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ラジオネーム:ナイスミドルさんからの取材リクエスト
世界で一番短い国歌、長い国歌は?
「世界一長い」国歌の真相「55分」って本当?「30秒」で終わる国も…
オリンピックの表彰式では国旗掲揚と国歌演奏がされますが、世界で一番短い国歌、長い国歌はどこの国なんですか? ラジオネーム:ナイスミドル
国連には193カ国が加盟しています。それぞれの国に国歌がありますが、メロディーも曲の長さも色々です。サッカーの代表戦や五輪などで聞くことも多い国歌。世界で一番、長い国歌と短い国歌について調べてみました。
まず長い国歌から。世界で一番長い国歌としてよく名前があがるのがギリシャです。
国歌について詳しく、著書に『フットボールde国歌大合唱!』(東邦出版)がある、いとうやまねさんに聞きました。
「ギリシャ国歌の元々の歌詞は158節まであり、フルバージョンで歌うと間奏を入れて55分ほどあります。内容はギリシャの歴史にまつわる一大叙事詩で、おそらくは世界で一番長い国歌だと思われます」(いとうやまねさん)
158節の55分。たしかに長いです。ただ、いとうやまねさんによると、長い国歌はギリシャだけではないようです。
「ウルグアイ国歌もフルで歌うと50分近くあり、テンポによっては逆転する場合も考えられるため、正確なところはわかりません」(いとうやまねさん)
どちらも50分以上はあるようですが、表彰式でこれを流すと大変そうです。
「当然ながら、どちらの国歌も、行事に合わせていくつかある短縮バージョンの中から適当なものを選んで使用します。ギリシャの場合、オリンピックやワールドカップなどでは、1分強の2節のみのバージョンが使われています。ギリシャ国歌のフルバージョンを歌っている動画はネット上にアップされているので、興味のある人は探してみてください。メロディーもどんどん変わっていきます」(いとうやまねさん)
なるほど、2節でしたら、大丈夫そうです。
在日ギリシャ大使館も聞いてみました。
「国歌が長いという問い合わせはよくいただきます。詩自体は長いですが、歌うのは2番(節)までです」(在日ギリシャ大使館)
大使館によると、詩の作者はディオニシオス・ソロモス。1821年、ギリシャ独立戦争の際に作られたそうです。
次に短い国歌。
いとうやまねさんは「一番短いのがヨルダンで30秒、二番目がウガンダで40秒というのが定説になっていますが、実は違います。というのは、両国ともフルバージョンでは2分以上の長さがあるからです」と言います。
30秒なのか2分なのか、国歌にも色んなタイプがあるようです。
「ヨルダンの場合でいうと、段階を踏んで国歌が伸びてきた経緯があります。アラブ諸国にはもともと国歌を歌う習慣がなく、それに代わるものとして『アラブファンファーレ』という短いインストがありました。それが国際化により、歌詞が付け足され、曲を長く作り直す国が増えました。ヨルダンの30秒バージョンは、今でもサッカーの代表試合の国歌斉唱で使われることがあります」(いとうやまねさん)
在日ヨルダン大使館にも聞いてみました。
「たしかに国歌の曲の長さが短いことは認識しています。公式には42秒です。他に2分51秒のフルバージョンもありますが、スポーツイベントなどでは42秒バージョンを使っています」(在日ヨルダン大使館)
となると、一番、短い国歌はどこなのでしょう?
再び、いとうやまねさんの答えは…
「現在最も短い国歌は、フルバージョンで1分弱の『君が代』である可能性が高いです」(いとうやまねさん)
世界一短い国歌に、まさかの君が代が浮上する結果に。
著書『フットボールde国歌大合唱!』で国歌の魅力を伝えている、いとうやまねさん。国歌を調べ始めたのは、サッカーの試合がきっかけだったそうです。
「単に『気になった』というのもあります。サッカーの試合前に客席を含めたスタジアム全体の国歌大合唱が行われるわけですが、その内容がどうしても知りたくなったのが個人的な興味のはじまりです。スポーツ観戦を楽しんでいるうちに国歌に興味を持ったわけです」
そんな、いとうやまねさんにとって国歌の魅力とは何なのでしょう?
「オリンピックやサッカーワールドカップなどの国際大会は、国別で行われるため、国旗掲揚があったり、国歌斉唱の式典が必ず行われたりします。それらは国のアイデンティティーであり、他国へのリスペクトの対象でもあります」
「国を代表するものなので、国歌の歌詞には国の成り立ちや、超えてきた歴史、根本的な考え、宗教観が盛り込まれています。それらを知ることは、分厚い歴史書を読むよりその国を知る方法として端的で“入りやすかった”ということです」
なるほど、たしかに、国の象徴が長くても2分くらいにおさまっている。そんな存在は国歌だけかもしれません。
もちろん、世界にはたくさんの国歌があります。
相手の国の国歌を歌うことで国際交流を広める「国歌の輪プロジェクト」を主宰する浅見良太さんに、世界のユニークな国歌を聞きました。
浅見さんは「勇ましい西洋調の曲が多い国歌ですが、民族音楽のような国歌もあります」と言います。
「民族音楽のような国歌の代表がネパールの国歌『何百もの花束』です。2006年まで続いた王政時代には西洋調の曲が使われていましたが政変により王室が無くなり2007年に国歌も変更されました。メロディーは素朴さを感じさせるものでネパールに行ったことがある人が聞けば同国の町並みを思い出すはずです」(浅見さん)
<何百もの花々から生まれる一つの花輪>
浅見さんはそんなネパール国歌の歌詞にも魅力を感じています。
「花々は国民を表し、花輪は国を指します。みんなで力を合わせ美しい花を咲かせようと訴える歌なんです。例えがとても美しいと思いませんか? 政変直後、新たな国造りに取り組む国歌の作者や、この曲を国歌に選んだ人々の意気込みを感じることが出来る曲です」
もう一つ、浅見さんのおすすめは南アフリカ共和国。
南アフリカ共和国の国歌の名前は「“神よ、アフリカに祝福を/南アフリカの呼び声」です。
「ご覧のように二つのタイトルが一つの曲名になっています。この歌はタイトル通り二つの歌をつなげて作られた曲なんです。しかも前半は3つの言語、後半は2つの言語で歌われる特殊な曲です」
浅見さんによると、曲をつなげたのは、ノーベル平和賞受賞者のネルソン・マンデラ氏。アパルトヘイト政策を廃止した人物です。
「彼が大統領になると決まった際、アパルトヘイト政策を行っていた時代の国歌だった”南アフリカの呼び声”を廃止し、当時黒人たちのシンボルとなっていた“神よ、アフリカに祝福を”を国歌にしようという意見がありました。しかし、黒人と白人の共存の望んだマンデラはその理念を国歌に表すため二つの国歌をつなげました。現在でも黒人と白人が一緒に一つの国歌を歌っています。ネルソン・マンデラの理念を体現した曲と言えます」
浅見さんの「国歌の輪プロジェクト」では、各国大使館や外国料理店などでその国の国歌を歌うことで、様々な国を知ろうというイベントを開催しています。
「自分の国のことを知っていると言われ嫌がる人はいないですよね? 国歌を知っているというと大半の外国人は喜んでくれます。国歌は最強のコミュニケーションツールなんですよ!!」