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「甲子園文字」地味にスゴイ伝統芸 職員泣かせ「伝説の難読校名」

甲子園歴史館に展示されている手書き時代の選手名板。現在の電光掲示板の文字の「お手本」になっている=兵庫県西宮市、伊藤菜々子撮影
甲子園歴史館に展示されている手書き時代の選手名板。現在の電光掲示板の文字の「お手本」になっている=兵庫県西宮市、伊藤菜々子撮影 出典: 朝日新聞

目次

 1月27日に出場校が決まった今春の選抜高校野球大会。舞台となる阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)の電光掲示板には、独自の字体が使われていることをご存じでしょうか。ぱっと見「明朝体」ですが、それよりちょっと縦線が太い。高校球児から阪神ファンまで、多くの人の記憶に残っているこの書体。担当者泣かせの超複雑な高校名や、なが~い外国人選手名を巧みなひと工夫で伝え、独特の世界を築いてきました。関係者の間で「甲子園文字」と呼ばれている文字について調べてみました。(朝日新聞スポーツ部記者・井上翔太)

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「風情残して」 手書き文字が原型

 甲子園球場のスコアボードが、現在のような「電光式」になったのは1984年。それまで選手の名前は、職人さんによる「手書き」でした。縦140センチ、横67センチの木や鉄製の黒い板に、白色のペンキと筆を使って選手名が書かれ、当時のものは、今でも甲子園歴史館で展示されています。

 電光式に移行される際、ファンから「風情を残してほしい」という声が上がった、と言われています。達筆な文字がそれだけ愛されていたのでしょう。歴史館の室井康平さんによると、「今の電光掲示板の文字は、これらを基に作られています」。電光式では当初、手書きの文字に似せるため、電球よりも細かく表現できるブラウン管が使われていたそうです。

甲子園歴史館に展示されている手書き時代の選手名板=兵庫県西宮市、伊藤菜々子撮影
甲子園歴史館に展示されている手書き時代の選手名板=兵庫県西宮市、伊藤菜々子撮影 出典: 朝日新聞

アナウンス担当がパソコンで1文字ずつ作成

 球場で場内アナウンスを担当している満田華奈さんに「甲子園文字」の作り方を教えてもらいました。

 ブラウン管の頃は、選手名の漢字1文字が「縦16×横16個の点(ドット)」で作られていました。今でこそ、データベース化されているそうですが、移行される際はすべて手作業。パソコン上で1文字ごとに白黒のドットを組み合わせて、文字を完成させていったと思われます。

 「はね、はらい」などは、筆づかいに似せる必要もありました。珍しい字は「へん」「つくり」といった別の漢字のパーツから引用して作りました。

 スコアボードの出場選手名が表示される部分は、2011年にフリーボード化され、全面でLED電球が使われるようになりました。これに伴い、1文字のドット数も「縦24×横24」に増えたといいます。

甲子園文字は明朝体よりも、縦の線が太い
甲子園文字は明朝体よりも、縦の線が太い

最も苦労したのは「済々黌(せいせいこう)」

 これまで満田さんが最も苦労した文字は「済々黌(せいせいこう)高校(熊本)の『黌』」。上の部分は「興」、下は「黄」などを参考にして、一つひとつのドットを丁寧に塗りつぶして完成させました。

 例えば外国人のような「カタカナ4文字以上」の選手がいる場合は、一工夫が必要です。名前が表示されるスペースは「縦に漢字3文字分」が基本。そのため専用のソフトに名前を打ち込んだ後、文字をつぶすようにして縮め、スペース内に収めなければならないのです。

 ただ、観客席から名前が読めなくなっては意味がないので、名前が長い選手は2行使うことも。記者が見た限りでは「メッセンジャー」(阪神)は1行で収まっていましたが、「スタンリッジ」(ロッテ)や「サターホワイト」(前阪神)は2行でした。

「甲子園文字」を作る拠点の放送室に、特別に入れてもらった=兵庫県西宮市、伊藤菜々子撮影
「甲子園文字」を作る拠点の放送室に、特別に入れてもらった=兵庫県西宮市、伊藤菜々子撮影 出典: 朝日新聞
最後の手書きスコアボード
最後の手書きスコアボード 出典: 朝日新聞

スコアボードで味わう伝統と新技術

 プロ野球では戦力が整う春季キャンプの頃から、春夏の高校野球では大会前に出場校が提出する選手資格証明書を基に、専用ソフトに名前を登録していきます。これも場内アナウンスを担当する球場職員が担います。

 満田さんによると、「チーム内に同姓の選手がいるかどうか」を確認し、いる場合は下の名前の頭文字も登録。この場合、大きさは名字よりも一回り小さく、ドット数は縦21×横21だそうです。旧字かどうかも含め、登録名に誤りがないかを点検するのも大事な仕事です。

 昔の面影を今に残す「甲子園文字」。野球を見る際は、スコアボードの伝統と新技術を味わうのも面白いかもしれません。

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