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FBI長官がクビ!その背景は? 「あの国」の影と「2つのメール問題」

FBI長官解任が報じられ、バタつくアメリカのホワイトハウス=2017年5月9日
FBI長官解任が報じられ、バタつくアメリカのホワイトハウス=2017年5月9日 出典: ロイター

目次

 アメリカの大きな事件を捜査する警察、FBIのトップを務めるコミー長官が5月9日、トランプ大統領によって突然クビになりました。これは、日本でたとえれば「汚職事件を捜査中の検事総長が首相に解任される」ような異例の事態です。去年のアメリカ大統領選挙で、トランプ氏に有利になるようにロシアがサイバー攻撃をしたんじゃないか――そんな疑惑について、FBIが捜査をしている最中のことでした。

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クリントン氏陣営のメール流出

 アメリカでは2016年7月、大統領選の真っ最中に、トランプ氏と争っていたヒラリー・クリントン氏が所属する民主党の幹部のメール、約2万通がネット上に流出するという問題がありました。

 FBIは直後に捜査を開始しました。2016年12月、当時のオバマ大統領は、メール流出にロシアの情報機関が関わったと断定。アメリカに駐在するロシアの外交官ら35人を国外退去処分にするなど、報復措置をとりました。

 オバマ氏は会見で、「(ロシアの)プーチン大統領なしでこうした行為は実行できない」とも指摘。プーチン氏と会ったときに、サイバー攻撃をやめるよう直接求めたことも明らかにしています。

選挙戦の最終日に支持者へ訴えるヒラリー・クリントン氏=2016年11月7日
選挙戦の最終日に支持者へ訴えるヒラリー・クリントン氏=2016年11月7日 出典: 朝日新聞、ランハム裕子撮影

ロシアを持ち上げてきたトランプ氏

 問題は、ロシア側が勝手にやったのか、それともトランプ氏本人や周囲の人が関わったのかどうかです。

 コミー長官は、トランプ氏がアメリカ大統領になって2カ月が過ぎた今年3月20日、「トランプ陣営とロシア政府の関係や、協力について、捜査をしている」と発言していました。

 トランプ氏はこれまで、ロシアのプーチン大統領を「とても賢い」「力強い」「尊敬されている」「我々の大統領よりはるかに指導者らしい」などと持ち上げてきた経緯があります。

 ウクライナ領だったクリミア半島をロシアが武力で一方的に併合したことについても、「クリミアの人々はロシアと共にいることの方を望んでいたと聞いた」と言うなど、ロシアに甘い姿勢を示していました。

ロシアのプーチン大統領と電話をするアメリカのトランプ大統領=2017年1月28日
ロシアのプーチン大統領と電話をするアメリカのトランプ大統領=2017年1月28日 出典: ロイター

側近たちもロシアと親密

 トランプ氏の周囲にいる人たちもまた、ロシアとの親密さが目立ちます。

 大統領補佐官を務めていたマイケル・フリン氏は、2016年12月にオバマ氏がメール流出に報復をすると、アメリカに駐在するロシア大使と、この件についてひそかに話をしていました。2015年12月にモスクワで講演し、ロシア政府系メディア「RT」から3万3750ドル(約380万円)の報酬を受け取っていたこともわかっています。

 大統領選挙で選挙対策本部長を務めていたポール・マナフォート氏は、ウクライナの親ロシア派から計1270万ドル(約14億円)を受け取っていた疑いがあると報じられ、2016年8月に辞任しています。

 日本の外務大臣にあたるレックス・ティラーソン国務長官は、もともとエネルギー大手エクソンモービルの最高経営責任者で、そのころからプーチン氏と親しい関係でした。

ロシアのプーチン大統領=2017年1月17日
ロシアのプーチン大統領=2017年1月17日 出典: ロイター

渦中の人がクビを助言

 さらに、日本の法務大臣にあたる司法長官のジェフ・セッションズ氏。2016年7月と9月、やはりロシア大使と面会していました。ちょうどメール流出が問題になっていた時期です。

 しかも、セッションズ氏は「選挙戦中にロシア当局者と面会したことはない」とうその証言を議会にしていました。この件でセッションズ氏は、メール流出を巡る捜査から外れました。

 ところが今回、コミーFBI長官を解任するにあたって、トランプ大統領は「セッションズ司法長官の助言にもとづいて」と声明を出しています。疑惑のただ中にいる人たちが、疑惑を追及していた人をクビにしてしまったのです。

セッションズ司法長官がトランプ大統領に宛てた、コミーFBI長官解任の「助言」
セッションズ司法長官がトランプ大統領に宛てた、コミーFBI長官解任の「助言」 出典: ロイター

もう一つのメール問題

 トランプ氏はクビの理由を、「クリントン氏のメール問題」だとしています。これは、「メール流出」とはまた別の問題です。

 トランプ氏のライバルだったヒラリー・クリントン氏は、国務長官を務めていた2009年から2013年までのあいだ、本当は政府の公式メールアドレスを使わなければいけないところ、私的なアドレスを使っていました。

 アメリカの法律では、国務長官が仕事で使うメールはすべて記録し、保管しなければいけません。私的なアドレスではこれができないため、法律を破っていた疑いがあるというわけです。

 コミー長官はこの件の捜査も手がけ、2016年7月に「訴追しない」、つまり法律違反の責任は問わないという判断を出し、自ら会見で発表しました。

FBIのコミー長官
FBIのコミー長官 出典: ロイター

 今回、トランプ氏たちが解任の理由にしているのは、「この発表をする権限がコミー長官にはないのに、会見で発表した」という点です。それならば、なぜトランプ氏が大統領になった今年1月の時点でクビにしなかったのか、そもそもクビにするほどの問題なのか、さっぱりわかりません。

 議員からは「捜査のもみ消し」「政治による捜査への干渉」と批判が上がっています。

選挙結果が変わっていたかも?

 そんなコミー長官ですが、実は「トランプ氏当選の立役者」という見方もあります。

 2016年10月28日、アメリカ大統領選の投票が行われるわずか11日前になって、コミー長官は突如、クリントン氏の私的アドレス問題を再捜査すると発表しました。

 いったんは捜査の終結を宣言していたんですが、新たなメールが見つかったというのがその理由。結局、投票の2日前に「やはり問題なし」という結論になったんですが、この間にトランプ氏は支持率を上げました。

 統計を使い、きわめて正確な投票の予測をする専門家、ネイト・シルバー氏は昨年12月の時点で、こんなツイートをしています。


 「クリントン氏は4州(フロリダ、ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニア)で1%以下の差で負けている。もし、コミー長官(の発言)とロシア(の介入)がなかったら、2%以下の差だが、おそらく彼女は勝っている」

 真相はわかりませんが、ひょっとするとロシアの横やりで、アメリカ大統領選挙の結果が変わったのかもしれません。おそろしい時代になってきました。

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