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「50億個」の日用品を収集 アーカイブの超人、柳本浩市の教え
ガムの包み紙や洗剤など「50億個」にのぼるという収集品……。デザインやアートの分野で活躍し、2016年3月に46歳で急逝した柳本浩市さんの遺品を集めた追悼展が東京都内で開かれています。膨大なアイテムを分類し「タグ付け」しまくった遺品の一部を展示しています。北欧ブームや、航空会社のチケットなどのデザインに注目した企画も手がけるなど、多方面に影響を与えた人生でした。
1969年に山梨で生まれた柳本さんは、早くから、その異能ぶりを発揮していました。
4歳で植草甚一さんの『ワンダーランド』に出会い、ジャズレコードを収集。チューイングガムの包み紙・スニーカー・空き箱…収集の道を究めていきます。
デザイン会社の勤務を経て、独立。書籍の発行や、展覧会の企画など、多方面で活躍しました。
スニーカーブームの先駆け「ナイキエアマックス」や、航空会社のチケットや備品のデザインに注目したエアラインブーム、北欧ブームなどの企画に携わりました。
2005年にはディック・ブルーナさんがミッフィーで注目される前、ブックデザイナーだった時代の作品を集めた本を出版しています。
普段はIT分野を取材している私が柳本さんと出会ったのは、デザインとは全く関係のない意外な場所でした。2014年11月にあった人工知能学会のセミナーに、ひょこっと現れたのが柳本さんでした。
大学の理工学部のキャンパス内という、完全アウェーの中、柳本さんは自分が集めてきた膨大なアイテムを紹介し、それらを整理するためのテクノロジーの可能性について語りました。
最初、戸惑っていたように見えた研究者たちも、次第に話にのめり込みます。質疑応答では、柳本さんが提案した収集アイテムを共有するシステム、著作権の問題など、熱心なディスカッションが繰り広げられました。
なぜ、人工知能学会へ? 柳本さんがこだわっていたのは、編集によって新たな価値を生み出すことでした。
「倉庫にあるアイテムは、収集すること自体が目的ではありません。それらを多くの人に活用してもらいたい。そのために必要な情報を整理する技術、分類する仕組みを見つけたい」
そう語りながら、人工知能などテクノロジーの力を使った新しい創造の仕組みについて説明してくれました。
今回の追悼展で、最初に出迎えてくれるのは牛乳やヨーグルトなどたくさんの使用済みの容器です。きれいにディスプレーされていますが、一つ一つは、どこの家庭にもあるような、何の変哲も無いもの。
でも、たくさんの種類のパッケージが並ぶことで、それぞれのメッセージが浮かび上がります。文字を強調したり、効果をアピールしたり。洗剤一つとっても、国によって、種類によって、実に多様性にあふれています。
見る人によって文脈が変わってくる。そんな化学変化を期待していたのが、柳本さんでした。
会場には800冊以上あるファイルが図書館のように並べられています。来場者は保護用の手袋をはめて、閲覧することができます。
「タグ付け」に人生をかけた柳本さんの真骨頂ともいえる展示です。
「ZAKKA」「MUJI」など、柳本さんならではの分類方法で仕分けされたアイテムを見ることができます。
展覧会は、生前の柳本さんと交流のあった友人、知人たちが企画しました。
一周忌に合わせて、手弁当で作り上げたそうです。
スタッフの一人は「開催して驚いたのは、若い人がたくさん来てくれたこと。柳本さんを直接知らなくても、SNSなどで情報が拡散して、柳本さんの思想が浸透していったのがうれしかったです」と話します。
洗剤の空きボトルや飛行機のチケットなど。柳本さんは、普通なら捨ててしまうようなものに新しい価値を見つけようとしました。
ネットの膨大な情報に埋もれがちな現代社会において、自ら、そのカオスな世界に突き進んでいったのが柳本さんでした。
断捨離とは無縁の人でした。追悼展には「何でこんなものまで?」と思うようなアイテムが所狭しと並べられています。
会場で販売されているパンフレットには、こんな言葉が紹介されています。
「整理して捨てる前に、まずは混沌(こんとん)の中に身を投じて、そこから極めつけの取捨選択をしてようやく、本当のミニマルな生き方ができるんじゃないでしょうか」
展覧会は「six factory」(東京都目黒区八雲3-23-20)で6月4日まで開催中です。
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