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#13 ことばマガジン

雪崩「警報」がないのはなぜ? 栃木の事故、「注意報」出ていたが…

雪崩は注意報だけで警報はありません。なぜなのでしょうか?

雪崩があった斜面で現場検証する捜査員ら=3月30日、栃木県那須町
雪崩があった斜面で現場検証する捜査員ら=3月30日、栃木県那須町 出典: 朝日新聞

目次

 栃木県のスキー場で3月末に起こった雪崩事故。高校生ら8人が犠牲となりました。当時、この地域には「なだれ注意報」が出ていましたが、認識した上で講習をしていたようです。「注意報でなく警報だったら……」。つい思ってしまいそうですが、雪崩は注意報だけで警報はありません。なぜなのでしょうか? (朝日新聞校閲センター・坂上武司/ことばマガジン)

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ピンポイントで予測は難しい


 3月27日朝に那須町で発生した雪崩事故。宇都宮地方気象台は「なだれ注意報」を、前日の26日午前から栃木県那須地域に出していました。

 災害のおそれがある時に各地の気象台が出す「気象警報・注意報」には、「特別警報」「警報」「注意報」の3種類があります。

 特別警報は「重大な災害が起こるおそれが著しく大きいとき」に出され、「大雨、暴風、暴風雪、大雪、波浪、高潮」の6種類。警報は「重大な災害が起こるおそれのあるとき」で、「洪水」が加わって7種類です。

 そして、「災害が起こるおそれがあるとき」の注意報は、「大雨、洪水、大雪、波浪、高潮、強風、風雪、雷、融雪、濃霧、乾燥、なだれ、低温、霜、着氷、着雪」の16種類に増えます。

 気象庁業務課によると、注意報は2015年に全国で1万8526回も出されました。「なだれ」だけで477回あります。

 雪崩は、現時点では注意報のみですが、気象庁予報課の担当者は「過去に、なだれ警報を設ける議論がなかったわけではない」と明かします。

 ただ、雪崩は地理的条件に大きく左右されるため、ピンポイントで予測することが難しく、注意報のみで今に至っているとのことです。

 雪解けの時期なら雪崩が起こりやすいのは明らかだから、注意報だけで十分伝わるという見方もあります。また、注意報は主に山のふもとの住民に対して呼びかける意味合いが強いものだとも言えそうです。

気象庁のホームページで市町村別の警報・注意報を確認する京都地方気象台の職員
気象庁のホームページで市町村別の警報・注意報を確認する京都地方気象台の職員 出典: 朝日新聞

カナダでは


 雪崩への警戒の呼びかけは、海外ではどうなっているのでしょう。

 世界的なスノーリゾートを抱える北米のカナダでは、NPOの「アバランチ・カナダ(AC)」が毎日各地の雪崩予測を発表しています。

 ACの広報担当を務めるメアリー・クレイトン氏によると、カナダで雪崩対策の抜本的な見直しが始まったのは03年以降。その冬、栃木の事故と同じように高校生7人が死亡する事故を含め、雪崩の犠牲者が29人を数え、現在のAC発足につながったといいます。

 カナダの国立公園を管理する「パークス・カナダ(PC)」が五つのエリアで雪崩予測を発表し、そのほかはACがカバーしています。気温や風向きなどから、山の高さで区分けして雪崩が起こる危険性を「低い(Low)」から「極めて高い(Extreme)」の5段階で予測します。発表されるのは、当日を含めて3日分です。

 クレイトン氏によると、こうした雪崩予測はカナダやスイスといった山岳地帯を抱える国々では「標準的なもの」だと説明します。

 また、ACやPCでは、雪山の登山者はトランシーバーなど雪崩に備えた機器を持つことが必須だとして勧めています。

 栃木の事故では、高校生らが遭難者の位置を知らせる送受信器「ビーコン」を持っていませんでした。クレイトン氏は「とても心が痛んだ。持っていなかったのが信じられない」と驚いた様子でした。

 また、「経験」に基づいて講習を教員たちが決めたことに、PCの広報担当、タニア・ピータース氏は「もちろん経験は大切なことだと思う。でも、雪崩に『絶対』はない。自分たちが雪崩に遭遇した時の『リスク』をどれだけ減らすかを第一に考えなければいけない」。

雪崩の犠牲者を悼む献花台の先に事故現場となった雪山がそびえる=4月3日、栃木県那須町
雪崩の犠牲者を悼む献花台の先に事故現場となった雪山がそびえる=4月3日、栃木県那須町 出典: 朝日新聞

警報より軽いだろうから…はダメ!


 日本でも、NPO「日本雪崩ネットワーク(JAN)」が冬山シーズンに白馬・立山・谷川武尊の3エリアで積雪の現況を発表しています。来シーズンはさらに妙高エリアを加える予定です。

 JANの出川あずさ理事は「北海道や東北地方を含めて10カ所で現況を発表することを目標にしている」と話しますが、資金面や人繰りの面での厳しさがあると言います。出川理事がクラウドファンディングで資金集めに奔走するなど、有志の力によって運営されているのが現状とのことです。

 対してカナダは、PCが環境・気候変動省の所属機関として旗振り役となり、ACと綿密な連携を保ちながら雪崩予測を発表しています。国そのものが、雪崩対策を政策の一部と位置づけていると言えます。

 日本でもカナダのような体制作りが期待されますが、今のところ、「なだれ注意報」を気にしながら、心構えをするしかないのが現実です。

 気象庁の担当者は、雪崩の注意報のとらえ方に関してこう話します。「洪水注意報が出ている中で、川の中州でキャンプをするでしょうか。波浪注意報の中で、海釣りをするでしょうか。雪崩も同じように考えてもらえれば」

 日本の雪崩の注意報は、発表から解除まで長期間にわたるケースが多い、ということも油断を生むのかもしれません。3月26日に出された栃木県那須地域の「なだれ注意報」が解除されたのは4月13日午後でした。

 しかし、注意報も蓄積されたデータに基づいて出される警鐘です。警報より軽いだろうからまだ大丈夫、と思わないことが大切です。

 最近ではスマートフォンのアプリなどで、手軽にリアルタイムの気象情報を入手できるようになっています。雪崩に限らず、注意報が出ていたら、「自然を甘く見てはいないだろうか」と冷静に考えてみる必要がありそうです。

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