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話題

「握手会=総合芸術」から対人スキルを学ぼう! 就活に役立つヲタ活

2015年、岩手県釜石市でミニライブの後、来場者とハイタッチをするAKB48の高橋みなみさん(当時)
2015年、岩手県釜石市でミニライブの後、来場者とハイタッチをするAKB48の高橋みなみさん(当時) 出典: 朝日新聞

目次

 ヲタ活は、就活に役立ちます――。
 ああ、逃げないでください。冗談じゃないんです、本当なんです。今年もいよいよ就活が始まりましたが、「エントリーシートに何を書けばいいんだろう」「私の良さってなんだろう」と悩む学生さんは多いと思います。そんな悩める大学生に、アイドルオタクが力説します。「大丈夫! アイドルから社会スキルを学ぼう!!」(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)

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アイドルから学ぼう
アイドルから学ぼう 出典: 朝日新聞

「好き」をもらう専門技術者

 ご紹介します。阪本輝昭記者(40)。
 朝日新聞大阪社会部で、若手の記者たちを束ねる遊軍キャップをしています。

 そして、もうひとつの顔が「アイドルオタク」(通称ドルヲタ)です。
 ドルヲタ歴は6年。仕事でも「NMB48」をデビューした2011年から取材し続けています。

阪本輝昭記者(イラストで失礼します)
阪本輝昭記者(イラストで失礼します) 出典: 朝日新聞

 

阪本記者

アイドルというのは、他人の『好き』をもらう専門技術者です。ヲタの立場からは彼女たちを見続けることで対人スキルを学ぶことができる。それが僕なりの理論です

 「理論」っていうあたりが、ヲタっぽいですよね。

 せっかくなので、阪本記者の理論を披露するべく、学生さんに来てもらいました。
 津田塾大学の高橋さん、藤井さん、大橋さんです。

 みなさん就活を前に「自分に『良さ』ってあるのかな」「企業になにをどうアピールすればいいんだろう」などなど、不安を抱えています。本当に、「ドルヲタ」経験が仕事で役に立つことがあるのでしょうか?「講義」の始まりです。

左から津田塾大学の高橋さん、藤井さん、大橋さん
左から津田塾大学の高橋さん、藤井さん、大橋さん 出典: 朝日新聞

 

阪本記者

たとえば営業マンって、営業先に好かれないといけないですよね。営業先の大口契約を他社にとられた営業マンを考えてみてください。営業先は『どの社にしようかな』と選び放題な状態で、そこを他社の営業マンに出し抜かれたら、みじめです。記者も同じです。

アイドルは、究極的には「私を好きになって下さい」とアピールする仕事です。彼女たちが人から好意を得るために創意工夫をこらし、互いに切磋琢磨している様子を見ていると、社会人として学べるものがあるなあと思ったんです。それが私の研究のはじまりです(キラーン)

 

学生

おおおお。

 

阪本記者

ではまず、「総合芸術」ともいえる握手会から見ていきましょう。

 

学生

総合芸術!?

NMB48の握手会の様子(2012年)
NMB48の握手会の様子(2012年) 出典: 朝日新聞

 

阪本記者

AKB48を題材としたコミック「AKB49~恋愛禁止条例~」に「握手会は”握手をする会”じゃない。『10秒の公演』なんだよ」という言葉が出てきます。本質をついた言葉だと思います。

まずは、やってみましょうか。握手会の形態によりますが、話せる時間はだいたい10秒前後です(握手券の複数枚使用が可能な場合はこの限りではない)。みなさんひとりずつ、今だけ『握手会に臨むアイドル』になりきって下さい。私がヲタ役をやります。

 

学生

すご! 人生で握手会のシミュレーションをやる日がくるとは!!

~長机の前に立って待つアイドル(学生)。左手からヲタ(阪本記者)が歩いてくる~

 

阪本記者

はじめて来ました。
今日もいい天気ですね。

 

学生

えっ? 
あっ、そうですね。
ま、また来てください!
~終了~
握手会のシミュレーションをする学生(右)。阪本記者がドルヲタ役
握手会のシミュレーションをする学生(右)。阪本記者がドルヲタ役 出典: 朝日新聞

 

学生

早い~! なんて言えば良いの~!

 

阪本記者

実は正解はないんです。「ありがとうございます。また来てください(ニコニコ)」でいいし、逆にいえば何をやっても正解です。

ただ、破壊力1の正解もあれば、破壊力100の正解もある。いかに他のアイドルより突き抜けた正解を出すか、ファンの心をつかむか、彼女たちは工夫しているんです。

 

学生

なるほど

 

阪本記者

就活も同じですよね。学生さんはみんなお行儀良くして、印象良くしゃべる。「学生時代に○○を頑張りました」「御社のために働きたい」とみんな言う。そのなかで、どう自分の強みをアピールしていくのかを考えましょう。

 

学生

深い!!! アイドルの側に立って考えるっていう発想はなかったです!!

模擬面接の様子。いかに差を付けるのか、工夫が必要
模擬面接の様子。いかに差を付けるのか、工夫が必要 出典: 朝日新聞

骨で握手する

 

阪本記者

では、実際にアイドルがどうやっているのか。事例を見ていきましょう。

NMB48を先日卒業した渡辺美優紀さん、通称「みるきー」は、握手会で絶大な人気を誇っていました。彼女の握手会の様子をご紹介します。

~大人の事情でお見せできません。ごめんなさい~

 

学生

めっちゃ目を見て話してる。

 

学生

手を握ってる時間が長い。最後までしっかり離さない感じ?

 

阪本記者

めちゃくちゃいいところに気がつきましたね。天才ですか?
その観察力は記者向きかもしれません。

彼女はAKB48のシングル曲「ギンガムチェック」の特典DVDのなかで、握手会のコツを自ら話しています。こんな内容です。

~大人の事情でお見せできません。ごめんなさい~
確定申告のPRをする渡辺美優紀さん(2016年)
確定申告のPRをする渡辺美優紀さん(2016年) 出典: 朝日新聞
「最後にバイバイってする時に、ぎゅって強く握るんです」
by 渡辺美優紀

 

学生

なるほどー! そんなことまで考えてるんだ!

 

阪本記者

そして実際に渡辺さんと握手をしたメンバーは「(最後にぎゅっとされたら)握手したって実感がある。骨に残る」と感想を述べています。そう、骨と骨で握手をする。我々は、「握手は手の表面でするもの」と思い込んでないでしょうか。その概念を覆したのが渡辺さんともいえるのです。

 

学生

(苦笑)

骨に残る握手
骨に残る握手 出典: 朝日新聞

 

阪本記者

実はこれ、人間の心理にかなっているんですよ。
握手会の最初に「来てくれてありがとう!」って盛り上がっても、ファンとしては去り際にアイドルに気を抜かれたり、適当な対応をされたりすると、「実は歓迎されてなかったのかも」って思ってしまう。

採用面接でも、去り際のあいさつが大事だと言われています。

 

学生

そうなんですか!!

 

阪本記者

学生さんは、面接中は緊張していますが、最後は気が抜けて、「じゃ、どもー」って感じで部屋を出て行くことがあります。でもそこで「ありがとうございました!」ときちんとあいさつをして退出すると、面接担当者に与える印象が良いと言われます。
渡辺さんの「最後にぎゅっ」は、そんなことも我々に教えてくれるのです。

 

学生

そこまで読み取れるとは。深いです。

阪本記者の話に「深いですね~」とうなずく学生たち
阪本記者の話に「深いですね~」とうなずく学生たち 出典: 朝日新聞

即興で相手を「釣る」

 

阪本記者

ではもうひとつ事例を。

渡辺さんには、「釣り師」という異名もありました。
アイドルはファンから握手会などで「僕を『釣って』ください」って言われることがあるようなんですね。「釣る」とは「虜にする。魅了する」というような意味です。「釣ってください」というのは「まだそこまでファンじゃないけど、僕の心をつかんでください」というようなニュアンス。
そして、うまく返すアイドルは「釣り師」と呼ばれることがあります。

 

学生

握手会って、そんなことも言われるんですか。

 

阪本記者

みなさんがアイドルなら、どうしますか?

 

高橋さん

絶対幸せにするから、応援してって言う

 

藤井さん

見つめ続ける。

 

大橋さん

意味が分からないフリをして「釣り?」って魚釣りのジェスチャーをする。

 

阪本記者

渡辺さんの答えは違いますが、私は大橋さんの答えを推します。

 

学生

(笑)

「釣り?」(画像はイメージです)
「釣り?」(画像はイメージです)
出典:PIXTA

 

阪本記者

では、渡辺さんが「釣ってください」と言われた時にどうするか。
特典DVDではこんな返し方を披露しています。
~大人の事情でお見せできません。ごめんなさい~
「(無言で投げキッス)」
by 渡辺美優紀

 

阪本記者

これです。握手会では、ありとあらゆる弾が飛んできます。「釣って」なんて漠然としたリクエストにも即興でこたえないといけない。

 

学生

大変だ……。

相手の心を「釣る」技術をもつアイドルたち
相手の心を「釣る」技術をもつアイドルたち 出典: 朝日新聞

 

阪本記者

社会人になってからも、その場その場の状況に応じた臨機応変な判断が求められますよ。
そのひとつひとつの積み重ねで、「この担当者はいいセンスをしているな」と、ライバル社の担当者と差別化がはかれるんです。

私も以前、会社の採用面接に加わったことがあるのですが、長時間に及ぶ面接や集団討論でも、序盤や終了間際の一瞬のやりとりが担当者に鮮烈な印象を残すことがあります。

一瞬一瞬を制するものが勝負を制するわけです。

 

学生

そういうものなんですね。参考になります。

 

阪本記者

この握手会のスキルは、渡辺さんが思考訓練をした結果だと思うのです。
「人とは違う握手とはなにか」を考える。
表情、目の動き、しゃべる内容、握り方。何か一つだけではダメ。
それが「握手会は総合芸術」と私が言う理由です。
渡辺さんが握手会で鉄壁の人気を誇っていたのは、こうした小さな積み重ねの結果だったとも考えられるわけです。

 

学生

深いわー。

AKB48の渡辺麻友さんと握手をする伊原木隆太・岡山県知事
AKB48の渡辺麻友さんと握手をする伊原木隆太・岡山県知事 出典: 朝日新聞

 

阪本記者

では、次に、ある握手会会場での渡辺さんの様子です。お客さんがまだ並んでいない空き時間に、テレビカメラのある方を見つめて急に踊り出したことがあったんです。

~大人の事情でお見せできません。ごめんなさい~
NMB48のメンバーだった渡辺美優紀さん
NMB48のメンバーだった渡辺美優紀さん 出典: 朝日新聞

 

学生

かわいい~!

 

阪本記者

実はこの時、カメラを持っていたディレクターは別のメンバーの密着取材中だったのですが、渡辺さんが急に楽しそうに踊り出したんで、思わずそっちにカメラを向けてしまったと後日語っています。取材する側が無意識に「釣られた」といえるわけです。

 

学生

えええええ!?

 

阪本記者

渡辺さんの意図はわかりません。
ただ単に、急に踊りたくなっただけかも・・・。

ただ、私は渡辺さんの秀でたアピール力のようなものをそこに見ました。
一事が万事、ファンとの関係でも似たようなことが言えます。「あの人は○○ちゃんのファンだから」とはじめから諦めるのでなく、他のヲタの目をこっちにも向かせる、「1推し」じゃなくても「2推し」にしてもらうところから始める、というのもひとつのやり方です。

もちろん、やりすぎるとメンバー間でぎくしゃくしてしまいますから、バランスも大事になりますが。

 

学生

うーん。難しそうですね……。

デビュー間もないころの渡辺美優紀さん(2011年)
デビュー間もないころの渡辺美優紀さん(2011年) 出典: 朝日新聞

 

阪本記者

でも、社会人でもあるんですよ。

例えばですが、「あの取材先は読売新聞のファンだから、朝日の記者にはしゃべってくれないだろう」とはじめから諦めるんじゃなくて、思い切って飛び込んでみると糸口がつかめることがあります。

みなさんも、就活で「大企業だから無理に決まってる」「自分にはスキルがないから無理」と思うかもしれませんが、スキルがないからこそ、真っ白な頭で考えたアイデアが評価されることがあるかもしれない。自分の事前の思い込みで諦めるのは損なんじゃないかとも感じられます。

 

学生

また深い! 勇気が出ます。

 

阪本記者

私は5年余り、記者として渡辺さんを遠くから見て来ましたが、彼女は最初からこうだったわけではありません。
頭が良い人だし、勉強熱心で、プロ意識も高かったんでしょうね。自分なりにどうすればファンの心に印象を残せるのかを考えて、創意工夫でどんどん人気を得ていきました。

卒業してしまいましたが・・・。

 

学生

あっ……。

卒業公演での渡辺美優紀さん
卒業公演での渡辺美優紀さん 出典: 朝日新聞

――ドルヲタ授業はまだまだ続きます。次回は、「アイドルから学ぶ自分のキャラのいかし方」です。

【就活に役立つヲタ活】
1回目 「『握手会=総合芸術』から学ぶ対人スキル」(今回)
2回目 「無理しない自己アピール方法」
3回目 「ES書くことないならヲタになろう」

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