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#14 AV出演強要問題

話せる?「AV強要問題」のこと すぐそばにいるかもしれない被害者

AV出演強要被害についてのシンポジウムに登壇したくるみんアロマさん=4月26日、東京都世田谷区、柴田悠貴撮影
AV出演強要被害についてのシンポジウムに登壇したくるみんアロマさん=4月26日、東京都世田谷区、柴田悠貴撮影

目次

 若い女性がアダルトビデオ(AV)に無理やり出演させられる、AV強要問題。政党が対策チームを設置したり、政府が啓発イベントを開催したりするなど、社会問題として対策が進められています。ある日、この問題の取材を続けてきた先輩から、「女性目線で考えてみてくれない?」と言われました。そんなこと言ったって私(女27歳)、「AV」と口に出すことから恥ずかしい・・・。そんな私が啓発イベントを取材したら、現実とモヤモヤが見えてきました。

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AV出演強要って、どういう問題?

 AV出演強要の被害は、18~25歳の女性に集中しています。モデルやアイドルという名目でスカウトされたり、高収入のバイトがあると聞いて応募したりなど、事務所と契約したことがきっかけで、同意していない性的な行為の動画の撮影をされる問題です。被害者からの窓口への相談件数も右肩上がりに増え続け、重大な人権侵害として対策が進められています。やめたいと言っても、とても払える額ではない違約金を求められ、親や学校にバラすよ、と脅されるなど、悪質な手口も特徴です。

シンポジウムで話す、加藤勝信・女性活躍担当相。「若い女性の性暴力被害の根絶に向けて考える、機会にしていただきたい」と話した=4月26日、東京都世田谷区、高野真吾撮影
シンポジウムで話す、加藤勝信・女性活躍担当相。「若い女性の性暴力被害の根絶に向けて考える、機会にしていただきたい」と話した=4月26日、東京都世田谷区、高野真吾撮影

 だけど私、芸能人になりたいと思ったこともありませんし、自分史上最高のおしゃれをして街を歩いてもスカウトに声をかけられたことがありません。そんな私が声をかけられても、高額な壺を買わされるか、怪しい事務所に決まっています。正直なところ、現実味がありません。

 何から始めていいかわからず、とりあえずいろんな人と話してみることにしました。

口に出す難しさ

 ある日、大学時代の女性の友人2人とランチに行きました。久しぶりに会ったので、お互いの近況や仕事、パートナーについてなど、話は尽きません。そういえば――、この問題知ってる?スカウトってされたことある?・・・2人に聞いてみたくても、いかんせんどうやって話を始めたらいいかわかりません。口を開こうにも、「AV」という言葉が喉でつっかえてしまいます。すると他の話題が始まってしまいます。

出典:https://pixta.jp/

 参ってしまって一旦トイレの個室にこもりながら、「これは難しい仕事を受けてしまったのでは・・・」と思い始めました。私には「取材をしている」という目的があるにせよ、楽しいランチの場。「AV」という言葉がこんなに言いづらいとは・・・。やっと口に出せたのは、食後の紅茶が冷めてきた頃でした。

「頭の悪い子は死んじゃうんだよね」

 4月26日、東京都内の昭和女子大学で「女性が輝く社会を目指して」というシンポジウムが開かれ、女子大学生約1,600人が集まりました。壇上には実際にAV出演強要の被害に遭った、YouTuber兼社会活動家のくるみんアロマさんと、AV出演強要の被害者を支援しているNPO法人「人身取引被害者サポートセンター ライトハウス」の藤原志帆子代表が立ちました。

シンポジウムに登壇した(左から)ライトハウスの藤原志帆子代表、くるみんアロマさん=4月26日、東京都世田谷区、柴田悠貴撮影
シンポジウムに登壇した(左から)ライトハウスの藤原志帆子代表、くるみんアロマさん=4月26日、東京都世田谷区、柴田悠貴撮影
くるみんアロマさんに関する記事はこちら
AV出演強要、ユーチューバーの過去 「音楽デビュー信じた自分」
藤原志帆子代表に関する記事はこちら
AV強要は「氷山の一角」か? 支援団体代表が語る「差し止め現場」

 AV強要被害に遭い、心身ともに不安定になったと話すくるみんアロマさん。「私がいまこの場に立っている理由はただ一つ、被害を減らしたい、根絶したいという気持ち」。誰かが言わなければこの被害が増えてしまうのではないかと思った、と話します。

シンポジウムで話す、くるみんアロマさん=4月26日、東京都世田谷区、柴田悠貴撮影
シンポジウムで話す、くるみんアロマさん=4月26日、東京都世田谷区、柴田悠貴撮影

 くるみんさんは大学生のとき、新宿で「グラビアのモデルをやらないか」とスカウトされました。高校時代にバンド活動をしていたため、「いずれは音楽活動でデビューできる」という言葉を信じ、事務所の契約書にサインしました。すると自分の意思とは関係なくAV出演の話が進み、半年間の説得の末、本当に出演することになりました。

 出演を嫌だと言っても、「職業差別してるよね」と言われたそう。

 「あなたはゴミ屋さんを汚いって言っているのと同じだよね」

 強要被害が集中している年代から少し離れた私は、「そんなの、相手にしなくったっていいのに」と思ってしまいます。しかし、真面目に受け答えをしようとする女性ほど、巧みな説得にだんだん反論できなくなり、最終的に応じてしまうことがあるそうです。当時から犬や猫を保護するボランティア活動をしていたというくるみんさん、「『差別』という言葉には弱い。相手に合わせた説得の仕方だった」と振り返ります。

渋谷の交差点前で話す、くるみんアロマさん=4月26日、東京都渋谷区、柴田悠貴撮影
渋谷の交差点前で話す、くるみんアロマさん=4月26日、東京都渋谷区、柴田悠貴撮影

 くるみんさんが最も憤りを感じたのは事務所の社長に笑いながら言われた一言でした。

 「頭の悪い子は死んじゃうんだよね」

 実際に支援団体に相談をしていた被害者の中に、自死してしまった人もいたそうです。「自分のすべてを持っていかれて、体をすべてさらされて、使えなくなったらサヨウナラ。女の子の命なんて関係ないという雰囲気が許せなかった」と話します。

街頭パレード前の写真撮影に応じる、くるみんアロマさん(左)、ライトハウスの藤原志帆子代表(左から2人目)、加藤勝信・女性活躍担当相(右)ら参加者たち=4月26日、東京都渋谷区、高野真吾撮影
街頭パレード前の写真撮影に応じる、くるみんアロマさん(左)、ライトハウスの藤原志帆子代表(左から2人目)、加藤勝信・女性活躍担当相(右)ら参加者たち=4月26日、東京都渋谷区、高野真吾撮影

 目の前にいる「実際の被害者」という存在が、自分には関係ないと思っていた問題を鮮明にしました。ニュースで見たどこかで起こった事件や問題も、「被害者」が見えると気付くことがあります。私が大学に通って、友人たちと他愛もない話をしながら遊んでいたあの頃、くるみんさんは泣きながら要求に応じ、会うことのなかった女の子は生きる希望を失ってしまっていた――、見ないふりのできない現実がそこにはありました。

AV出演強要問題 啓発動画「あなたへ」 出典: YouTube

AV強要問題っていうのを取材することになったんだけど・・

 友人たちとのランチに話を戻します。「そういえば・・・今度AV強要問題っていうのを取材することになったんだけど・・・」。意を決して発してみました。友人たち、「AV」という言葉に一瞬ピクッとしたのですが、「なぁにそれ?」。

 他の友人や妹とも話しましたが、多かった感想は「どうして断れないの? 女性も自分で自分を守れなくちゃ」でした。啓発イベントを聞いた今でも、正直、その気持ちはあります。そんな「自己責任論」もわかるので、もしも自分が同じ被害に遭ったとしたら、「そう言われる状況」が想像できます。考えを巡らせるほど、人に相談できなくなっていく。抗えず被害に遭った人たちが、孤立してしまう構図の中に、自分もいるような気がしました。

出典:https://pixta.jp/

 忘れてはいけないのは「契約書にサインをしてしまい、断り切れなかった人」よりも、「本人に適切な説明をせず、肉体的労働を強要した人」の方が悪いはずだということ。

じゃあどうしたらいいんだろう

 昭和女子大学で開催されたシンポジウムや、その後の街頭キャンペーンでもしきりに言われていたのが、「この問題を知ろう、周囲の人と話してみよう」でした。

 印象的だったのが、シンポジウムでくるみんさんが、壇上で語り始めたときの様子です。

「私も、過去に同じ…こういう…被害に遭ったことがあります。長期、半年くらいにわたって、説得を受けて…やってしまったんですけど」

 「こういう被害」とか「やってしまった」という言い回しではなく、くるみんさんから「AV」という言葉が出たのは、話し始めてから1分ほど経ってからでした。当事者として話すことがどれだけ勇気がいることか、私の想像でははかり知れません。先日のランチの場で口ごもった自分を思い出しました。

街頭パレードをする、くるみんアロマさん(手前右から2人目)ら参加者たち=4月26日、東京都渋谷区、林敏行撮影
街頭パレードをする、くるみんアロマさん(手前右から2人目)ら参加者たち=4月26日、東京都渋谷区、林敏行撮影

 支援する側から、ライトハウスの藤原さんは「何よりも被害に遭わないことが一番。そのためには認知を広めていくことが大事。日常の中で話すのは難しいことかもしれないけど、SNSで認知につながる情報などを見つけたらシェアやリツイートすることなどから始めてくれてもいい」と話しています。

 AV強要問題があるということ、断ろうとしても抗えない場合があるということ、できる人は周りの人に話してみてほしいです。もしもできなくても、自分には関係ないと思っていても、心の中に留めておいてほしい。そうすれば万が一被害に遭った人がまわりにいたとしても、きっと孤立してしまわないような言葉をかけられると思います。

 ライトハウスではフリーダイヤル(0120-879-871)やメール(soudan@lhj.jp)、LINE(http://line.me/ti/p/VkQXNT_gFe)でも相談を受け付けています。「匿名で、いつでも電話を切っていいから」と藤原さんは話します。
 

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