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妊娠25週772gで生まれた次女 自宅から3時間以上離れた病院で

転勤の多い家族が直面した苦労とは

生後2週間のころの次女。妊娠25週で生まれ、NICUに入院していました
生後2週間のころの次女。妊娠25週で生まれ、NICUに入院していました 出典: 家族提供

目次

小さく生まれた赤ちゃんたち
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妊娠・出産では思いがけないトラブルに見舞われることがあります。2人の娘を育てる北海道の女性は、経過は順調と言われていたにもかかわらず、実家に帰省していたときに突然破水。妊娠25週で緊急帝王切開となり、772gの次女を出産しました。仕事のある夫は車で数時間かかる自宅で暮らさざるをえず、病院で1人で説明を受けるときには心細さがあったといいます。

【関連記事】「小さく産んでごめんね」 自分を責めてしまう母親たち…小児科医・ふらいと先生が伝えてきたこと
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朝5時、尿もれのような感覚が

「朝5時くらいに尿もれのような感覚で目が覚めました。でも、破水だとは思わなくて……」

北海道留萌市に住む髙橋日奈さん(38)は、2019年4月、予定日よりも105日早い妊娠25週0日(妊娠7カ月)で体重772g、身長31cmの次女・愛乃(あいの)さん(6)を出産しました。

多くの赤ちゃんは妊娠37〜41週(正期産)で生まれ、平均出生体重は約3000g、身長は約50cm。妊娠22~36週は早産になります。

髙橋さんは当時、北海道中部に住んでいましたが、幼稚園の年長クラスに通っていた長女(11)の春休み中で、北海道東部にある髙橋さんの実家に2人で帰省しているタイミングでした。

「ナプキンを何枚取り替えても止まらず、母に『おかしい』と言われて、2時間後くらいに通っていた病院に電話しました」

通っていた北海道中部の病院は、実家から車で4時間ほどの距離でした。電話で伝えると、「近くに系列の病院があるのでそこに電話をして、受け入れられなかったら救急車を呼んでください」と言われたそうです。

妊娠中「経過は順調」だった髙橋さんは、そのとき初めて「緊急性があるのかな」と感じたといいます。電話で病院が見つかり、母の運転で長女と一緒に1時間半かけて向かいました。

診察では、「羊水がほとんど空っぽの状態」と告げられました。

おなかの赤ちゃんの推定体重は800g。その病院では1000g未満の赤ちゃんを出産できる体制がなかったため、髙橋さんはそこからさらに、総合周産期母子医療センターがある病院に救急搬送されました。

NICUで次女と面会する髙橋さん
NICUで次女と面会する髙橋さん 出典: 本人提供

3時間以上離れた自宅から駆けつけた夫

搬送先で医師からは、「赤ちゃんは無事に生まれるかわかりません」と説明を受けました。

そのとき髙橋さんが真っ先に気になったのは、長女のことだったといいます。

「当時5歳のお姉ちゃんは神様に『赤ちゃんがほしい』とお願いしていて、誕生を本当に楽しみにしていたんです。赤ちゃんに会えないとわかったらどれほど悲しむか、なんと伝えようか、お姉ちゃんへの心配が強かったように思います」

すぐに緊急帝王切開の準備が進められ、破水から約9時間後に次女・愛乃さんが生まれました。

あとになって看護師から「赤ちゃん、小さく泣いていましたよ」と教えてもらいましたが、髙橋さん自身は麻酔の副作用で吐き気に襲われ、気づかなかったといいます。

「愛乃」という名前は、「みんなから愛をいっぱいもらえるように」と、病院で待っていた長女が考えてくれていたそうです。

夫は、自宅から車で3時間以上かけて駆けつけました。

髙橋さんが手術室から病室に戻ると夫がいて、「夫の顔を見てほっとして泣いてしまいました」と振り返ります。

愛乃さんと面会できたのは出産の翌日。夫と一緒にNICU(新生児集中治療室)へ行ったそうです。

髙橋さんは元看護師でしたが、子どもを担当したことはなく、治療を受ける愛乃さんを見て複雑な感情になりました。

「無事に産むことができてよかったという思いもありましたが、たくさん管がつながる娘を見ると『ごめんね』という気持ちが大きかったんです」

髙橋さんは病院到着時から39.8度の熱があり、赤ちゃんを包む膜に炎症が起きていたことがのちにわかりました。

しかし、医師には「お母さんが悪いわけではないから、自分を責めることだけはしないでくださいね」と声をかけられたといいます。

長女からの手紙。「ひなちゃんおめでとう たかはしあいのちゃんでもいい」と書かれています。長女が次女の名付け親になりました
長女からの手紙。「ひなちゃんおめでとう たかはしあいのちゃんでもいい」と書かれています。長女が次女の名付け親になりました 出典: 髙橋さん提供
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病院の説明を1人で聞く心細さ

愛乃さんはNICUで約3カ月、GCU(新生児回復室)で約1カ月治療を受け、夏に2784gで退院しました。

その間、長女は幼稚園を休んで髙橋さんと実家で生活し、夫は仕事があるため自宅で暮らしていたといいます。

「月曜日から土曜日までは毎日、車で往復3時間かけて母と長女と3人で病院に向かいました。長女はNICUに入れないので、母と公園で遊んでもらったり、買い物にいってもらったりしていました」

面会時間に制限はありませんでしたが、母と長女が待っていることもあり、1~2時間程度にしていたそうです。

愛乃さんは入院中、投薬や輸血、未熟児網膜症の治療を受けるなど、様々な医療処置がありました。その都度、医師から説明がありますが、夫は遠方で不在のため髙橋さんが1人で聞いていたといいます。

「娘に関する良い話も悪い話も1人で聞かなければならず、とても心細かったです」と話します。

「病院から連絡があるときは、だいたい良い話ではないことが多いですよね。離れて暮らす夫を呼ぶほどの話ではないと言われても、とても不安でした。『母に同席してもらっていいですか?』と確認したら、両親でないといけないらしく断られてしまって。母がいてくれたら心細さは半減できたかなと思います」

元看護師として医療者側の大変な立場も理解できるからこそ、医師や看護師には自分のつらい気持ちを打ち明けられず、「しんどかった」と語ります。

母には不安な気持ちを聞いてもらっていましたが、夜中に搾乳をしながら涙することもあったそうです。

その後、2022年に髙橋さんは北海道のリトルベビーサークル「ゆきんこ」を共同代表として立ち上げました。

同じく小さな赤ちゃんを産み、育てる人たちと話していると感情が一気に爆発し、涙があふれたといいます。「当時は本当に気持ちを抑え込んでいたんだと感じました」

生後100日を迎えた次女の愛乃さん
生後100日を迎えた次女の愛乃さん 出典: 髙橋さん提供

転勤生活で病院選びの大切さを実感

愛乃さんの1カ月検診を終えると、髙橋さん家族はいよいよ自宅で4人の生活をスタートさせました。

小さく生まれた赤ちゃんの場合、退院後も薬を飲んだり、発達がゆっくりだったりするため、定期的に受診する必要があります。

自宅近くの病院宛に紹介状を書いてもらいましたが、その病院には小さく生まれた赤ちゃんの専門的なフォローアップ外来がなかったそうです。

「退院時に『自宅に戻ったらどこの病院にかかりたいですか?』と聞かれましたが、正直どこが適しているのか全くわからず、お姉ちゃんが通っていた小児科を選びました」と話します。

「SNSでは小さく生まれた赤ちゃんに対してのフォローアップ検診やリハビリのような体験談が流れてきましたが、そのようなことはしてもらえませんでした。やはり発達はゆっくりだったので、このままでいいのか、ただただ不安でした」

ほかの医療施設を探そうとしていた矢先、愛乃さんが2歳のときに夫の転勤が決まり、家族で北海道南部に引っ越すことになりました。

「次の病院は自分でもいろいろ調べましたが、医師に『どの病院がいいと思いますか?』と聞いて紹介してもらうようにしました。引っ越した先の病院には小児のリハビリがあり、言語聴覚士さんや作業療法士さん、理学療法士さんがついてくれました」

病院選びの大切さを実感した髙橋さん。その2年後に現在の留萌市に引っ越しましたが、発達を診てくれる病院やリハビリ施設を探したり、自治体の保健師へ情報提供をお願いしたり、事前に相談先とつながるように心がけていたそうです。

髙橋さんが作った、出生体重・身長の「ウエイトベア」を抱っこする3歳の愛乃さん
髙橋さんが作った、出生体重・身長の「ウエイトベア」を抱っこする3歳の愛乃さん 出典: 髙橋さん提供

出生体重よりも重いランドセル

愛乃さんはことし、幼稚園の年長クラスになりました。地域の療育施設に通ったり、車で1時間かかるリハビリセンターで発達検査を受けたりしています。

かんしゃくが出たり、不安な気持ちを強く持ったりしていて、昨年にはADHD(注意欠陥・多動性障害)とASD(自閉スペクトラム症)のグレーゾーンと指摘されたそうです。

入学を前に、髙橋さんは小学校や放課後等デイサービスの見学も進めてきました。しかし、来春にも夫の転勤の可能性が高く、「転勤先の小学校に支援級があるか、放課後等デイサービスに入れるのか、不安が大きいです」と話します。

次に訪れる地域でもサポートにつなげやすいよう、髙橋さんは改めて愛乃さんの発達検査を受ける予定だといいます。

5月にはランドセル選びを始め、出生体重の772gよりも重い、約970gの黄色いランドセルに決めました。

「生まれたときは、1週間先、1カ月先、1歳になることも想像できなくて、『この先大きくなるのかな?』『ちゃんと成長できるのかな?』と先の見えない不安に襲われていました。6年後、生まれた体重より大きなランドセルを買う日が来て、きっと当時の私はびっくりだと思います」

「入学式までは転勤など不安は尽きませんが、心から『おめでとう』とお祝いできるように準備していきたいです」

幼稚園の年長になった愛乃さん。入学に向け、出生体重の772gよりも重い、約970gの黄色いランドセルを買いました
幼稚園の年長になった愛乃さん。入学に向け、出生体重の772gよりも重い、約970gの黄色いランドセルを買いました 出典: 髙橋さん提供
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低出生体重児に関する情報・サポートがあります

◆「低出生体重児 保健指導マニュアル」(厚生労働省・小さく産まれた赤ちゃんへの保健指導のあり方に関する調査 研究会) https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000592914.pdf

◆早産児育児ポータルサイト「Small Baby」 https://www.small-baby.jp/

◆「はじめてのNICU」 https://www.nicu.jp/

◆日本NICU家族会機構(JOIN) https://www.join.or.jp/

◆母子手帳サブブック「リトルベビーハンドブック」に関して NPO法人HANDS
https://www.hands.or.jp/activity/littlebabyhandbook/
 
 

日本では、およそ10人に1人が2500g未満で生まれる小さな赤ちゃんです。医療の発展で、助かる命が増えてきました。一方で様々な課題もあります。小さく生まれた赤ちゃんのご家族やご本人、支える人々の思いを取材していきます。

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