お金と仕事
宝島社、勝ち続ける付録戦略 周到な準備・スケールメリットが好循環
2016年下半期のファッション系雑誌の販売部数トップ5に4誌が入った宝島社。同社の雑誌の魅力の一つとして、他誌を圧倒する付録の豪華さがあります。同社で付録戦略を牽引してきた関川誠取締役兼編集局長(63)や40代女性を対象としたファッション誌「GLOW」の大平洋子編集長(49)にその秘密を聞きました。
同社は1971年に地方自治体のコンサルティング会社「ジェー・アイ・シー・シー」として生まれ、74年に「宝島」を創刊して出版業に本格参戦。89年に10代女性向けの「CUTiE」を創刊し、ファッション誌の世界に飛び込み、93年に「宝島社」に社名変更しました。
その後も、昨年下半期の男女ライフデザイン誌全58誌中、販売部数1位(日本ABC協会調べ)となった20代女性向けの「sweet」(月間平均29万1928部)、2位となった「心地よい暮らしと装い」がコンセプトの「リンネル」(同23万4255部)、3位となった30代女性向けの「InRed」(同17万8638部)、5位となった40代女性向けの「GLOW」(同16万9344部)などを次々と創刊し、ヒットさせています。
関川さんは78年に「別冊宝島」の編集部に入り、80年に「宝島」の編集長に。当時、カセットテープの紙ラベルが流行していたため、「これは絶対ヒットするので、付録でやってみたい」という思いから始め、好評を得ました。
その後、「CUTiE」で、雑誌に載ったブランドのロゴをシールにして付録にしたところ、当時の女子高校生がカバンやノートに貼るようになったり、映画「スター・ウォーズ」とアパレルブランド「ア・ベイシング・エイプ」がコラボしたタオルハンカチが人気を集めたりしました。
安価で品質の良い製品を作れる海外ルートを開拓したことも追い風に、2004年には蓮見清一社長(74)が「全雑誌、毎号、付録をつける」と大号令。現在、12誌が毎号、付録をつけており、09、10年には計3回、「sweet」が100万部に到達するなどの成果を出しています。
「付録は雑誌にとって、双発機の二つのエンジンの一つで、欠かせないもの」と関川さん。他社も雑誌に付録をつけるようになってきていますが、これまでの蓄積とともに、「うちは付録に対して真剣に、面白がってやっている」という自負をのぞかせます。
これまで「助っ人」みたいな形で、特別に付録企画に強そうな人材を引き抜いてきたことなどはないとか。
他社の知り合いに聞くと、編集部が絡まずに付録をつけたり、「『販売的に、付録をつけないといけない』と上層部から言われたからやってみた」というような例だったりがあり、そのようなケースは失敗することが多いそうです。
高品質な付録を武器に、他誌を圧倒する部数を誇る宝島社の雑誌。愛される付録は実際にどう作られているのか。「GLOW」の大平編集長に話を聞きました。
「GLOW」はそれまで、10代向けの「CUTiE」、20代向けの「SPRiNG」、30代向けの「InRed」に携わってきた大平さんが、ファッションと美容を2大テーマに10年10月に立ち上げた雑誌です。
「『GLOW』は女友達」がコンセプトで、「こんなのがあるよ」と教えたいアイテムを紹介したり、読者が困っているようなことがあれば企画で対処法を発信したり。読者に寄り添う姿勢を重視しています。
「美魔女」のようなコンセプトとは一線を画していて、大平さんは「加齢は否定しない。シワを気にせずに笑ったり、何事にも興味を持って挑戦したり、年を重ねたなりのきれいさを楽しんだ方が良いんじゃないでしょうか」と、ナチュラルで自然体な女性像を提案します。
この年代の読者層に向けた付録は、「可愛いだけでは納得していただけないところもある。クオリティーもそうだし、使いやすさとか役に立つとか、そういった部分も合わせて総合的に決めている」。
今年、一番ヒットしたのは、約50万部を売った8月号。付録として、人気セレクトショップ「ディーンアンドデルーカ」とコラボした保冷バッグがつきました。
このブランドの保冷バッグは常に人気のため、近年は毎年6月売りの恒例行事に。今回は、「ディーンアンドデルーカ」の食品を使ったレシピブックを読み物としてつけ、連動させています。
付録は、人気のブランドやセレクトショップの監修を受けながら、宝島社として制作するスタイル。冠婚葬祭や子供の学校行事などで使える黒色の「マナーバッグ」を付録につける9月下旬売りの11月号を例に取りましょう。
同誌の編集部は約10人で、大部分が読者層と同じ40代。半年ほど前から準備します。編集部員らによる編集会議でどんな付録をつけるかを考えた際、「そうそう使わないけれど、必要な場面がある」というマナーバッグに需要がありそうだ、というアイデアが何人かから出てきました。
次に、どことコラボをするか、を考えたところ、バッグブランドの「サザビー」が読者層と「同世代」に当たる45周年だ、という意見が出て、「サザビー」にお願いすることに。その後、付録担当の40代編集部員2人が中心になり、「サザビー」の担当者とやりとりしながら、アイデアを煮詰めていきます。
最終的には、編集長のほか、書店営業、広告、広報、マーケティングといったその雑誌に関わる全部門のトップや蓮見社長も出席するマーケティング会議で決定します。
会議では「(男性向けトレンド情報誌の)『モノマックス』は革製品の付録が当たっているから、革ものを連続でやった方が良いのでは」「過去、こういうものはあまりうまく行っていないんだから、同じように失敗するんじゃないか」などの社長の鶴の一声が出ることもあり、実際、結果を見ると的確なことが多いそうです。
今回、「GLOW」はマナーバッグに加え、袱紗やミラーをつけましたが、それは「サザビー」側のアドバイスを受けたもの。試作品をいくつも作りながら、仕上げます。
宝島社の雑誌は、部数や価格を号によって変えるのも特徴。昨今のトレンドをマーケティング担当部署がリサーチし、各雑誌の編集部に情報提供するなどのサポート態勢も充実しています。
各誌、毎号数十万部の発行規模を誇りますが、アパレルブランドが1商品当たりで作るロットと比べると桁違いの多さのため、スケールメリットが働き、質の良い付録も相対的に抑えた金額で作ることができます。
また、各ブランドの商品を人気の俳優やタレントが身につけた写真が紙面を飾りますが、雑誌社である宝島社は「取材」という形で芸能人にアクセスできるルートがあるのもポイント。
付録になり、その号で特集されることでブランドの魅力を知ってもらうことができ、それらのブランドが自前で作っている商品にも波及効果が生まれるため、ブランド側も宝島社とのコラボに積極的になる、という好循環が生まれています。
大平さんはこれからも「こんなこと考えもつかなかった、というような、全国の人達が欲しがる付録を作っていきたいですね」と話しています。
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