連載
#14 みぢかなイスラム
ドバイで「有罪」日本人カップルが検挙された「予想外の理由」
ドバイ旅行をするとき、初心者は注意が必要なことがあります。中東ならではの、日本人にとっては予想外のルールとは。検挙されてしまったカップルの行動は、どこが問題だったのでしょうか。
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#14 みぢかなイスラム
ドバイ旅行をするとき、初心者は注意が必要なことがあります。中東ならではの、日本人にとっては予想外のルールとは。検挙されてしまったカップルの行動は、どこが問題だったのでしょうか。
中東きっての観光地で、訪れる人の数は東京やニューヨークより多いというドバイ。滞在中の日本人カップルが、意外な理由で有罪判決を受けたと報じられました。見た目は開放的な都市ですが、れっきとしたイスラム教社会。日本や欧米と同じ感覚でいると、「落とし穴」があるかもしれません。
ドバイの英字新聞「ガルフ・ニュース」によると、日本人カップルが検挙されたのは今年3月。氏名や職業などは明らかにされていません。
非番の警察官が親族とビーチへ向かう途中、不審な動きをする車を発見。車内で男女が性行為に及んでいると判断し、警察に連絡しました。
現場にいたのは41歳の男性と28歳の女性。検挙時、どうやら裸だったようです。男性は調べに対し、近くにある高級ホテル「マディナ・ジュメイラ」で酒を飲み、気分が悪くなったので嘔吐するために服を脱いだと説明。性行為はしていないとして、無罪を主張しています。
ただ、ガルフ・ニュース紙によると、2人が問われた罪は公然わいせつ罪ではありませんでした。結婚していないのに性交をした罪と、飲酒の罪だったということです。
ドバイがあるアラブ首長国連邦は、イスラム教を国の宗教(国教)として定めています。
ただ、サウジアラビアやイランのように、外国人女性にスカーフや、体の線を隠す服の着用を強制するようなことはありません。
真冬でも気温は20度以上、夏場なら50度近くになる土地柄で、ノースリーブやショートパンツ姿の観光客もごくふつう。プールやビーチでは誰もが当然のように水着を着て、肌を露出させています。
中東ではかなり寛容だと言えます。
ドバイは交易で発展してきた都市ですが、近年は観光に力を入れています。世界一の高層ビル「ブルジュ・ハリファ」(828メートル)がそびえ、「ドバイモール」など巨大ショッピングモールが立ち並び、超高級ホテルが軒を連ねるさまは、どこまでもバブリー。
ドバイを拠点とするエミレーツ航空は世界でも指折りのエアラインに成長し、日本にも成田、羽田、関空に直行便を毎日飛ばしています。
マスターカードの調査によると、2016年のドバイの宿泊者数は1527万人で世界第4位。東京(1170万人)、ニューヨーク(1275万人)を超え、パリ(1803万人)やロンドン(1988万人)に迫っています。(ちなみに1位はバンコクの2147万人)
外国人観光客の気持ちをつかむため、あまりうるさいことは言わないようです。
ただ、こと「男女の交わり」となると、話が違ってきます。
結婚していない男女の性行為は違法。結婚せずに子どもを産むことも違法。結婚前に同棲することすら違法で、結婚していない男女がホテルの同じ部屋に泊まることも厳密には違法。不倫のほか、同性愛も違法です。
さらに、公共の場所でのキスは違法。ハグも違法で、やっていいのは手をつなぐところまでとされています。
ちなみにキスやハグでも、刑罰は「最短で拘束6カ月」と刑法に書かれているそうです。
酒は、旅行者が利用するようなホテルやレストランでは自由に飲めます。空港の入国前にある免税店でも買うことができ、量の制限はありますが、国内に持ち込めます。許可証があれば空港外の商店でも買えます。ただし、公共の場所でひどく酒に酔うことは違法です。
こうした法律の規定は、イスラム教の原則にもとづいています。
これを書いている私は3月まで隣国イランに住んでいました。3年半あまりの間に、出張でドバイを20回ほど訪ねた経験があります。
ドバイの人口は約280万人ですが、アラブ首長国連邦の国籍を持つ人は23%に過ぎず、8割近くが外国人労働者。インド、パキスタン、フィリピンなどの人が多く、郊外には中国系の巨大なショッピングモールもあります。欧米人も珍しくありません。なので、実はイスラム教徒の方が少数派です。
ドバイに住む外国人たちの話を聞く限り、婚前交渉は当たり前のようです。あるタクシー運転手は「複数の彼氏、彼女と関係があるなんて珍しくもないよ」。自由恋愛の形をとった売春も行われているとのことでした。
とは言え、人前でイチャイチャしている人を見ることはまずありません。また、性的サービスを提供していた業者が手入れされたというニュースもたまに聞きます。
イスラム教国としてのメンツや社会の秩序を保ちつつ、なるべく多くの外国人を引きつける。ドバイの警察はそんなバランスを保とうとしているようです。人前であからさまな違法行為があれば、厳しく取り締まられることもあります。
2013年には、同僚に強姦されたと訴えるノルウェー人女性が、「結婚をしていない相手との性交」などの罪で裁判所から禁錮1年4カ月の有罪判決を下されていたことが発覚。ドバイ当局は、この女性が同意の上で性行為に及んだとしています。なお、女性は後に恩赦を受けて釈放されました。
さて、問題の日本人カップル。
記事によると、ドバイの裁判所は、「結婚をしていない性交」で2人に禁錮1カ月の執行猶予付き判決、酒を飲んだ罪で女性に罰金2000ディルハム(約6万円)の判決をそれぞれ出し、男性の飲酒については無罪としたそうです。また、2人とも国外退去を命じられたとのことです。
これに対し、2人は判決を不服として控訴。9月に控訴審が開かれるとされています。
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