されました。
翌年には大阪大学大学院に入学し、身近で起きる事故の予防について研究し始めました。地元の小学校などで安全教育の授業を続けています。
しかしこれまで、ネット上では「幼い子ども2人と残されてかわいそう」といったコメントを多くみかけたといいます。
また実際に会って話した人からも、子どもたちを救出しようとした夫の正義感がたたえられることがあり、違和感を覚えました。
「気の毒な母子だという印象だけが残り、事故の原因にまで関心が及ばず、事故そのものさえ風化していくなら、不本意です」と話します。
「遺族の感情を伝えることはある程度必要かもしれない。そうした感情を見聞きしたことで、事故に関心を持つことがあるはずです。でも『自分の家族が事故にあわないようにするためには』と、身近で具体的な予防方法まで考えてほしいと思います」
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