お金と仕事
「コンビニオーナーは使い捨てなのか」 元経営者が実名で語った実態
「恵方巻き予約1人20本のノルマを課された」「大量に捨てられている」。2月上旬、コンビニエンスストアでアルバイトしている高校生や大学生のSNSへの書き込みが話題を呼びました。なぜ、こんなことが起きるのか。元コンビニオーナーの男性は、無理に売り上げを伸ばそうとする本部の「圧力」が、現場を苦しめていると指摘し、「便利さの裏で犠牲になっているものがあることを知ってほしい」と語ります。
体験を語ってくれたのは、横浜市の近藤菊郎さん(54)。2013年まで、横浜市内でコンビニを経営していました。
元々は会社員。「定年のない働き方をしたい」と、コンビニ経営に興味を持ちました。複数のコンビニチェーンで店員として経験を積んだ後、38歳で独立。神奈川県内の二つの店の経営に関わりました。
仕事にはやりがいを感じていたという近藤さん。ただ、経営は思っていたよりずっと大変でした。
「コンビニオーナーは『名ばかり経営者』。経営者としての責任は負わされるのに、経営判断する自由度がなく、かといって労働者として守られているわけでもない。逃げ場がないんです」
コンビニの多くは、外部から店主を募るフランチャイズ方式。会社側は商品や運営のノウハウを提供し、オーナーは売上総利益の数十%程度の対価(ロイヤルティー)を支払う仕組みになっています。本部の社員は店を巡回し、仕入れる商品や運営の仕方を「指導」します。
力を入れている商品の一つが、恵方巻きのような季節商品。本部にとっては、お店に多く仕入れてもらえば利益が上がるため、オーナーに仕入れ数を増やすよう「圧力」がかかります。といっても、証拠が残る形で「強制」されたわけではありません。
開業した年、近藤さんは本部の社員から、恵方巻きを数十本仕入れるように提案されました。まだ何もわからない時期だったため、提案通り仕入れたものの、結局、半分も売れませんでした。
翌年は、前年売れた数に応じて、発注を減らすつもりでした。ところが、本部の社員からは前年の仕入れ実績に基づき、前年仕入れた数にさらに上乗せして仕入れるよう求められました。社員は、ノルマという表現は使いませんでしたが、「従業員の戦力化」を提案。パートも「戦力化」し、目標を設定して、みんなで売り上げアップを狙うよう求められました。近藤さんが「本部の命令ですか」と聞くと、「そうではない」という答えでした。
近藤さんはあくまで、「前年売れた数+10%」を仕入れたいと突っぱねました。節分が近づくに連れ、社員は切羽詰まった様子に。「お願いです」「私も10本買いますから」と懇願するように。本部の社員も板挟みで苦労していることを悟り、近藤さんは「昨年売れた数+20%」で妥協しました。
「普通のオーナーなら、本部の言うままに仕入れるでしょう。努力するといっても、できるのはレジでチラシを配るくらい。あとはバイトに割り振って『ノルマ』とするか、自分で買い取るか、もしくは廃棄にするか。本部の担当者も、ある意味では被害者なんだと思います」と近藤さん。
同じようなことは、クリスマスケーキやおせち料理、お歳暮やお中元などの季節のたび、繰り返されました。
もう一つの悩みの種が、24時間営業。深夜に働く人材を確保するのも大変でしたが、安全面も課題でした。この店では、近藤さんが経営を引き継ぐ前に2度強盗に入られ、引き継いだ後も、深夜に1人でいた従業員が暴漢に襲われる事件がおきました。
近藤さんは、無理をして売り上げを伸ばすより、食べていける程度の収入があればいいと感じていました。深夜は売り上げがさほど多くはないため、24時間営業を辞めたいとなんども申し出ましたが、「契約だから」と認められませんでした。
1974年、コンビニ1号店が誕生してから40年あまり。コンビニは社会になくてはならないインフラになりました。一人暮らしの高齢者向けの宅配、災害時の支援など、公的な役割も担っています。
一方、加盟店側とのトラブルもしばしば問題になってきました。契約時の説明が不十分だったとして、加盟店が本部を訴えて訴訟になった例もあります。2009年には、弁当などの値引き販売を会社側が制限していたことについて、公正取引委員会が独占禁止法違反で排除措置命令を出しました。
近藤さんは、全国のフランチャイズ店のオーナーたちで作る「全国FC加盟店協会」の副会長を務めています。協会では、経営者の理念や方針を尊重することを訴え、「24時間営業」を一律で求めることなどに反対してきました。協会のホームページでは、「このまま24時間型社会がどんどん進むことが、健康な社会のあり方なのか」と問いかけています。
相談に来るコンビニオーナーの中には、無理な販売量を押しつけられ、拒否すると「次の契約はありませんよ」などとちらつかされた経験のある人や、人手不足を補うために長時間働き、疲弊している人がいます。中には、自殺したり、過労死と思われる亡くなり方をしたりした人もいます。
「消費者にも関心を持ってほしいけど、中年のコンビニオーナーが働き過ぎて死んでも、話題にならないんですよね。便利さの裏で犠牲になっているものがあることを知ってほしい」
近藤さんの店は契約期間の切れた2013年、本部が撤退を決め、閉店しました。再契約を希望していましたが、本部に断られました。「フランチャイズのオーナーは、使い捨ての労働力なのだろうか」。今も無念さは消えません。
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