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ベランダの転落、写真で「診断」してもらったら…本当に危なかった!
子どもがベランダから転落する事故を防ごうと、子どもの事故予防に取り組むNPO法人・Safe Kids Japan(東京)が家庭のベランダ写真をインターネットで募り、転落の原因を探る「ベランダ1000プロジェクト」を始めました。記者の自宅のベランダを分析してもらうと、「危険なベランダの典型例」との回答が。踏み台となるものが無くても、子どもが柵を乗り越えられる「盲点」も見つかりました。
このプロジェクトは、ベランダの幅や奥行き、柵の高さといったデータと、写真をNPOのホームページから投稿。ふだん使っているベランダの様子から転落につながる危険性を分析し、住宅メーカーなどの企業に転落の予防につながるベランダ開発を促そうとする活動です。
必要に応じて、専門家が投稿者にメールでアドバイスします。
記者宅のベランダ写真を見てもらったのは、このNPOの理事の一人、西田佳史さん(46)。本職は国の研究機関・産業技術総合研究所で人工知能などの技術を生活に応用する研究をしています。子どもの事故を予防するための実験にも取り組んでいるそうです。
記者「これがうちのベランダです。いかがでしょうか」
西田さん(以下、敬称略)「年齢によっては、かなり危ないと思いますね」
記者「踏み台になりそうなものはできるだけ、柵から離しているつもりなのですが・・・」
西田「確かにそうなんですが、それよりも気になるのは、この柵そのものです」
記者「え?」
西田「横方向のすき間がたくさんありますよね。子どもの足の指は簡単に入るはずです。踏み台になる物がなくても、このすき間を足がかりにしてよじ登り、柵を乗り越える子がいると思います」
記者「こんな小さなスペースにですか?」
西田「例えば3才児の場合、平均的な親指の先っぽは厚さ1.2センチです。指の腹の部分はやわらかいですから、足先はこのスペースにある程度入ると思います」
記者「そんな細かいデータがあるんですか」
西田「私たちが以前、幼児の身体の寸法を年齢別で計測したことがあります。子どもに安全な製品を作るのに役立てるために、身体や発達の特徴をまとめた『子どものからだ図鑑 キッズデザイン実践のためのデータブック』という本を出しました」
西田「過去に起きた事故では、踏み台のようなものがなくても、ガーデニング用の柵に足をかけるスペースがあって、そこを登って子どもがベランダから転落したと思われるケースもあります」
記者「ゴミ箱やイス、三輪車といった踏み台になるものを置かなければいいと思っていました」
西田「そうですね。そこは盲点だと思います」
西田「写真の左側に室外機がありますね。床からの高さはどれくらいですか」
記者「60センチです」
西田「60センチだと、4歳児の多くは登れると思います」
記者「これもずいぶん具体的にわかるんですね」
西田「ベランダとは違う安全な場所で、幼児がどれだけの高さを乗り越えられるか、という実験をしたことがあるんです。4歳児(22人)の場合は、平均で69センチ。最高で85センチの高さを乗り越えた子もいました」
記者「ただ、この室外機は柵に密着しているわけではありません。室外機に登れたとしても、少し離れた柵までは乗り越えられないのではないでしょうか」
西田「いえ、踏み台と柵に水平の距離があったとしても、乗り越えられる幼児はいます」
記者「……もしや、それも実験結果があるのですか?」
西田「私たちが編集に携わった別の本『子ども計測ハンドブック』に収録されています。実験をしたのは、日本大学の八藤後(やとうご)猛教授(60)です」
記者「幼児が転落しないように、どう対策をすればいいのでしょうか」
西田「今回のベランダは、転落事故につながる危険な物がいくつかある典型例だと思います。まずはベランダに子どもを出さないようにすることです。ベランダに面しているドアに元からついている鍵のほかに、子どもの手の届かない場所に市販の補助ロックをつけることは一手です」
記者「でも保護者が家事をしながら、子どもがベランダに出ないようにずっと見守っておくことは難しいですよね」
西田「そうですね。事故を予防するためには、周囲の環境の中で自分たちで『変えられるもの』を見つけて対策をとることが大切です。例えば、ベランダへ出ようとしたり、柵の向こう側を見ようとして登ろうとしたりする幼児の興味や好奇心は、注意してもなかなか変えられない場合があります」
記者「今回の場合は、例えばどのような対策が有効だと思いますか」
西田「登りやすい形状の柵は、内側にアクリル板のようなものをとりつけるなど、柵のすき間に子どもの足がかからないようにするといったことが考えられます。室外機は柵から離れた場所に置くと良いですが、今回の場合はベランダが狭いため難しいですね。例えば室外機よりも高い柵のようなもので囲って、登りにくくするのはどうでしょう。この囲う柵も、子どもの足がかりにならないようなものを選ぶと良いと思います」
記者「子どもの安全を考えると、元の設備だけでは不十分なのでしょうか」
西田「住宅メーカーなどの中には、柵の高さについて国の基準以上の独自の安全基準を設けたり、室外機を柵から離して設置したり、対策を進めている企業がありますが、国全体としてはまだまだです」
記者「予防のために自分たちで対策をとるのは大事ですが、ひと手間かかりそうですよね。元の設備が今よりも子どもの安全に配慮されていたら良いのに、と思います」
西田「そうしたベランダの設備の現状や、住んでいる人が普段どんな物を置いているか、といった日常風景から転落につながる原因を探ります。写真はベランダにあるものを片付けずに撮影することがポイントです。3月末まで写真とデータを募集しています。ご協力お願いします」
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Safe Kids Japanによると、ベランダ1000プロジェクトの募集対象は、0~10歳の子どもがいる家庭や、子どもが遊びにくることがある家の人たち。撮影や計測の方法はホームページで説明されています。募集は3月31日まで。氏名や住所は不要ですが、メールアドレスの入力が必要です。プライバシー保護のため、分析する際は写真の屋外背景などをぼかして使用するそうです。結果は一部の写真とともにホームページで公表する予定です。
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