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「ヲタトゥー」が新たな伝統になる? アニメ×刺青のディープな魅力
アニメやマンガ、ゲームなどを題材にした「ヲタトゥー」。若者を中心に人気を集めているといい、彫り師の彫紅さんは「ポテンシャルは無限大」と説きます。
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アニメやマンガ、ゲームなどを題材にした「ヲタトゥー」。若者を中心に人気を集めているといい、彫り師の彫紅さんは「ポテンシャルは無限大」と説きます。
アニメやマンガ、ゲームなどを題材にした「ヲタトゥー」が人気です。タトゥーに対して威圧感や恐怖感を抱く人も、これなら怖くない? 知られざるヲタトゥーの魅力を、米国出身の彫り師で、日本の刺青を海外に紹介した洋書『JAPANESE TATTOOS』の共著者でもある彫紅さんに聞きました。
――そもそも「ヲタトゥー」の定義とは。
ヲタトゥーで扱う絵柄のメインは日本のアニメやマンガ、ゲームです。日本発のオタクカルチャーですが、最近は米国やメキシコにもヲタトゥーの彫り師がいて、なかにはインスタグラムのフォロワーが15万人を超える人もいます。
10年以上前からアニメ的な絵を彫る彫り師はいましたが、「ヲタトゥー」という呼び名が定着したのは2010年代以降だと思います。雑誌で特集されるようになり、新しいムーブメントとして広がっていきました。「痛トゥー」という言い方もありますけど、タトゥーはある意味全部痛いですからね(笑)。
――ヲタトゥーを入れているのはどんな人たちですか。
20~30代が中心で、男女比はほぼ半々。女性の方が少し多いぐらいかもしれません。日本を訪れた外国人観光客が、「おみやげ」として入れていくパターンも増えているようです。彫り師たちがインスタやツイッターに作品を投稿しているので、それを見てヲタトゥーを知る若者も多いですね。
それぞれの人にヲタトゥーを入れる理由、ストーリーがあります。「昔から大好きなアニメで、このキャラクターを愛している」という人もいれば、プロのゲーマーで「自分がよく使うキャラクターを入れた」という人も。既存のキャラクターばかりでなく、髪形やメガネなど、自分の特徴に似せたオリジナルのキャラを入れる人もいます。
――特に人気のあるキャラクターは。
日本のアニメやマンガの数はハンパないですから、特定の名前を挙げるのは難しいです。キャラクターは星の数ほどいますし、世代や人によって好みも違う。感覚的には1980~90年代の作品が多いような気もします。
彫り師の側も作品のことをある程度理解してないと、うまくニュアンスを出せません。知らないキャラクターについて頼まれた時は、彫る前にアニメを何話か見て研究することもあるそうです。
――アニメのキャラを身体に彫り込んで、後悔することはありませんか。
単に「流行りだから」という理由で入れる人はいませんし、よくよく考えて決める人がほとんどだと思います。ある作品を見て、「美しい」「私も入れたい」と感じても、そこから実際に入れるまでには時間が必要です。毎日毎日じっくりと考え、彫り師と相談を重ねたうえで入れているのではないでしょうか。
――日本では、タトゥーに対して「怖い」というイメージを持つ人も多いです。
いまのタトゥーは若者の文化で、オラオラ系はあまりいませんよ。彫る側も彫られる側もオタク系の人が結構いますし。
米国でも80年代にはヤク中のバイカー・ギャングが入れているようなイメージがありましたが、90年代以降はロックスターも入れるようになり、若者たちに広がりました。最近は職場でもOKになってきていて、アートとして認められています。
日本の場合は、いまだにヤクザ、Vシネマ的なステレオタイプで止まってますね。あるいは「外国人のすること」と思われているのかもしれません。
――伝統的な刺青を重んじる立場から、ヲタトゥーを「邪道」ととらえる人もいるのでは。
「伝統」の線引きをどこでするかですよね。江戸時代なのか、明治・昭和なのか、それとも縄文時代か。タトゥーマシンを使わず、LED照明の代わりにロウソクを使えば伝統ということになるのでしょうか。
江戸時代には、水滸伝や三国志などの刺青が人気を集めました。歌舞伎と一緒で、当時の人間にとっては、めちゃめちゃパンクなものだったと思うんです。だからいま、ドラゴンボールやゴジラのタトゥーを入れる人がいても、全然おかしくない。
僕自身、龍や鯉などの伝統的な図柄が好きですし、美しいと感じます。でも文化は止まっているわけではなく、絶えずグラデーション的に変化している。きょうと明日では違うし、100年経てばさらに変わる。伝統を守りつつも、進化し続けていくものなんです。
――100年後に振り返ったら、アニメやマンガも「伝統」になっているかもしれない。
そう思います。海外から見ると、日本のアニメやマンガは本当にすごいです。でなければ、世界中でこんなに売れるはずがない。日本が文化を輸出し、経済が動いているんです。日本のアートといえば、「わび・さび」が有名ですが、いまはそこに「萌え・カワイイ」を加えてもいいのではないでしょうか。
日本の刺青文化も、海外ではものすごく評価されています。「犯罪者の刻印」とされたのは昔の話。タトゥーは自己表現であり、身体を通じたアートです。なかでもヲタトゥーは、主人公からサブキャラ、悪役、ロボットまで、題材が本当に幅広い。ポテンシャルは無限大だと思っています。
〈ほりべに〉 彫り師・画家。1978年、米国生まれ。2001年、ミネソタ大学日本語学科を卒業。翌年来日し、2004年には彫渉氏に弟子入りした。2007年に彫り師デビューを果たし、2014年に独立。大阪・日本橋で「ヲタクストリートファッション」を掲げるアパレルブランド「INVASION CLUB」を展開し、クラブイベント「いんくら祭」も開催している。ブライアン・アシュクロフト氏との共著に『JAPANESE TATTOOS』(チャールズ・イー・タトル出版)。
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