お金と仕事
〝月32時間勤務〟の正社員 トライアスロンで五輪目指す23歳
「『五輪に出る』軸のため、仕事で基盤を」
お金と仕事
「『五輪に出る』軸のため、仕事で基盤を」
トライアスロン選手として、2028年のロス五輪出場を目指している23歳の徳山哲平さんは今年4月から、新卒の正社員として働き始めました。月の就業時間は32時間。選手としては、今シーズンは海外含め10試合に出場しました。プロとして競技に専念する道もありましたが、なぜ二足のわらじを選んだのか。引退後も見据えたキャリア形成について聞きました。
トライアスロン選手・徳山哲平さんは今年、ネパールで開催されたアジアトライアスロンカップで3位に 入賞するなどの活躍を続け、2028年のロス五輪出場を目指しています。
徳山さんとトライアスロンの出会いは、中学生時代。
京都府出身の徳山さんは、小学生で陸上と水泳の両競技を始め、陸上では全国大会に出場するなど活躍していました。
「もっと上にいきたい」という目標のため、中学進学以降の競技の続け方を模索していました。その頃出会った地元の強豪トライアスロンチームでの体験をきっかけに「トライアスロンで世界を目指したい」という夢を持つようになったといいます。
高校、大学でスポーツと勉強の両立をしながら、「トライアスロンで五輪に出たい」という夢を追い続けてきました。
夢を追う一方で、「基盤を作りたい」という思いが出てきたのが大学3年生のときでした。
学生時代、プロも多く在籍するトライアスロンチームに所属していた徳山さん。
チームメンバーの中には、仕事をしながら競技を続けている人も、プロとしてスポンサーからの支援を受け競技一本で続けている人もいたといいます。
「周りを見ながら『自分がどうなりたいか』を考えた」徳山さんは、「競技を続けつつ、将来を見据えて仕事をしたい」と考えるようになったといいます。
競技に集中した生活を送っていると「普段から同じコミュニティー、同じ選手とだけの付き合いになってしまう。何も考えずにそこに止まっていると、ふと気付いたときに選択肢がない状態になってしまい、それは避けたいと思っていた」と徳山さん。
「いずれ競技人生が終わるときがくる。その時の準備として、いま仕事をするという選択肢をとりたかった」
「『五輪に出る』という軸をぶれさせないために、仕事という基盤を作る選択をしました」
そうは決めたものの、「就職活動」は困難だったといいます。
学生時代は早稲田大学のスポーツ科学部に在籍していたため、周囲にもスポーツ経験豊富な友人が多くいました。
「競技を続けつつ仕事もしたい」と、徳山さんと同様の選択肢を見据える友人もいましたが、「実際は活動に理解の得られる就職先が見つからず、結局『競技か、仕事か』の二択で選ぶ状況になりがちでした」。
徳山さんの場合は、学生時代からスポンサー探しを「飛び込み営業」で続けていました。現在働く人材サービスを運営する「ビースタイルグループ」とは、スポンサーを探す中で出会い、会社側からビジネスと競技の両軸でキャリアをつくる「デュアルキャリア」の方針を示してもらったのだといいます。
徳山さんの現在の働き方は、月32時間の就業時間以外は、トレーニングにあてるというもの。トレーニング時間は一日5時間から6時間ほどだといいます。就業時間は月32時間ですが、給与は正社員の給与体系にのっとっています。
海外遠征などの費用負担もあるため、正社員としての給与があることはアスリートとしてのメリットなのではないか尋ねると、徳山さんは競技にかかる費用はスポンサーからの支援でまかない、社員としての給与は生活資金ときっちりわけているそう。
「今後の人生の計画が立てられるので、固定給があるのはありがたく安心感がある」と話します。
仕事では、広報部員として、取材同席やメディア向けメール配信といった対外広報に加え、社内報の制作や現場部門で得た情報を発信内容に反映する社内広報も担当しています。
同社では、かねてから柔軟な働き方ができるよう在宅勤務制度を整えていることや、子育てや介護をしながら働く社員を対象として 、午前5時から午後10時までの間であれば、出社在宅を問わず自由に組み合わせて働くことができる 「オクトワーク」という制度があります。そのため、元から徳山さんの働き方を後押しできる環境は整っていたそう。
上司である岩﨑亜希さんは「時短で働いている社員や、子育てで急きょ早退する社員に対して周囲が『行ってらっしゃい』と自然に声をかけるなど、お互いの働き方を尊重し合う 社風です。当社は働き方の選択肢を社会に創ってきた会社であり 『仲間の成功をサポートする』という会社理念が根付いています」。
徳山さんも「引け目は全く感じていない」と話します。
トライアスロンのシーズンは4月から11月。これまではリモートワークが多かったといい、新入社員として迎えるオフシーズンは最近始まったばかり。
岩崎さんは「オフシーズンは、出社も可能ということなので、この期間を使って営業に同行してもらったり、取材同席やメディアとの打ち合わせ、自らメディアへアプローチすることにも挑戦してもらうなど、広報としての視点を育てながら会社をより深く知る期間にしてもらいたいと思っている」と話します。
徳山さんは「アスリートとしての時間と、会社員としての時間の気持ちの切り替えが難しかった」とこの半年を振り返る一方で、「仕事をしながら競技を続けるということは、アスリートではない目線を培える。大変さもあるけど、それ以上に得られるものが大きい」。
「様々な選択肢を持つことが、豊かな人生につながっていくと感じます」
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