お金と仕事
葬儀にもサードウェーブ? 「お葬式の達人」が見つけた究極の葬儀
サードウェーブと言えばコーヒー、と思いきや……意外なところでも新しい動きが出ています。「葬式」です。昔ながらのスタイルから、手頃な価格をアピールする葬儀ビジネスへ。そして、今は、こだわりをもった葬儀が注目されています。中でも自宅葬は、ホールとは違った個性を大事にできるのが特徴です。「少人数でいい、仕出しはカレーだっていい」という自宅葬。いったいどんな内容なのか。自宅葬コンシェルジュの馬場翔一郎さんに「サードウェーブ葬儀」の今を聞きました。
馬場さんは、専門学校を出た後の2004年、葬儀業界に入りました。花屋やテント業者まであらゆる葬儀関係の経験を積んで独立します。ホール中心で、亡くなった直後の落ち着かない中で葬儀が決められていく進め方に疑問を抱いたのがきっかけでした。
現在は、最後の別れを落ち着いて送り出せる葬儀として、自宅葬を提案しています。2016年には自宅葬を専門に手がける「鎌倉自宅葬儀社」を設立。マイホームでの葬儀をコーディネートしています。
馬場さんによると、現在の葬儀の約8割はホールで執り行われるそうです。一方で、馬場さんの元には「ベルトコンベヤー」のように次々と葬儀が進んでいくやり方への疑問も寄せられていました。
「放心状態で決められてしまうことへの不満がありました。ホールはどうしても会場が大きくなってしまう。数十人もの人を集めるつもりがないのに、大きな会場を頼んでしまう人も少なくありませんでした」
馬場さんが提案する自宅葬はどんなものなのでしょう?
「身内だけでゆっくり故人とお別れができます」
故人が庭いじりが好きだったのなら、棺は庭の見える場所へ。
仕出しも、温かい料理をケータリング業者に手配します。
「カレーが好きな人だったら、仕出しはカレーだっていいと思うんです。自宅葬ならそれができます」
伝統的な葬儀は価格設定が不透明でしきたりが多すぎる。一方で費用が安く手軽にできる「安近短」の葬儀では、後日、「あれでよかったんだろうか…」という心残りが生まれてしまう。
「値段では勝負していません。だから公式サイトなどでも値段は強調しません」と馬場さんは言います。
自宅葬は、身内でゆったり執り行うことを大事にしています。亡くなった直後にすべてを決めるのではなく、5日間ほどかけて式の内容を詰めていきます。
遺族からのヒアリングを大事にし、故人のエピソードや、思い出の品などを確認していきます。その間、遺体はドライアイスなどを使って状態を保つため、連日、専門の担当者が遺族の自宅で手当てをします。
葬儀をコーヒーと比べるのは唐突かもしれませんが、人々の「こだわり」を考える上では共通点があります。
元々あった枠組み(第一の波)に、新しい波(第二の波)が加わり、その先に、よりこだわりを重視した流れ(第三の波)が生まれています。
コーヒーの第一の波は一般家庭に普及した時期。第二の波はシアトル系と呼ばれるチェーン店が広がった1990年代後半。第三の波は豆の産地や抽出にこだわるタイプを指します。
これを葬儀に置き換えると……。第一の波は、伝統的な葬儀。第二の波は大手スーパーやネット通販会社などが明瞭会計をうたって参入した時期にあたります。そして第三の波として、こだわりをもった葬儀が登場しています。
厚生労働省の「人口動態統計の年間推計」によると、2015年の死亡数は、130万2000人(推計値)で、今後25年間にわたって、右肩上がりに伸びていきます。
核家族化や、お寺などとの縁が薄まる中、死亡数のピークは、1947年から1949年生まれの「団塊世代」が90代を超える2040年と推測されています。
大きな変革期を迎えている葬儀。新しいスタイルを提案する動きは自宅葬以外でも生まれています。
葬儀社「アーバンフューネスコーポレーション」は、葬儀で「サプライズ」を提供することで話題を集めています。
祭り好きだった人のためには法被を着た「太鼓隊」まで用意する徹底ぶりです。
「アーバンフューネスコーポレーション」社長の中川貴之さんも、自宅葬コンシェルジュの馬場さんも、共通して強調するのは「葬儀は残された人のもの」という考えです。
第二の波を経験して値段の相場観をわかったからこそ、納得できるなら葬儀の価格にはそれほどこだわらない人が生まれている。そして、そんな変化に対応したビジネスが誕生しています。
1/5枚