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2016年09月13日

AV強要は「氷山の一角」か? 支援団体代表が語る「差し止め現場」

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「人身取引被害者サポートセンター ライトハウス」の藤原志帆子代表

「人身取引被害者サポートセンター ライトハウス」の藤原志帆子代表

 若い女性がアダルトビデオ(AV)に無理やり出演させられる被害が広がる中、支援団体の重要性が増している。6千人以上の女優がいると言われる業界。表面化する被害は「氷山の一角」なのか。映像がネットで拡散してしまう時代、問題のある作品の流通を止めることはできるのか。NPO法人「人身取引被害者サポートセンター ライトハウス」の藤原志帆子代表に聞いた。(朝日新聞経済部記者・高野真吾)

イメージDVD、実はAV撮影

【NPO法人「人身取引被害者サポートセンター ライトハウス」は「本人の自由を奪い、意思に反した行為を強制し、搾取する犯罪である」「人身取引」の根絶を目指し、2004年に前身の団体が設立された。当初は売春をさせるために日本に連れてこられた外国籍の被害者を救う活動などをしてきたが、近年、AV出演強要被害の相談が増えてきた。】

 私たちライトハウスはPAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会)と協力し、AVに関する相談と支援にあたっています。2団体に相談にきた女性は、2012年、13年は1人でしたが、14年から急激に増えて36人になりました。昨年は62人に上り、今年も8月末時点で74人となっていて、累計相談者は174人にも及びます。

 イメージDVDを撮ると聞いてスタジオに着いたら、全く知らされていないAVの撮影だった。最初の撮影も嫌々だったのに、契約書や違約金を盾に脅されて続けざるを得なかった。ほとんどの相談者が、こうした強要被害にあっています。

 14年に相談が急増した背景は定かではありませんが、今年とくに増えたのは「AV出演強要」の問題が、NHKや毎日新聞など各種メディアに取り上げられたことが大きいと考えています。

 一説にはAVに出演する女優の数は6千から8千人いて、うち毎年4千人から6千人が入れ替わると言われています。この数千人という母数に比べて、私たちのところに来る相談者の数は決して多いとは言えないかもしれません。そのため「強要被害は大したことない」と指摘する業界関係者の声を聞いたこともあります。

 しかし、相談者は「氷山の一角」と捉えるべきです。私たち支援2団体以外にも全国の女性シェルターや無料電話相談にも多くの女性の声が届いています。彼女たちは「強く断れなかった自分が悪い」などと自責の念を抱えている。多くの女性が、過去を話す時に涙を見せます。

 それでも一人で抱え込まずに、相談員に相談することができれば、一人で抱えていた心の重荷を下ろすことができるかもしれません。また、強要被害が明らかな場合は、AVメーカーや販売会社に掛け合い、過去の出演作品の取り扱い停止を求め、実際に成功する場合もあります。勇気を出せば、意図せずに出ることになった作品が永続的に視聴される「被害拡大」を防げる可能性が高いのです。

支援団体の代表は「相談者は『氷山の一角』と捉えるべき」と訴える ※写真と記事は直接、関係ありません

支援団体の代表は「相談者は『氷山の一角』と捉えるべき」と訴える ※写真と記事は直接、関係ありません

女性たちの声が届き始めた

【ライトハウスの藤原さんは、AV出演強要問題を社会全体で取り組むべき課題と位置づける。】

 政府は6月、閣議決定した答弁書で、AVへの出演強要は予防と根絶が必要な「女性に対する暴力」に当たるとしました。そして実態把握や相談体制づくり、民間支援団体との連携強化に取り組み始めたのです。ようやくですが、勇気を振り絞って支援団体らに寄せられた女性たちからの声が社会に届き始めたと言えます。

 この契機をぜひ生かしたい。AV作品の審査を行うNPO法人「知的財産振興協会」(IPPA)は7月、業界で定めたルールに従わず、必要な審査を受けていない作品を販売会社などが取り扱わないように求める声明を出しました。

「勇気を振り絞って支援団体らに寄せられた女性たちからの声が社会に届き始めた」。支援団体の代表は変化を感じているという ※写真と記事は直接、関係ありません

「勇気を振り絞って支援団体らに寄せられた女性たちからの声が社会に届き始めた」。支援団体の代表は変化を感じているという ※写真と記事は直接、関係ありません

 政府や自治体はDV、児童虐待などの既存の相談窓口を拡充し、AV被害の相談にも応じられるようにする。被害に遭う女性の多くが高校生、専門学校生、大学生のうちに声を掛けられるので、学校現場での啓発活動も有効です。

 日本社会はAVや風俗などでの搾取の構造に、あまりにも目をつぶってきました。もう放置できるレベルではありません。タブー視することなく、問題の解決に社会全体で動いていく必要があります。

支援団体の代表は「もう放置できるレベルではありません」と危機感をつのらせている ※写真と記事は直接、関係ありません

支援団体の代表は「もう放置できるレベルではありません」と危機感をつのらせている ※写真と記事は直接、関係ありません

販売停止までの道のり

 つらい過去に向き合い、今夏、行動を起こしたのが、ユーチューバーのくるみんアロマさんだ。7月8日、都内施設で被害者支援団体の相談員の女性2人と向き合った。くるみんさんは13年、2本のAVに出演した。

 長年、「本格的に音楽活動をしたい」という夢を抱いてきた。「AVに出れば後押しする」と語った所属事務所の「社長」を信じた。だが音楽活動を後押しする動きはなかった。今は「だまされた」と振り返る。

 相談員は聴取をもとに、「出演強要」にあたると判断。その場で作品を出しているAVメーカー1社(知的財産振興協会「IPPA」加盟)と、ネット上で作品を取り扱っている大手販売会社3社に対して、さらなる流通、販売停止を求める「通知状」と題する文書の作成を始めた。

支援団体に相談しAVメーカーに行動を起こしたくるみんアロマさん

支援団体に相談しAVメーカーに行動を起こしたくるみんアロマさん

本人の署名後に「内容証明郵便」

 文書は本人の署名後、「内容証明郵便」で郵送した。一連の相談は2時間ほど。相談は無料で、初回に限り文書を送る際の実費も支援団体が負担している。文書は本人の意向に基づき、AV女優名だけで送るか、本名とAV女優名を両方明記して送るかを決めているという。

 数日後、販売会社のうち1社からは、「戦略的検討その他諸般の事情により」「対象となる商品の販売および販売のための掲載を中止」するとの文書が支援団体に届いた。ほか2社は連絡がなかったが、相談員がネット上で掲載中止になっていることを確認した。

 AVメーカーからは10日ほどして、回答文書が来た。「当社が貴殿(くるみんアロマさん)を騙(だま)したり、脅したり、貴殿の意思に反してアダルトビデオに出演させたりした事実は全くありません」としつつも、「諸般の事情を考慮して貴殿の出演する当社作品の販売を中止することを決定しました」と知らせてきた。

支援団体が送った通知状と、メーカーから届いた回答文書

支援団体が送った通知状と、メーカーから届いた回答文書

 くるみんさんは現在、ネット上に拡散したAV出演時の画像を削除していくか検討中だ。グーグルに検索しても画像が表示されないように要請するほか、無断でアップしているサイトに個別にメールを出して削除を要請する。支援団体の相談員は、「地道に要請を続ければ、完全ではなくても不本意な画像はかなり減らせる」と語る。

 くるみんさんは「出演AVが速やかに流通、販売停止になりほっとした」と話したうえで、業界に対する意見を添えた。

 「女性が無理やりに出演させられた作品で、AVメーカー、販売会社などが利益を上げることはおかしい。こうした作品が生まれないように業界は動くべきだし、強要被害にあった女性からの取り扱い停止に対する訴えにはきちんと向き合うべきだ」

     ◇

 AVに関係する情報を募集しています。出演強要被害に遭った男性、業界の内情を語ってくれるAVメーカー、プロダクション幹部からの連絡をお待ちしています。


「顔はバレない…」支援団体が実話を元に作った性被害の啓発マンガ
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子どもの性を守るための啓発漫画「ブルー・ハート」。NPO法人「人身取引被害者サポートセンター ライトハウス」(http://lhj.jp/)が無料配布しているアプリからは全話読むことができる
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