「神社の人がパンダのかぶりものをしている」という写真つきの投稿がTwitterで爆発的に拡散されています。理由は「神社があまり知られていないから」と書かれていますが本当なのでしょうか? そもそもどうしてパンダ? そんなことやっていいの? 疑問だらけの神社に聞きに行きました。
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【動画】有鹿神社(神奈川県海老名市)のパンダのかぶりものをした神職さん。
ことの発端となったのは、7月23日のあるツイート。「神奈川の有鹿(あるか)神社の人が、パンダのかぶり物をしている」と写真つきの投稿で、理由は「神奈川で一番古い神社なのに、あまり知られていないから頑張っているみたい」としています。
8月2日時点で9万回以上リツイートされており、「倒れないように!」と心配する声や「有"鹿"なのに、パンダなの?」と疑問の声が集まります。
話を聞いたのは、有鹿神社(神奈川県海老名市)の禰宜(ねぎ)・小島実和子さん。禰宜とは、神社の代表である宮司の部下です。「会社でいう部長みたいなもんですよ」と小島さんは話します。
パンダのかぶりもの(「パンダヘッド」と呼んでいるそうです)を考案し、普段パンダヘッドをつけているのは小島さん。ツイートでパンダヘッドをつけていたのは、他の神職の方で、たまたま代わってもらっていたときに撮影されたそうです。
この有鹿神社、私が持つイメージとは異なる「新感覚神社」でした。まず小島さんとの出会いです。
いきなりのことで戸惑っている間にも、私と一緒に神社を探してくれたタクシーの運転手さんにもプレゼント。
かき氷は最近のお祭りで出していたそうで、この日神社に訪れた人に振る舞っていました。
まだ名刺もお渡ししてないのに恐縮です…と言って社務所の受付を見渡すとパンダ、鹿、シロクマ…明らかに私のイメージの「神社」と異なるベクトルの世界観が広がっています……!
ポップで不思議な空間、まるで友人の実家に遊びに来たような感覚です。
そんな中、2人でかき氷をシャコシャコつっつきながらインタビューが始まりました。
有鹿神社には水の神様が祀られています。水害から人々を守り、生物に恵みを与える、として子育て・厄除けで知られる神社です。
有鹿神社の由緒書きによると、発祥は現在の相模原市の勝坂、相模国(神奈川県の一部)では最も古い神社といわれています。
名前の「あるか」は、古い言葉で「水」を表すそう。「有鹿」という漢字が当てられていますが、「鹿」に由縁がある訳ではないとのことです。
どうしてパンダなのでしょうか?
「最初のパンダはこの子ですね」と言って、着物の袖から取り出したのはパンダのパペット。
パペットを使って有鹿神社を紹介する動画や写真をTwitterで発信していたのだといいます。
このTwitterを見た地元のテレビ局が、小島さんを取り上げることになったのですが、撮影数日前に担当者がパペットを見て…
ただそこで終わらないのが小島さん、期待に応えようとパンダのかぶりものを通販で買い、話題の「パンダヘッド」を完成させたそうです。
こちらも100円ショップなどで材料を買い、顔の形をしもぶくれにしたり、口の形を変えたり、笑っているような目にし、3~4日かけてカスタムしたといいます。
「神社はやや堅苦しいイメージがある」と話す小島さん。ただ本来は「神様」は日常の生活の中にいて、感謝の気持ちを身近に持つことが大切といいます。
神道的には、「パンダのかぶりもの」はアリなんでしょうか?
「では、参拝者もかぶりものをしてきてもよいのでしょうか?」と聞くと、「もしも予定があれば事前に連絡をいただきたい」そうです。小学校が近いので、ご迷惑にならないようにしているといいます。
炎天下のなか、パンダヘッドをかぶっていて大丈夫なのか、と心配する声もありますが、
パンダヘッドの内側には、ファンを装着することもできるそう
幼い頃から、宮司である父の姿を見て育ってきたという小島さん。自然と後を継ぎたいと考えるようになったといいます。
神職の資格が取れる20歳になったときに取得し、以降、親の手伝いをしてきたそうです。
近年、宮司の後継者が不足している状況にあるそうです。そのため、1人の宮司がいくつもの神社をかけもつ場合もあるといいます。
小島さんの父も、大学教授の本業の傍ら、全部で3つの神社を兼務しています。
「宮司がいくつも神社を兼務していたり、『氏子』と呼ばれる、その地域で神社のお世話をする方が高齢だったりすると、なかなか境内の掃除など行き届かない場合もある」と話します。
「普段何気なく訪れた神社も、ずっと昔から守ってきた人たちがいること、そして『汚い』神社にもそれなりの理由があることを知って欲しい」といいます。
地元の方々や参拝者による支えがあって、神社が成り立っていると話す小島さん。
「もしも余裕があればゴミを拾ったり、雑草を抜いたり、神社を守るお手伝いをしてほしいです」
こういった呼びかけは小島さんのTwitterアカウントでも発信されています。
「『パンダヘッド』で注目されたことをきっかけに、より多くの人に神道の考え方や、神社を守りたい気持ちが伝われば」といいます。
インタビューの数時間の間に、数組の参拝者が社務所を訪れました。その度に小島さんはおもてなしで行ったり来たり。
御朱印をもらうために訪れた女性(43)には、「待ってる間どうぞ」とお菓子をすすめます。
御朱印を書いてもらっている間、参拝者にはお菓子が振る舞われます。
テレビで取り上げられたのを見てやってきたという横浜市の男性は、パンダの置物を寄付していきました。
照れてすぐに立ち去ろうとする男性を追いかけて、お礼の粗品を渡します。「パンダを集めている訳ではないんですが」と少し困り顔ですが、「こうやって知ってもらえるのはありがたい」と話します。
夕方になると小学生3年生の女の子(8)と母親(42)が訪れました。「以前借りたお菓子の型を返しに来た」と言い、一緒に持ってきてくださったお菓子をみんなで食べます。
小島さんは月に1回程度、神社でそうめん流しやカルタ大会などイベントを催しているそうで、この親子もたまに参加しているとのことでした。
小島さんは「平日にやっているので1人も来ないこともありますが」と言いますが、これまでの催し物を思い出して語る姿はとても楽しそう。
女の子が鹿のぬいぐるみで遊んでいるのを見守りながら、「来月はなにやろうか」となごやかな空気が広がります。
母親は有鹿神社を「楽しい場所」といいます。小島さんのことも「偏見もないし、誰にでも優しい。話していて救われる」と絶賛です。
小島さんは「周りが見えないと神社じゃない」といいます。
「地域の人にとって、とっつきやすい場所でありたい。神社は神様に元気をもらって、元気を返すところ。身近に感じてもらえるように、これからも発信していきたい」と話しています。
振り返ると社務所の受付のぬいぐるみや、かき氷のおもてなし、また小島さんの人柄に、すっかり私は打ち解けてしまっていました。
パンダのかぶりものは確かにインパクトは抜群ですが、これだけではなく有鹿神社は生活の中にそっと寄り添い、人々の幸せを願う、そんな場所だと感じました。