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パンツに短歌を書く女性 作家・又吉も…「文学フリマ」の表現者たち
芥川賞の『火花』がドラマ化され、新作の『劇場』も好評なピースの又吉直樹さん。その原点ともいえるイベントが今年も開かれました。小説や短歌、評論など、プロアマ問わず作者自身が出店者となって販売する「文学フリマ」です。又吉さんが編集者と出会い、小説執筆の依頼を受けるきっかけになったこの催し。訪ねてみると、思わず「えっ!?」と二度見してしまうような多彩な「文学」がありました。
GWの最終日、5月7日(日)に開かれた「第二十四回文学フリマ東京」。会場の東京流通センター(東京都大田区)には、1階と2階あわせて770のブースが並んでいました。ジャンルは、小説、詩、短歌、評論、写真集、旅行記、マンガなど多岐にわたります。
この日は出店者、来場者あわせて約3500人が訪れました。
2011年6月の文学フリマには、のちの芥川賞作家・又吉直樹さんがプライベートで訪れました。そこで文藝春秋の編集者・浅井茉莉子さん(33)と出会ったことが、小説『火花』執筆のきっかけになりました。
編集者の浅井さんは、当時たまたま一人で文学フリマに遊びに来ていました。「文学フリマに行かなければ、又吉さんにお会いしていないと思います。お会いして、又吉さんの文章を読み返して、この人に小説を書いてほしいと思いました」と振り返ります。
浅井さんは、文学フリマには学生時代から数回行ったことがあるそうです。
自費出版の本は、大々的なプロモーションがあるわけでもなく、内容は手に取るまでわかりません。浅井さんは、「未知との出会いみたいな感じです。個人的に常に新しいものと出会いたい気持ちはあるので、純粋に楽しいですよ」と話します。
文学フリマで話題になり、出版された本もあります。
今年1月に出版された、主婦でブロガーのこだまさんの自伝『夫のちんぽが入らない』は、2014年に出品して完売になった同人誌『なし水』に収録されていました。交際を始めてから20年ほどになる夫と、初めて体を重ねようとした時からまともにセックスができないという実話は、ネットをはじめ各メディアで話題になりました。
今回の「文学フリマ」にも、才能あふれる多彩な作品が出品されました。
自費出版でも本格的な装丁のものが多く、中には帯が付いている本もありました。
斉藤ハゼさんの『猫の都合をきいてきて』(700円)は、東日本大震災以降の東北を題材にした小説です。
見た目は市販の文庫本そのもの。斉藤さんは、「本っぽくなっていれば目にとまりやすくなるかなと思って。帯はコンビニでコピーして作りました」と話します。
自身も宮城県仙台市の出身ですが、福島県楢葉町や岩手県釜石市、大槌町など現地に取材に行き、地元の人から話を聞いて書いたそうです。
普段はIT関係の仕事をしている斉藤さん。文学フリマには7年ほど前から出店するようになったといいます。なぜ小説を書こうと思ったのでしょうか。
「なんででしょうね。書けるから書いたというか…深い意味はありません」
か、かっこよすぎます。
短歌パンツ(1枚2000円、2枚セットは3000円)です。
「文学を身近に感じてほしい」と、Tシャツを作って出店している人たちもいました。
「小説を読むのは好きだけど、書くのはなかなかできない」という消しゴムはんこ作家の新井宗彦さんは、文豪のポストカード(150円)を販売していました。
既成の文壇や文芸誌の枠にとらわれず『文学』を発表できる場を提供し、作り手と読者が直接コミュニケートできる場をつくる--。
文学フリマは、そんな思いをもとに、評論家・大塚英志さんの呼びかけで2002年に1回目が開かれました。
開催地・開催回によって異なりますが、東京会場は1ブース5500円で出店できるそうです。一般入場は無料で、自由に見て回れます。
2014年には、文学フリマを全国各地の有志で開催できるように「文学フリマ百都市構想」が掲げられました。東京のほか、札幌、岩手、前橋、金沢、京都、大阪、福岡の全国8カ所に広がってきています。
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