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お金と仕事

ペッパーに服を着せたい! 元プロレスラーが切り開いた「新市場」

泉幸典さんが開発した服を着たペッパー=ソフトバンクロボティクス提供
泉幸典さんが開発した服を着たペッパー=ソフトバンクロボティクス提供

目次

 「ソフトバンク」グループに認められ、ペッパーの「公式ユニホーム」を手がけるアパレルブランドが福岡市にあります。その名も「ロボユニ」。元プロレスラーの泉幸典・Rocket Road代表取締役(46)が市場を切り開きました。ググって片っ端からアポを取る。面識がないのにメッセを送る。「失敗を恐れずにばんばん挑戦」。リング仕込みの開拓精神を聞きました。

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泉幸典さん。パソコンにはロボットたちのシールが貼られている=東京都港区
泉幸典さん。パソコンにはロボットたちのシールが貼られている=東京都港区

取扱説明書代わりのユニホーム

 ペッパーは本来、加熱や静電気のリスクから服を着ることは想定されていません。

 それでも「ユニホームは、第三者に私は何者かというのを分かってもらう認識記号」と、「ロボユニ」ブランドを立ち上げたの泉さんは話します。

 医者の白衣や警察官の制服を例に挙げながら、明治維新後、字が読めない人でも「病気になった時、物を盗まれた時、あの人に助けを求めれば良い」ということを「取扱説明書」なしに認識させるのに役立つ記号になった、と説明します。

 それと同様に、ロボットが銀行員の服を着ていたら「銀行のサービスについて教えてくれるんだな」と分かり、ロボットに個性が生まれる。そしてそのような服を作ることができるのは、銀行やロボットメーカーではない。

 泉さんは「僕たちが携わることで、ロボットはもっと普及が加速するし、人間はもっとロボットを活用することができて、より人間らしいことに時間を使うことができる。これは僕がやるべき使命だと思った」と話します。

【関連リンク】ロボユニのホームページ

100社にメール

 「まずはロボットに詳しい人たちとつながろう」と思った泉さん。

 「日本 ロボット」とネットで検索して出てきた約100社に、「アパレルが、人型ロボットの普及に役立つ可能性があるので、会ってもらえませんか」などとメールします。

 その中で唯一会ってくれたロボット関連サービスの「ロボットスタート」(東京)のアドバイスを受けながら、試作をしました。

【関連リンク】ロボットスタートのホームページ

試作30回、ようやく納得

 ですが、例えばペッパーは、肩の位置や可動域が実は人間と違います。体の前の方にタブレットをつけているので、重心も人間より前寄りです。なので、「人間として認識するのではなく、人間っぽい形をした電子機器のカバーを作る」と考え、計約30回ほどの試作を経て、ようやく納得できるものができました。

 その後、ロボットスタートが話を持ち込んだ先のみずほ銀行が「世界で一番初めにやるんだったら、うちでやりたい」と反応。

 昨年5月、宝くじ関連の対応をする人工知能ワトソン搭載のペッパーを同行が支店に置く際、泉さんたちが開発した法被型ユニホームを着た形でお披露目となりました。

服を着たシャープのロボホン=同社提供
服を着たシャープのロボホン=同社提供

連携次々

 その後、話はとんとん拍子に進み、ソフトバンク側からも「ロボユニのブランドで提携がしたい」と「ペッパー公式ユニホーム」という形でオファーがあり、昨年8月より販売開始。

 その後も、シャープのコミュニケーションロボット「ロボホン」、米国企業AKA開発の英語学習用ロボット「ミュージオ」、FRONTEOコミュニケーションズの人工知能搭載ロボット「キビロ」など次々と、提携が進んでいます。

服を着たAKA社のミュージオ=同社提供
服を着たAKA社のミュージオ=同社提供

思い立ったら猪突猛進

 思い立ったらとにかく突き進む。

 「ロボユニ」が生まれる前の「シリコンバレー挑戦」で、泉さんの得意技は、いかんなく発揮されています。

 汚れに強く、洗ってもすぐ乾くなどとても高性能なユニホームを作っていても、日本のユニホーム業界内は価格競争の傾向があり、期待したいほどの利益が出にくい状況。少子高齢化が一層進むことも予測されます。そこで、2015年秋、アメリカのシリコンバレーに打って出たのです。

シリコンバレーでの活躍が泉幸典さんに衝撃を与えた伊藤園の角野賢一さん
シリコンバレーでの活躍が泉幸典さんに衝撃を与えた伊藤園の角野賢一さん 出典: 朝日新聞

シリコンバレーでも飛び込み営業

 シリコンバレーを選んだのは、グーグルなどのIT企業にお茶を広めた男として知られる伊藤園の角野賢一さんのことを知り、衝撃を受けたから。

 角野さんは現地の駐在員時代、エンジニアたちの会合に通って「お茶は体にいい。お茶を飲んで世界を変えるイノベーションをして欲しい」などとアピール。フェイスブック本社の社員食堂に並べてもらえると、口コミで他社も置くようになり、売り上げを拡大しました。

 泉さんは帰国した角野さんをネットで見つけ、面識もないのにメッセージを送ってアポを取りました。

 「あなたに刺激されて、シリコンバレーにユニホームを広めたいとやってきた。高性能の日本のユニホームを、価値が分かる人たちに伝えたい」

 それを角野さんは喜んでくれたといいます。現在の同社駐在員などを紹介してもらいました。

 泉さん自身も「日本人 サンフランシスコ」とネットで検索して連絡先が分かった人100人くらいにメールで飛び込み営業。泉さんの愚直でまっすぐな熱意が通じたのか、現地日系企業の経営者たちや、地元の富豪らに気に入られてネットワークが広がり、サンフランシスコをはじめとする同国内の様々な高級レストランにユニホームを入れてもらえました。

初代タイガーマスクの佐山聡さん=2007年7月23日、東京都文京区
初代タイガーマスクの佐山聡さん=2007年7月23日、東京都文京区 出典: 朝日新聞

プロレスラー時代に教わったこと

 泉さんはその手法の源には、かつて2年間ほど、プロレスラーをしていた経験がある、と語ります。

 10歳のころにタイガーマスクを見て衝撃を受け、中学、高校、大学の卒業時にプロレス界に挑戦したもののうまくいかず、社会人になってからようやく福岡県を拠点とするプロレス団体でデビューしました。

 その際の師匠には、「打たれることを恐れず、打たれたらすぐ立ち上がる」ということを教わったそうです。プロレスでは、相手の技を受けることが前提。それでダメージを受けつつも、できるだけ早く立ち上がることで試合にテンポが生まれ、観客を引きつけます。

 「だから自分は打たれること、挑戦することは怖くない。失敗したらすぐに立ち上がればいい。その立ち上がる勇気というのは、プロレスから教えてもらいました」と泉さん。

 シリコンバレーでは、失敗にへこたれずに何度も立ち上がって起業する人が評価され、成功につながる傾向があるといいます。

 泉さんは「シリコンバレーでも、失敗を恐れずにばんばん挑戦していたら、面白いやつが来た、と称賛してくれた。それが現地の人たちの応援につながったんだと思います」と話しています。

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