感動
「ありがとう」なくても…高校生が英語で綴った、〝モヤモヤ〟の表現
メッセージ受け取るため、自分の視野を広げる――。
感動
メッセージ受け取るため、自分の視野を広げる――。
Thank you without saying――。
小学生の頃に経験した、クラスメイトとの印象的なやりとりを英語で表現した高校生が、「IIBC高校生英語エッセイコンテスト」で最優秀賞を受賞しました。時間をかけてエッセイを書く中で、「小学生の頃に経験したモヤモヤとした思いを言語化することができた」という高校生に、話を聞きました。
小学生の頃のクラスメイトとのやりとりをエッセイにしたのは、仙台育英学園高校1年の圡屋遼人さんです。
圡屋さんが小学校低学年の頃、クラスにコミュニケーションを得意としないクラスメイトがいたといいます。学校にいる間は一人でいることが多く、授業中に発言するようなこともなかったといいます。
そのクラスメイトに対して、授業中にサポートをする必要がある場面もあり、「困っている様子だったときなどはクラス全体で手伝っていました」。
ある日のこと、圡屋さんがサポートをする機会がありましたが、クラスメイトは頷いたり目を合わせたりする反応はなく、感謝の言葉もなかったのだといいます。
圡屋さんは少し口ごもりながら「僕自身、何かをすると見返りを求めてしまうタイプなんです」と話します。「家で手伝いをすれば、両親から『ありがとう』と返ってくるし、習い事の空手の練習中に年下の子に教えたら感謝をされていた。それが当たり前だと思っていました」
そのため、その子からの反応がなかったことが「非日常の体験というか、初めての状況でした」。だからこそ、この経験が深く印象に残っていたのだそう。
エッセイでは、このときの感情を圡屋さんは「But honesty, I was bothered.I had expected something–small〝thank you,〟a smile,anything.(正直なところ、私は困惑しました。私はなにか期待していたんです。小さな「ありがとう」とか笑顔とか、なにかそういうものを)」と綴りました。
「英語をスラスラと話せるわけではない」という土屋さん。このエッセイを書く前に、日本語で当時の自分の気持ちを整理していたといいます。
「経験をどう感じ、自分の中でなにが変わり、エッセイで何を伝えたいのか、構成を練りました。夏休みの課題としてやったのですが、その中でもだいぶ時間をかけました」
日本語で当時の自分の気持ちを整理する時間と同じくらいの時間をかけて、英語での表現も検討したといいます。
その苦労の中で、特に時間をかけて考えたのが、「But honesty, I was bothered.I had expected something–small〝thank you,〟a smile,anything.」の一文でした。
そもそも、クラスメイトの手伝いをしたのに反応がなかったときの、当時の自分の気持ちを最初は日本語でも表現することができませんでした。
「期待を裏切られたというか、返ってくるはずの反応が返ってこないことを、自分はどう感じたのか。『僕がしたことって、感謝されるべきことなのでは?』とも思った」
エッセイの中ではそれを「不満だった」という意味の「frustrated」という表現にもしましたが、辞書を引いてすぐに出てくる単語だけではなく、もっと丁寧に伝えられるはず――。それが、「But honesty, I was bothered.I had expected something–small〝thank you,〟a smile,anything.」でした。
しかしこの経験には続きがあります。
翌日、圡屋さんが席につくと、机の上に丁寧にたたまれた一枚の紙が置いてあったのだといいます。開いてみると、「ありがとう」と丁寧に書かれた文字。
名前は書かれていませんでしたが「割とすぐに『あっ』と気付いた」。
圡屋さんは当時の思いを、「その子が書いたものだと気付いた『あっ』もあるけど、不満のようなものを感じていた気持ちがある意味報われて、欠けていたものが埋まった感じもありました」。
このエッセイで圡屋さんは「That moment changed how I understood communication.(その瞬間、私はコミュニケーションへの理解が変わりました)」とつなぎ、相手の気持ちを「受け取る側」が視野を広げる必要性に触れています。
「実は身の回りには、色んな人からの感謝の気持ちが様々な方法で伝えられている。でもそれを受け入れられるかどうかは、自分自身の気持ち次第だと思います。感謝だけでなく、人から発される様々なメッセージを受け取れるように、僕自身が視野を広げることが必要だと考えています」
エッセイでは、小学生の頃の経験を振り返るだけでなく、コミュニケーションとは何なのかの思考を深めた様子がうかがえますが、圡屋さんは「エッセイとして言葉にしたことで、新たに気付けたことです」と話します。
自分自身で気付けたことを、エッセイの読者にも伝えられるよう表現を工夫した際、役に立ったのは国語の授業だったといいます。
「前半で『何の話だろう』と思わせ、後半で伏線を回収する構成や、物語を読んでいるように感じてもらえる文章の書き方は、国語や英語などの教科の垣根を越えて、学んできたことが生かせたように思います」
コンテストの主催者は、作品募集のテーマである「つながる心、広がる世界~コミュニケーションを通じた響きあい~」に即し、「どのような場面で心がつながったと感じたのか」、「心がつながったことにより今までの考え方や社会を見る目がいかに広がったのか」の2点を分かり易く表現していることが評価につながったとしています。
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