連載
#14 ことばマガジン
見たことない字が並んだ「国語辞典」 公開したパナソニックの狙いは
似たような発音の言葉の「言いづらさ」や「聞こえづらさ」を解消できないものか? パナソニックが公開した「国語辞典」アプリを取材。
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#14 ことばマガジン
似たような発音の言葉の「言いづらさ」や「聞こえづらさ」を解消できないものか? パナソニックが公開した「国語辞典」アプリを取材。
「サトウさんに渡して」「えっ、カトウさん?」。言ったことが相手にちゃんと伝わらず、誤解を生んでしまったことはありませんか。似たような発音の言葉の「言いづらさ」や「聞こえづらさ」を解消できればと、奇妙な見た目の字が並ぶ「国語辞典」アプリをパナソニックが公開しました。そこに込めた深い狙いは――。(朝日新聞校閲センター・武長佑輔/ことばマガジン)
辞典で有名な三省堂と協力してパナソニックが作った、その名も「聞き間違えない国語辞典」。スマートフォン専用のページを開くと、発音が似ている「ひびや」と「しぶや」の文字が浮かび上がって起動します。
三省堂のウェブとスマホアプリ用辞書「スーパー大辞林3.0」の約25万語をもとに、パナソニックが聞き間違えやすい言葉の約150万組を抽出してリスト化。「すべて」「人気」「人名」「地名」といったジャンルに分けて紹介しています。
ビジネスシーンやふだんの生活でありそうな「販売と完売」「商談と相談」「社長と課長」「家計と家庭」「握手と拍手」「起こすと落とす」。会話だったら、「どんな『学校』が好きなの?」「どんな『格好』が好きなの?」などなど……。
それあるある!と言いたくなりそうな言い間違い・聞き間違いの例が、解説付きで収容されていて、検索もできます。
人名の「さとう(佐藤)」と「かとう(加藤)」の場合なら、なぜ聞き違いが起こりやすいのかを簡単に解説し、誤解をなくすためにフルネームで言うことなどを提案しています。
「うがい」と「意外(いがい)」なら、うがいを「口をゆすぐ」など別の言葉へ言い換える案を提示。発音する際に「iの口角の動きを意識してはっきり話す」など強調する部分も示してくれます。
スマホを片手に、相手に伝わりやすい発音を意識して使えるように工夫されています。
「聞き間違えない国語辞典」のもう一つの特徴は、表示される文字のフォントです。これまで視覚化されてこなかった聞こえづらさを、独特の文字で表しています。
「かとう」と「さとう」を組み合わせたもの、「ますだ」と「まつだ」を組み合わせたものなど、ひと目ではなんと書いてあるかが分かりづらくなっています。
パナソニックの鈴木恵子さんは「音が聞こえづらい人が実際に音を聞いたときに感じる迷いを、文字で視覚化した」と言います。
この「国語辞典」、実は高齢者や聴覚に障害のある人たちや、その周りにいる人たち向けに開発されました。パナソニックは、「全ての話し手」の意識アップも狙ったといいます。
パナソニックによると、日本人の65歳以上の半数が難聴で、40歳前後から聞こえづらくなる人が多くなるそうです。
そこで、耳の日である3月3日に、トーキング・エイド・プロジェクト「難聴の人が聞き取りやすい言葉が飛び交う、『言葉のバリアフリー』社会を目指す啓発活動」の一環として、三省堂と協力して作ったこの「辞典」を公開しました。
パナソニックの目指す「言葉のバリアフリー」とはどういうものなのでしょう。
目の見えにくい人が眼鏡やコンタクトレンズを、足腰の弱くなった人が杖を使うように、聴力が落ちた人は補聴器で補うことができます。でも、それだけで不自由なく日常を送れるわけではありません。聞く側だけでなく話す側の意識の向上も必要です。
補聴器は周りの音を大きくすることで聞こえづらい音を補うもの。しかし年をとると、補聴器を使っても必要な情報が含まれた音を拾いきることができなくなります。
周りの人の言葉の言い換えや大きくはっきり言う協力が重要ですが、会話は家族とだけするわけではありません。問題意識を持つ人の広がりも大切。そんな考えから、「聞き間違えない国語辞典」をつくったと言います。
普段から持ち歩くスマホで使うことができ、音声検索も可能なことから、ふとしたときに検索し、日常生活の一部として気軽に使ってほしいそうです。
聞きとりにくさは、高齢者や障害者の周りだけで起きるものではありません。誤解を生まず、コミュニケーションを円滑に進めるためにも、誰もがいろんな場面で使えそうです。
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