連載
#10 夜廻り猫
友達がほしいとか言っていいのかな…マンガ「夜廻り猫」が描く新生活
「誰かに言っちゃいけないことだし… 寂しいとか 友達がほしいとか」。上京してから、もう2カ月。友人もできず、ほとんど話す機会がなかった大学生が、ぽつりとつぶやきます。「ハガネの女」「エデンの東北」などで知られ、ツイッターでも作品を発表している漫画家の深谷かほるさんが、「新生活」を描きました。
「泣く子はいねが~」
夜廻り中の猫の遠藤平蔵。きょうは、ひとり歩く大学生の心の涙をかぎつけました。
女子大生は何か言おうとしますが、なかなか声が出せません。
「上京して2カ月 ほとんどしゃべってなくて 声って出してないと出なくなるんだね」
でも、「寂しいとか友達がほしいとか 言っちゃいけないことだし」とポツリ。
それを聞いた遠藤は、他の人もそんなこと言っていた、と前置きして、
「寂しくて死にそうだから 同じようなやつに出会うまで生きるって言ってました」と伝えます。
翌日、前を向いて大学へ向かう女の子は、何を感じているのでしょうか。
マンガに登場するのは、自分なんかが話しかけたら迷惑かも、
と考え込んで、誰にも話しかけられずにいた大学生です。
作者の深谷かほるさんは、
「私が時々驚くのは、若い人が遠慮がちなことです」と話します。
人に迷惑をかけたり、恥をかいたりばかりで生きてきたと笑いながら、
「そんな私からすれば、空気を読んだり自制心もあったりして偉いとも思うのですが、
人は駄目なら駄目なりに支え合えるものですよね」と振り返ります。
一人でも友達がいれば、「幸せ」は全然違うものになる。
「一人でいいから、友達同士になれるといいな」という願いがこもっています。
【マンガ「夜廻り猫」】
猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。
遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。姑獲鳥(こかくちょう)に襲われ、けがをしていたところを遠藤たちが助けました。
ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。3月23日、講談社から単行本1、2を発売した。自身も愛猫家で、黒猫のマリとともに暮らす。
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