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2017年07月20日

「落ちていたごみ」に最高点 94歳の美術家が伝えたかったこと


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高﨑さんの作品「COLLAPSE 現代美術の崩壊」=高知市

高﨑さんの作品「COLLAPSE 現代美術の崩壊」=高知市

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 敷き詰めたコンクリートブロックをハンマーで砕いたり、キャンバスを正方形に切り抜いて並べてみたり……。「誰もやらないこと」「見たことのないもの」にこだわり続けた、美術作家の高﨑元尚さんが6月22日、94歳で亡くなりました。地元の高知県立美術館で、新作展が開幕したわずか5日後のこと。高﨑さんの〝最後〟の展覧会には、独自の表現を貫いた生き様が刻まれています。

美術作家の高﨑元尚さん=2017年4月、河上展儀氏撮影

美術作家の高﨑元尚さん=2017年4月、河上展儀氏撮影

94歳の新作展、タイトルは「破壊」

 「齢94を超えてもなお創作に挑み続けている美術作家の全点新作による展覧会を開催します」
 
 今年5月、新米美術担当の私のもとに届いた展覧会の案内文には、こんな言葉が書かれていました。

 しかもタイトルは「破壊」。……なんて攻めてるんだ!!

 このエネルギッシュな作家に会ってみたい。そう思い、6月17日の開会式に合わせ、高知県立美術館(高知市)の「高﨑元尚新作展―破壊 COLLAPSE―」を取材に行きました。

 (ただ、高﨑さんは体調不良で開会式を欠席し、直接お会いすることはできず……。「お元気になったら、ぜひ話を聞いてみたい」。このときはそう考えていました)

高知県立美術館に展示されている高﨑さんの作品=高知市

高知県立美術館に展示されている高﨑さんの作品=高知市

 ひとつ目の展示会場に入ってすぐにあるのが、この作品。

 ……どこに作品が?と思って目を凝らすと、この壁自体が、鉛を壁に貼り付けた「密着」という空間作品なんだそう。

 たしかに、よく見ると壁に「密着」の文字が。

高知県立美術館に展示されている高﨑さんの作品=高知市

高知県立美術館に展示されている高﨑さんの作品=高知市

 こちらは、鉄管を張り巡らせ、波形スレートを取り付けて、破砕した作品です。

 間近で見ると、言葉を失ってしまうような迫力があります。

高﨑さんの作品「LANDSCAPE」=高知市

高﨑さんの作品「LANDSCAPE」=高知市

 コンクリートブロック2100個を敷き詰め、ハンマーで砕いた「COLLAPSE」は、作品の上を歩くことができます。鑑賞者が歩くことで、ひび割れたブロックは崩れ、表情を変えていきます。

 実際に歩いてみると、コンクリートの硬さと、ぐらぐらとした感触が足の裏から伝わってきます。

コンクリートブロックを敷き詰め、破砕した「COLLAPSE」=高知市

コンクリートブロックを敷き詰め、破砕した「COLLAPSE」=高知市

「生き延びる道はこれしかないと観念して・・・」

 これらの作品は、高﨑さんが1972年から手がけてきた「破壊」シリーズの空間作品(インスタレーション)です。
 
 展示室には、「破壊にいたるわけ」と題した文章が掲げられています。

一か八か、生き延びる道はこれしかないと観念して、ハンマーを振るって、目的のない土木作業を始めていた。

(中略)自分を壊すかわりに物を壊し、これを作品と称する心境に立ち至った。

展示室に掲げられた文章「破壊にいたるわけ」=高知市

展示室に掲げられた文章「破壊にいたるわけ」=高知市

 高﨑さんは1923年、高知県香北町(現香美市)に生まれました。農家の長男として生まれましたが、足腰が弱くて重いものを持ち上げられず、小学生の時は集落の共同作業でいつもくやしい思いをしていたそうです。

 東京美術学校(現在の東京芸大)に進み、卒業後は公立中学校の教諭を経て、母校の土佐中高校の教諭に。美術を教えながら創作に励みました。前衛美術集団の具体美術協会にも参加していました。

落ちていたゴミ提出した生徒に最高点

 長男の元宏さん(59)によると、高﨑さんは自分の作品について、家族にあれこれ説明することはなかったそうです。

 「作品を見せて『面白いろう?』としか言わんかった」と元宏さん。

 美術の授業でも、常識を打ち破る発想や、面白いものを見つけることを大切にしていました。落ちていたごみを課題として提出した生徒が、最高点をもらったという逸話も残ります。

高﨑さんの作品「COLLAPSE 現代美術の崩壊」=高知市

高﨑さんの作品「COLLAPSE 現代美術の崩壊」=高知市

 今回の個展は1年ほど前から準備を進めていましたが、高﨑さんは5月上旬に心不全で入院。6月の搬入作業や作品の設置には立ち会えず、元宏さんが写真を見せました。人工呼吸器を使っていて声は出せませんでしたが、ベッドの上で手を大きく動かしながら喜んでいたそうです。

 6月17日の開会式には、元宏さんや、妻の佳恵さん(87)が出席しました。開幕後、病院で「無事に始まったよ」と伝えると、笑顔を見せていました。

 しかし、開会4日後の21日に意識がなくなり、22日未明、息を引き取りました。

高﨑さんの作品にちなんで「テープカット」ではなく、「コンクリートブロック鏡割り」で開幕。中央が妻の佳恵さん=高知市

高﨑さんの作品にちなんで「テープカット」ではなく、「コンクリートブロック鏡割り」で開幕。中央が妻の佳恵さん=高知市

二度と見られない「破壊」作品

 絵画や彫刻と違って、空間そのものをみせるインスタレーションは、展示が終わると二度と同じ空間を体感することができません。

 高知県立美術館の松本教仁学芸員(51)は「『破壊』シリーズを実際に見られる最後の機会になってしまった。多くの人に高﨑さんのスケール感を体感してもらいたい」と話します。

 高﨑さんは、鑑賞者にどんなメッセージを送るのでしょうか。
 
 「見る人が自由に見てくれたらいい。本人なら、きっとそう言うと思います」と元宏さんは、静かに語りました。
 
 実際に作品を見た私は、「壊されたもの」が作り出す空間に、心がざわざわし通しでした。
 (例えると、窓ガラスが割れた荒れたビルを見た時のような、落ち着かない気分でした)

 一方で、それぞれの作品には美しさがあり、特にコンクリートブロックが整然と並ぶ「COLLAPSE」は、ひび割れた表面の陰影を何時間でも見ていたい気持ちになります。

コンクリートブロックを敷き詰め、破砕した「COLLAPSE」=高知市

コンクリートブロックを敷き詰め、破砕した「COLLAPSE」=高知市

 とっつきにくいと感じる人も少なくない現代美術の世界ですが、間近で迫力を体感できる今回のような作品は、子どもから大人まで楽しめます。
 
 美術館なんて全然行かない!という人にこそ、気軽に足を運んでみてもらいたいです。

高﨑さんの作品「LANDSCAPE 1/2×1/2」=高知市

高﨑さんの作品「LANDSCAPE 1/2×1/2」=高知市

 「高﨑元尚新作展―破壊 COLLAPSE―」は7月23日まで。高知県立美術館(088・866・8000)。一般900円、大学生600円、高校生以下無料。会期中無休。

破壊・破壊・破壊…94歳、美術家が伝えたかったこと
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高﨑元尚さん=2017年4月、河上展儀氏撮影
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