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コラム

自分から突き放した言葉がええねん あなたに贈る〝1分間スピーチ〟

ひきたよしあきさんによる「1分間スピーチ」。今回のテーマは「自分から突き放した言葉がええねん」です。

今回の「1分間スピーチ」のテーマ
今回の「1分間スピーチ」のテーマ

 広告会社「博報堂」のクリエイティブ・プロデューサーで、スピーチライターでもある、ひきたよしあきさんによる「1分間スピーチ」。今回のテーマは「自分から突き放した言葉がええねん」です。

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本日の〝1分間スピーチ〟

では、スピーチをはじめます。

大学を出てコピーライターになりました。

商品を薦める短い言葉なんてすぐに書けるだろう。完全に舐めてかかっていました。

トレーナーだった先輩が、ひとつの商品につき100案コピーを書けという。

びっくりしましたが、その日は徹夜で書けました。

次の日もっていくと、100案の中から1案取り出し、「この方向でまた100案書いて」という。

その日は眠れると思っていた私は肩を落とし、睡魔と戦いながら書き進んでいきました。

来る日も来る日も100案。

次第に怒りがこみ上げてくる。

頭の中が真っ白になり、人格剥離がはじまる。すっかり自信がなくなり、早くも会社をやめようかと思いました。

そんなある日、本屋に行くと、頭の中に、背表紙のタイトルが飛び込んできました。

空っぽになっちまった脳細胞が、「ほしい!ほしい!」と駄々っ子のように背表紙の言葉を求めていのです。

心理学の本をパクり、陸上競技の雑誌から盗み、料理本の言葉をメモする。

今でもあのときの飢餓状態を思い出します。

新しい言葉を蓄えて、意気揚々と書いていくと先輩に、「これ、パクっただけやろ。自分で考えてないやないか」と言われて、意気消沈。

そこからまた書いて、書いて、書いて、もうダメだと思ったときに、先輩が、「これ、ええんとちゃうか?」と拾い上げてくれた一枚がありました。

しかし、私には書いた覚えがない。

確かに私の字ではあるけれど、どういう思考でその言葉に至ったのか思い出せない。

先輩は、笑いながら、「自分はこんなことかんがえるんだ!って思えるくらい、自分から突き放した言葉がええねん」と一言。

100本ノックは、その日で終了になりました。

苦しい経験でしたが、言葉で金を稼ぐということを体で教えてもらいました。

「自分は、こんなことを考えるんだ!」というところまで追い込んで、自分を突き放す。

今の時代にはふさわしくない働き方ですが、プロフェッショナルとはこういうことだと思っています。

言葉を生業にしたいあなた。やってみる価値、ありますよ。
ひきたよしあきさん
ひきたよしあきさん


 広告会社「博報堂」のクリエイティブ・プロデューサーで、スピーチライター。朝日小学生新聞で毎週火曜日に「大勢の中のあなたへ2」を連載中。著書は「机の前に貼る一行」「大勢の中のあなたへ」(いずれも朝日学生新聞社)、「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)など。

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