では、スピーチをはじめます。
今日は、謝罪についてお話しします。
「あの人の謝罪は、天下一品だよ」と誰もが認める人がいます。
見たところ、普通。特に腰が低いわけでもない。
実際に彼の謝罪を見るまでは、ちょっと見くびっていました。
数カ月後。とある仕事で彼の謝る姿を目の当たりにしました。
「今回は、大変申し訳ございませんでした」と頭を下げる。
すると遠近法に狂いが生じたように彼が小さくなったのです。
下げた頭の角度とか、語勢の強弱は関係ない。
90%縮小したかのように、彼一人が縮んだのでした。
「まぁまぁ、そこまで頭を下げなくても。顔をお上げください」と先方が言う。
彼の頭があがると、互いのわだかまりがすっと消えていました。
先方が苦笑い。「これから気をつけてください」で一件落着したのです。
一体、どう頭を下げれば、あれだけ小さくなれるのだろう。
不思議に思って彼に聞いてみました。
「謝罪はさぁ、さわやかじゃいけないんだ。剣道や柔道みたいな『お辞儀』のように背筋をのばして頭をさげる。それってちょっと潔い感じがするだろ。『こんなに謝っている俺』という自己陶酔が入るだろ。それじゃ相手の気はすまない」
「自分に酔ってるやつに謝られても胸くそ悪いばかりだからね。謝罪は、背中を丸くすることだ。まさに『穴に入りたい』という気持ちで背中を丸め、手を擦りながら膝から下に下げていく。『申し訳ない!』ということを姿かたちで見せないと、相手は納得しないよ」
なるほど、思い出してみると彼の背中は丸かった。縦から半分に折れ曲がるように肩をすぼめていたのです。
一瞬天を仰いだら、肩甲骨が見えるようにして頭をさげる。そこには爽やかさや自己陶酔は微塵もありませんでした。
すぐに身につく技ではありません。数多の泥水を飲み、重油の海を泳いだ結果身につけた謝罪のかたちです。
部下のために頭をさげる。私には、ビジネスにおけるひとつの芸術品に見えました。
「謝るときには、小さくなれ」
謝罪の仕方であなたのビジネスは変わるはず。
今日の言葉のちょい知恵をお試しあれ。