中高年向けの「若者解説本」は多いですが、若者向けの「おじさん・おばさんトリセツ」はあまり見かけません。若者にとっても、おじさん・おばさんの言動は意味不明です。無視したくても、社会に出ると、おじさん・おばさんはやたらと若者の前に立ちはだかります。どう対処したらよいのでしょう。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)
おじさんおばさんトリセツ
おじさん・おばさんを知り、攻略法を知るこの企画。
今回の授業は3時間目。いよいよ、攻略編です。
講師は引き続き、コラムニストで淑徳大学客員教授の深澤真紀さんです。
生徒役の大学生も、この4人(明治大学4年・小出英知さん/慶応大学4年・永井大輔さん/早稲田大学3年・英佳那さん/津田塾大学3年・大橋実結さん)。

おじさんおばさんのここがイヤ
深澤さん
日頃、おじさん・おばさんに対して疑問に思うこと、嫌だなと思うことがあると思います。
それをひとりずつ教えてもらえますか?
学生・大橋さん
コールセンターでバイトした時、おじいちゃんが住所を「青葉区」っていうから「横浜市ですか?」って確認したら、「仙台に決まってるだろうが!」ってキレられました。
深澤さん

学生・大橋さん
「最近の若い子は甘えてる」とか「若いからってチヤホヤされてる」とか。ずっと我慢してたんですけど、耐えられなくなって言い返したら、泣かせちゃいました。
それでそのバイトは辞めたんですけど。
深澤さん
若い子に言い返されたから泣くなんて、最近のバブル世代は甘えてるね(笑)
学生・大橋さん
私は名前が「みゆ」ですけど、「みゆみゆー」って言われるのがすごい嫌で。
深澤さん
私も「みゆゆ」とか呼んじゃうと思う。どうしてなのかな。
いまとても反省しました。
学生・大橋さん
いやいや、そんなに親しくないから、ってなっちゃう。
深澤さん
気をつけます……。
――記者がツイッターで「おじさん・おばさんの言動で『なんでこんなこと言うの?(やるの?)』『自分たちの世代とは違う』と思うことを教えてください」と聞いたところ、10~20代の人たちからたくさんの意見が寄せられました。
その中で、多かった意見のひとつが「店員にため口で話す」でした。
若者には「知らない人なのになれなれしい」となるようです。言い方次第では「あなたの召使いじゃない」と不愉快なことも。

学生・英さん
あれはイライラします。
深澤さん
次が50代で、一番少ないのは20代です。暴れる老人は問題になっていますね。
――記者のツイッターに寄せられた若者の意見でも、
「ケガをして優先座席に座っていたら大声でイヤミを言われた」
「電車に乗るときに、降りる人を待たない」
など、電車内でのおじさんおばさんの言動が多く挙がりました。
駅や電車の乗務員への暴力行為は、鉄道各社が頭を悩ませています。

学生・英さん
「そんな野菜の切り方でふだん家事とかできるの?」ってすぐイチャモンつけてくるし、なにかにつけて「僕たちが君くらいの時にはもっと努力してた」って言われます。
深澤さん
若い時の自分はたいてい美化されがちで、自分がアホでダメだったということは忘れてしまうんですよね。
学生・永井さん
本当かどうかわからない武勇伝をやたら語ってくるんですよ。
「俺がお前ぐらいの時は、毎日セックスしてたぞ」とか。
深澤さん
たぶんそれもウソなんだけど、もし本当だとしても、学生時代に毎日セックスしてることって自慢なのかな(笑)。話題がセックスしかないなんて、なんかかわいそうだよね。
そして、だいたいそういうおじさんって「君たちは草食で情けない」とかディスってくるでしょ。
学生・永井さん
で、「あやかりたいんで、女性を紹介してください」って返したら、「それは困るよー」で話が終わります。
深澤さん
それにバブル世代と今の世代の童貞率は変わらないですからね。
今も昔もモテる人は一部の存在なんです。そして、本当にモテた人は、そんなしょうもない自慢話はしません(笑)。

学生・小出さん
「東大です!」ってウソついてマウンティングし返したら、黙ります。
深澤さん
まあウソにはウソで対処するという手もあるかもしれないけどねえ。
①敵を知れ!
深澤さん
みなさんに提案したいのは三つです。
まずひとつめは、「知る」こと。
みなさんは、おじさんおばさんが生きてきた時代をよく知らないでしょう?
学生
深澤さん
世代ごとの肝になる出来事は歴史として押さえておくといい。
団塊なら東京五輪(1964年)とか、バブルならディズニーランド開業(1983年)とか。小中学生の時に受けたインパクトは、その後の人生でも影響が大きいですから。
そのうえで、個々の人の違いに興味を持つ。「俺はディズニーランドは行かない主義だ」というバブル世代も少なくないですからね。
学生

深澤さん
すごくいい言葉のようだけど、私は、学生時代は「自分」よりも「他人の頭」「他人の言葉」を集める方が大事だと思います。
右から左まで、どれだけ多くの「偏見」を集められるか。
年を取ったらどうせ頭がかたくなるんだから、若いうちは自分の頭だけを信じない方がいい。
たとえば自分のツイッターのタイムラインが極端に右とか左だったら、それはつまらない。
いろんな偏見を知れば、自分に合った偏見に出会えます。
学生
深澤さん
学生

②利用or逃げろ!
深澤さん
めんどくさいおじさん・おばさんからは、逃げた方がいいんです。
「まじっすか~あはは~」と適当に話を聞いて、その後全力で逃げましょう。
本気で衝突したら嫌がらせされるし、笑って合わせていたらこき使われて疲弊しちゃう。
学生
深澤さん
その場合は、必要最低限の関係だけを維持して、あとは逃げられないまでも、上手に「よける」ことです。

深澤さん
そういう人は、いい意味で利用してしまいましょう。
ただ、若いときってくそ真面目だから、尊敬できる人を見つけると、全人的に尊敬してしまう。
でもそうすると、例えばその人が鼻をほじってるのを見るだけでがっかりしちゃう。
学生
深澤さん
勝手に片思いして、勝手に振ってしまう。
絶対的に誰かを尊敬したりあこがれるのは、ちょっと危険な部分がありますから、おすすめは「フランケンシュタイン型メンター」です。
学生
深澤さん
その時々に、自分が必要なものを持っている人を見つけて、パーツを組み替え続けていけばいいんです。

③プレゼンせよ!
深澤さん
これができると就活にも役立ちますよ。
学生
深澤さん
おじさんが会社や家庭で「これって知ってるか?」とドヤ顔できる情報を提供できるといい。
例えば「シンゴジラ」と「君の名は。」はどうしてあんなに流行したのかを、解説してくれるとうれしいわけです。
学生

深澤さん
でもいつまでもこびてばかりもいられない。
あなたたちだからこその言葉・情報を持ってきてくれると、おじさん・おばさんにとって、君たちがただの「若者」じゃなくて有益な存在になるんです。
もちろん、嫌いな相手じゃなくて、メンターになるような人に、物々交換のような感じで、情報を提供できればいい。
学生
お互いの役に立つ関係っていいですね。
深澤さん
そして、これができるようになると、今度は自分たちがおじさんおばさんになった時に、下の世代とうまく付き合えるようになります。
上に自分たちのことを説明できれば、下にもできるようになるんです。
練習しよう!
深澤さん
おじさんおばさんにプレゼンできるようなみなさんの「自分の武器」は、どんなものですか?
学生・大橋さん
深澤さん
いまどきのフェスはおじさんにとってあまりわからない文化だから。
そこに紅白にも出たようなセカオワ(SEKAI NO OWARI)とかゲス(ゲスの極み乙女。)とかRADWIMPSを入れて説明できるといいね。
学生・大橋さん
「やっぱりビートルズは越えられないんだよ」とか。
深澤さん
音楽の歴史を見たら、ビートルズは重要な存在ですから。
たとえば、あなたもビートルズを聞いて学んで、あなたが知ってる今の音楽につなげてくれるといいですよ。
「このバンドでは、ポールがこの人でジョンがこの人なんですよ」、みたいに。
学生・大橋さん

学生・英さん
それって、いまの私たちにとってのワンオク(ONE OK ROCK)みたいなものですか?
深澤さん
あなたもBOOWYを聴いてみて、ワンオクはみなさんの時代のBOOWYですよ、とすすめてあげるといいですよ。
ワンオクなんて聴いたらかっこよすぎて、おじさんはびっくりするんじゃないかな。そういう情報は役に立ちます。
学生・英さん

学生・永井さん
深澤さん
バブル期にはじまった「美味しんぼ」や「クッキングパパ」とかを絡めて語れたらなおいいね。
私たちおじさんやおばさんは、自分の記憶スイッチを押してもらうのが好きなので、昔呼んだ漫画の話とか、語りたがります。
私も学生時代は貧乏だったから、この二つの漫画の貧乏レシピを作ったり、いつかここに載ってる豪華料理を食べたいと思ってました。
そういう話を若者とするのは楽しいです(笑)。
学生・小出さん
深澤さん
昭和の格闘技の歴史をふまえたうえで、今の複雑になりすぎた日本と世界の総合格闘技の情勢とかを教えてくれると、うれしいですよ。

――授業はおおいに盛り上がり、気がつけば3時間近くになりました。
「今どきの若者は」とか「おじさんって最悪」とか、お互いにけなしあっていては、断絶は深まるばかり。
若者も、おじさん・おばさんも、互いにうまく付き合える方法を少しでも知ってもらえたら、幸いです。