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「ひのきのぼう」に込めたドラクエ精神 堀井雄二が語ったこだわり

「ひのきのぼう」のアイテム名に込めた思いを語る堀井雄二さん=合田但撮影
「ひのきのぼう」のアイテム名に込めた思いを語る堀井雄二さん=合田但撮影

目次

 ドラゴンクエストに出会った時から気になっていたこと。なぜ「ひのきのぼう」は、ただの「ぼう」ではなく「ひのき」なの? 30周年という節目の年、生みの親である堀井雄二さんに、長年の疑問をぶつけてみると……「絶対、ひのきのぼうなんです」。返ってきたのは明快な答え。最弱アイテムの名前には、初代から11作目となる新作「XI」まで守り続けてきた「ドラクエ精神」が込められていました。

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ドラクエの新作について語る堀井雄二さん(左)、プロデューサーの齊藤陽介さん(右)、ディレクターの内川毅さん(中央)=合田但撮影
ドラクエの新作について語る堀井雄二さん(左)、プロデューサーの齊藤陽介さん(右)、ディレクターの内川毅さん(中央)=合田但撮影

記憶に残る最弱アイテム

 「ひのきのぼう」。ドラクエファンなら、誰もが目に浮かぶなじみのあるアイテム名です。

 ゲームのスタート時に最初の装備として用意されますが、あまりの弱さに使われないことも少なくありません。

 ただ、最初は持っているアイテムの数が多くないこともあり、その後の強そうなアイテム名よりも何だか記憶に残ってしまう不思議な存在です。

なぜ「ひのき」なのか?長年の疑問をついに生みの親にぶつけることに…
なぜ「ひのき」なのか?長年の疑問をついに生みの親にぶつけることに… 出典:https://pixta.jp/

「すぐにわかる。もう絶対、ひのきしかない」

 「ひのき」は、家具などでは高級な材料として知られていますが、武器としては、マイナーな木材です。木刀で一般的な木材はカシです。

 なぜ、「ひのきのぼう」なのか? 堀井さんは「音ですね」と、そのアイテム名に込めた思いを教えてくれました。

 「『ひのき』って一つの単語じゃないですか。すぐにわかる。もう絶対、ひのきしかないって思いました」

 当時、剣(つるぎ)や、こんぼうの他に、弱い武器を考えていたという堀井さん。

 「ただの棒じゃだめ。でも『かしのぼう』だと、お菓子みたい。それに『かし』って言われても平仮名だと何だかわかんない」

 初期のドラクエは、使えるデータ量(メモリー)が少なかったため、まだ漢字は使えませんでした。そんな中、名前を決める際、大事だったのが平仮名にした場合の伝わり方でした。

 今とは考えられない開発条件の中、最弱のアイテムだと「一目でわかる」名前が「ひのきのぼう」だったのです。

「『ひのき』って一つの単語じゃないですか。すぐにわかる。もう絶対、ひのきしかないって思いました」と語る堀井雄二さん=合田但撮影
「『ひのき』って一つの単語じゃないですか。すぐにわかる。もう絶対、ひのきしかないって思いました」と語る堀井雄二さん=合田但撮影

「ドラクエは、誰でも、わかりやすく遊べるゲーム」

 「一目でわかる」。これは、ドラクエがずっと守ってきた考えです。

 堀井さんは最新作の「XI」でも「簡単に直感的にできる。ドラクエは、誰でも、わかりやすく遊べるゲーム。これは変わりません」と言います。

 堀井さんと一緒に開発に携わったディレクターの内川毅さんは、子どものころにドラクエに熱中した世代です。今、生みの親である堀井さんと仕事をする中で「三つのこと」を大事にしているそうです。

 「わくわくする冒険心。見た目の温かみ。そして、わかりやすさ。この三つは外ささないように。そこは変えないように心がけました」

兄弟でドラクエを遊んでいた時は「レベル上げ担当」だったという内川毅さん=合田但撮影
兄弟でドラクエを遊んでいた時は「レベル上げ担当」だったという内川毅さん=合田但撮影

「主人公は、相変わらずしゃべんないです」

 主人公が言葉を発することがないのも、ドラクエの特徴です。

 「新作でも相変わらずしゃべんないです。主人公はプレーヤーの意に反した行動はしないんです」と堀井さん。

 そんな堀井さんの思いを、開発陣は最新のゲーム環境でも形にしようと試みました。

 内川さんによると、グラフィックの表現力が上がると、主人公が立っているだけで何もしない時間が続く場面で違和感が出るそうです。

 そのため、プレーヤーが「こんなこと自分は思っていないのに…」と思われないレベルで、表情や動作を加えているそうです。

2017年7月29日発売のシリーズ11作目となるドラゴンクエスト。主人公は最新作でもしゃべらない=スクウェア・エニックス提供
2017年7月29日発売のシリーズ11作目となるドラゴンクエスト。主人公は最新作でもしゃべらない=スクウェア・エニックス提供

「ドラクエって挑戦の歴史なんです」

 内川さんは「ドラクエって、形を変えずに今までやってきたかというと全然、そんなことはない」と言い切ります。

 シリーズ9作目の「IX」では、複数のプレーヤーが「すれちがい通信」で盛り上がれるマルチプレーを実現させ、10作目の「X」ではオンライン上で、複数のユーザーが同時に同じ冒険世界で遊べるように。そして、新作「XI」では、PlayStation®4とニンテンドー3DS™という異なるゲームメーカーの二つのゲーム機での同時発売に挑んでいます。

 内川さんは「ドラクエって挑戦の歴史なんです。新しい試みでお客さんをひきつけるところが、開発陣の目指すべきところかなって思っています」と話します。

新作の発表会で「ドラゴンクエストⅪ」を紹介する堀井雄二さん=2015年7月28日
新作の発表会で「ドラゴンクエストⅪ」を紹介する堀井雄二さん=2015年7月28日

「人を選ばずに安心して遊べる、数少ないタイトル」

 30年続いたシリーズは、日本のゲームの歴史でも珍しい存在です。30年の間に、ゲームをする人は日常風景となり、ゲーム機の性能も進化しました。たくさんのジャンルが生まれ、ファンの好みも細分化しています。

 そんな状況について、「XI」のプロデューサーの齊藤陽介さんは「ユーザーの好みがニッチなところにいっているのが今のゲーム市場」と分析。その上で、ドラクエは「子どもからお年寄りまで、人を選ばずに安心して遊べる、数少ないタイトル」と言います。

「ドラクエは子どもからお年寄りまで、人を選ばずに安心して遊べる、数少ないタイトル」と話す齊藤陽介さん=合田但撮影
「ドラクエは子どもからお年寄りまで、人を選ばずに安心して遊べる、数少ないタイトル」と話す齊藤陽介さん=合田但撮影

「ゲームによって、今の自分がちょっと変われる」

 今、自分が生み出したドラクエに熱中していた世代と一緒に新作を作る立場になった堀井さん。開発する中で考えているのは堀井さんなりの「ゲームの役割」です。

 「娯楽ってある種、現実逃避の面があると思うんです。つらいことを忘れられるとか……」

 「そして、得られるものもある。がんばれば何となるとか。ゲームすることによって、今の自分がちょっと変われる。ドラクエで実現したいのは、そういうところだし、その思いがあったから30年続けてこられたんだと思います」

「ゲームすることによって、今の自分がちょっと変われる。ドラクエで実現したいのは、そういうところ」と話す堀井雄二さん=合田但撮影
「ゲームすることによって、今の自分がちょっと変われる。ドラクエで実現したいのは、そういうところ」と話す堀井雄二さん=合田但撮影

 初代ドラクエで印象的なシーンがあります。ゲーム開始直後、城を出たプレーヤーがまず目にするのが最終目標である竜王の城です。これ以上ないわかりやすさで、冒険心を刺激する演出は、堀井さんが自分でゲームの地図を作りながら物語を紡ぐ中で生まれました。

 最新作では、堀井さんの思いを受け止めて、若い開発陣がキャラクターの細かな動きでも「わかりやすさ」を徹底させています。

 「直感的に楽しめて、子どもからお年寄りまでわくわくさせたい」

 「ひのきのぼう」から3D表現まで、世代を超えて集まった開発チームが30年間、大事にしてきたもの。シリーズの人気を支えているのは、そんな「ドラクエ精神」なのかもしれません。

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