話題
トランプ危険!と思って渡米したらファンになって帰ってきた学生の話
今年、世界をゆるがしたニュースといえば、アメリカ大統領選挙でのドナルド・トランプ氏の勝利です。11月の選挙戦最終盤、アメリカに渡って突撃取材を敢行した大学生がいます。
アメリカに突撃取材に行ったのは、慶應大学3年の古井康介さんと、樋口慧さん。社会課題をとっつきやすい切り口で伝える動画や、解説記事を発信するウェブサイト「ぽてと(POTETO)」を運営しています。アメリカ大統領選挙の動画レポートも、公開中です。
「トランプは危険だ」と思って支持者の集会に行ったら、いつのまにかファンになってしまったり、ヒラリーの勝利演説を聴こうと投開票日にニューヨークに乗り込んだら、お通夜会場になってしまったり。そんな彼らの突撃レポートを前後編でご紹介します。
まずは「トランプ編」。
11月4日。私たちはニューヨークに到着した。
この日は、大統領選挙投票日の4日前。
ユースホステルに荷物を置くと、観光もそこそこに、トランプ探しに出かけた。ニューヨークの街中でトランプ現象の片りんを探すことにしたのだ。
私たちが渡米を決めたのは、今年の6月24日だった。
イギリスがEU離脱を決定した日だ。
あの日、ツイッターには「これはヤバい」というつぶやきが溢れた。「EUが崩壊する」「イギリスが分裂するかもしれない」。
私たちのような一介の大学生も「ただ事ではないことが起きている」という感覚を持った。
けれど、その感覚は、「なんだか得体の知れないことが起こっている」というワクワクするような感じも含んでいた。
アメリカに目を向けてみると、トランプ氏が大統領選挙の台風の目になっていた。
吹き荒れるトランプ旋風、巻き起こるトランプ現象。
これもまた「得体のしれない出来事」だった。私たちは、「得体のしれない何か」を体感するためにアメリカへ行くことにした。
とはいえ、所詮は大学生の貧乏旅行である。旅行資金を稼ぐため、私たちはスーパーとレンタルCDショップでせっせとバイトをした。航空券は最安のものを購入。直行便が買えるわけもなく、北京経由でようやくニューヨークへ着いたのだった。
「トランプ現象」を探して、真っ先に向かったのはトランプタワー。ニューヨークの目抜き通り、五番街にそびえるトランプ氏所有の高層ビルだ。
タワーの中に入ってみると、建物の中は「金ぴか」だった。カフェやレストランを囲む壁は文字通り輝いていて、そこで食事をしている人たちは心なしか裕福そうに見えた。
お高そうなカフェに用はない。私たちは、建物の片隅にあったトランプグッズショップに立ち寄った。
グッズショップにあったのは、帽子やスウェット、タオル、カレンダーなど。どれも、どデカい”TRUMP”のロゴ入り、もちろんカレンダーは顔写真つきだ。
せっかくだからお土産を買おうという話になった。グッズ購入の列に並び、いざレジが近づいたところで最初の事件は起こった。
「グッズを買えるのは、アメリカ国籍を持っている人だけです」
レジの女性から大きな声でアナウンスがあった。アメリカ国民であることを示すIDがなければ、グッズは買えないらしい。
「なわけねーだろ」。
何かの間違いだろうと思い、そのまま列に並んでいた。すると、私たちの後ろにいた白人のおばさんから「あなたたち買わないんでしょ?」と話しかけられた。早くどきなさいという圧力を感じた。
店員によれば、トランプ氏のグッズを買う事は寄付行為に当たるのだそうだ。外国人がこれを買う事は違法になるとのこと。
私たちは、何も言えずおずおずとその場を後にした。
もやもやした気持ちのまま、私たちはタワーの外に出た。
するとトランプタワーの前では、小さな集会が行われていた。女性やヒスパニック・アジア人たちが「私達もトランプ氏を応援しているよ」と主張する集会だった。トランプ氏に差別的な発言をされてきた人たちが、トランプタワーの前に集まりトランプ支持を訴えていたのである。
なんでまたそんなことをしているのか。疑問に思い、そこにいた人たちに話を聞いてみた。
最初に、真っ赤なコートを着たおばさんに声をかけた。
アルゼンチン移民だというおばさんは、正当な手続きを経てアメリカの居住権を獲得したのだという。そんなおばさんいわく「不法移民」はやはり許せないらしい。確かに不法移民は「違法」ではある。違法なことは許せないでしょう、だから不法移民は許すべきではない。単純な主張ではあるが、そうであるがゆえの説得力があった。
集まった人々は、トランプ氏の差別的な発言と、トランプ氏が掲げる政策の是非は全く別の話だと割り切っていた。トランプ氏に非難されているその対象自身が、差別的な発言に対して悲観的ではない様子に、私たちは不思議な感情を抱いた。
次の日。私たちは、トランプ氏の集会に参加することにした。
トランプタワーで門前払いをくらっていただけに、内心かなり不安だった。
正直、怖かった。
白人だらけと聞くトランプ集会。右も左もわからない日本人が、のこのこ参加して大丈夫なのだろうか。罵声を浴びせられたり、殴られたりしないだろうか。前日のように、日本人だから会場に入れさせてもらえないなんてことは起こりやしないだろうか。悩んだけれど、答えは出なかった。
こうなったら、実際に行ってみるまでだ。私たちは、ニューヨークを離れ、ペンシルバニア州西部の大都市、ピッツバーグに向かった。その日は、街の郊外にあるピッツバーグ国際空港の一角で、トランプ氏の集会が開かれることになっていた。
集会会場に着いたのは午後2時半。イベント開始は7時半の予定だ。
開始時刻の5時間前にも関わらず、すでに会場の前には長蛇の列が出来ていた。並んでいる人たちのほとんどは白人だ。
「ひえー、マジで白人だらけだ。恐ろしい」。
すぐさまトランプTシャツを買い、服を着替えた。
これで支持者にカモフラージュできる・・・はずだ。
トランプグッズを売っている露店のおじさんに
「今日、アジア人を見ましたか?」と聞いてみた。
「いいや、見てない」
即答だった。
隣にいた若いお兄ちゃんが
「前に、フィリピン人の女の子がトランプの集会に参加しているのは見たぞ」と教えてくれた。
覚えてるの、一人だけかよ!!! そんなに白人以外いないのかよ!!!
ヤバいところに入り込んでしまった。そう思わされた。
別の露店で、”Make America Great Again”と書かれた赤いキャップを買った。帽子を目深にかぶり、列の最後尾に並んだ。これでカモフラージュは完璧だ。列の中では、極力しゃべらないようにした。
列に並んでいて気になったのは、周りにいる人たちが、とても楽しそうにトランプ氏の話をしていたことだった。
ごく普通に、日常会話をするような感じで、トランプ氏の政策や、最近の政局について話しているのである。それも、連れ合わせてきた人たちだけでなく、たまたま前後にいた人とすんなり打ち解け、そしてトランプ氏の話をしているのだ。
この人たち、よっぽどトランプ氏が好きなんだなあ、と思った。
列に並んでから30分ほど経ったころ、突然、前に並んでいた中年女性が話しかけてきた。
「げ。なんか言われる」。身構えてしまった。
しかし、意外にもおばさんはフレンドリーな感じで、何やらジョークをかましてくれたようだった。私たちが、「ウィーアーフロムジャパン」と返答すると、おばさんとその周りにいた人たちが私たちの方を向いた。興味を持ってくれたらしい。
「なんでこんなところまで来たの?」
「トランプ氏は日本でも有名だから、一度生で見てみようと思ったんです」
「君たちもトランプ支持者かな?いいねえ」
「はい!」(嘘も方便)
「君たちにも投票権があったらいいのにね」
「ええ、そうですね…」
質問攻めにあったけれど、彼らはとても友好的だった。私たちに話しかけてくれた女性は、最近まで学校の校長をやっていたそうだ。
「あなたたち学生?」
「はい、大学生です」
「あら、そう。私は学生が大好きなのよ」
おばさんは、にっこり笑いながらそう言った。
白人だらけのトランプ氏支持者の中で、私たちは目立ったに違いない。この日、アジア系の参加者は、ほとんどいなかった。しかしおばさんは、私たちをアジア人だと差別することなく、「学生」として受け入れてくれた。これは驚きだった。
その後も周りにいた人たちとの会話は続く。
「とにかく、あなたたちに覚えておいて欲しいことは、私たち(トランプ支持者)がミドルクラスだという事。それを知ってほしい」
「私たちは、CNNみたいに偏向したメディアが伝えているような変な人ではないの。ごく普通のミドルクラスなのよ」
「彼(トランプ氏)自身は億万長者だけど、彼は私たちミドルクラスを救おうとしているの」
何となしに、そんな風に語るおばさんが、自分の母ちゃんに重なった。母ちゃんが橋下徹元大阪市長を応援していた時も、たしか似たようなことを言ってたっけ。どことなく「庶民のヒーロー」の印象があって、だからこそ世間の「頭の良い人たち」が危険視している。だからこそ、応援したくなる感じ。
元校長のおばさんは、まるで大阪のおばちゃんさながらに、トランプ氏の缶バッジをプレゼントしてくれた。
会場の外で出会ったトランプ支持者たちは、私たちに親切にしてくれた。トランプ氏の支持者は、変な人なんかじゃない。ごく普通のアメリカ人だ。「得体の知れない何か」は、思っているより悪いものじゃないのかもしれない。ただ単に私たちが、それをよく知らないだけなんじゃないか。
もし、日本にトランプ氏がいたら、そこそこ人気の政治家になるかもしれない。そう思うと、トランプ氏は、日本で人気の政治家と似ている気がしてきた。
午後5時になり、列が動き出した。手荷物検査を抜け、会場の中に入った。
集会会場は飛行機の格納庫だった。面白い場所を会場にするな、と思った。
格納庫の中はがらんとしていた。中には演説台と、その向かいにプレス席があるだけだ。他には何もない。億万長者のトランプ氏には似つかわしくない場所に思えた。
会場内には、音楽が流れていた。
私たちの周りにいた人たちは、ロックやR&Bに合わせて体を動かしていた。私たちが知っている曲は全くなかった。リズムに合わせて踊っているのは中年の人たちばかりだ。私たちの隣には、高校生くらいの男女3人組がいたが、彼らはずっとスマホをいじっていた。流れている曲は、知らないようだった。
コンビニの前に座り込んだギャルのようなティーンエイジャー3人組は、アジア人が物珍しかったのか、私たちに話しかけてきた。
「日本から来たの?マジ?日本でトランプってどう思われてんの??」
「うーん、クレイジーな人かな」
「えー、でもさ、そこでわざわざ日本から応援に来てるあんたたちのほうがクレイジーじゃね!?イェーイ!」(グータッチ)
「お、おう」
拳がつき合わされた時に感じる心が交わされた感は、体育祭のあとに感じる友情か何かのよう。大統領選挙の雰囲気とは思えなかった。
入場からイベント開始予定時刻までは2時間以上あった。
また何時間も待たなきゃいけないのか。クソ疲れた。ええい、座ってしまおう。地べたに座り、うとうとしていると、上の方で歓声が上がった。
何をやっているのかと見てみると、観衆の中に、3個のビーチボールが投げ込まれていた。観衆がビーチボールのラリーに興じているのである。いい年をしたおじさんが「俺、ボールに3回も触ったぜ」なんて言っているのだ。
なんだこりゃ。政治家の演説を聞く集会とは思えない。田舎のお祭りのような雰囲気だった。
後で気が付いたのだが、このボールには”CROOKED HILLARY”(インチキヒラリー)という文字が書かれていた。宿敵ヒラリーを、文字通り「ぶったたく」というわけだ。
この手の「観客を飽きさせない工夫」は、ビーチボール以外にもいくつかあった。
トランプTシャツを観客席に投げ込むとか、”Make America Great Again”と書かれたバナーを配るだとか、みんなで替え歌を歌うなんてものまであった。ビートルズの”All you need is love.”を”All you need is Trump.”と歌うのである。
ビーチボールと言い、替え歌と言い、洒落が効いているのか、そうじゃないのか分からないが、観衆たちは楽しそうだった。
やっぱり、これが大統領候補の演説集会だとは思えなかった。
トランプ氏は、開場から5時間半が過ぎた午後10時半ごろに登場した。
それまで流れていた音楽が止まり、重厚な映画のサウンドトラックのような曲が流れ始めた。
曲に合わせて格納庫の壁が動き始めた。私たちが格納庫の壁だと思っていたものは、実は可動式の扉だったのである。建物の壁一つがそっくり開いていくような感じだった。
音楽に合わせて格納庫の扉が開き始めると、会場の端までぎっしり埋まった観衆から大歓声が起こった。そして扉が完全に開くと、その向こうにトランプ氏のプライベートジェットが現れた。
「すっげー!」
私たちは、思わず叫んでしまった。
機体にプリントされたTRUMPの文字が明らかになり、しばらくすると飛行機のドアが開いた。
「次期アメリカ合衆国大統領、ドナルド・J・トランプです!」
呼び声の後、トランプ氏がタラップに現れた。
まるで、ハリウッド映画のヒーローのような登場の仕方だった。
「かっこよすぎだろ」
今ならトランプのカレンダーを買っても良いかもしれない。このおっさん、カッコいい。そう思うくらい、完璧な登場だった。
トランプ氏の演説はテレビで見ている通りだった。
時折冗談を交えながら、ヒラリー氏を糾弾し、既存の政治家たちを批判する。自分ならアメリカをよく変えられると主張し、観衆から声援を受けていた。
観客たちはただ黙って演説を聞いているわけではなく、演説の合間にコールを行っていた。”Build the wall!”(壁を作れ)や”Lock her up!”(ヒラリーを監獄にぶち込め)、”CNN sucks”(CNNはクソ)などだ。
日本でトランプ氏の集会の様子を見た時、このコールの凶暴さに「トランプ支持者たちは恐ろしい人たちだ」と思ってしまった。しかし、いざ会場の中でこれを聞いてみると、「凶暴」という印象は受けなかった。
様々なコールは、集会を盛り上げる一つの要素に過ぎないような気がした。その証拠に、コールが始まると、チラチラと周りを見ながら周りに合わせて手振りをつけている支持者がちらほらいた。大切なのはコールの内容よりも、それを叫ぶ観衆の一体感だったのかもしれない。
確かに、ナチス式敬礼をしながら”Lock her up!”と叫んでいる男性はいた。危険なことが起きていると、思った。私たちの周りには、野太い声で”Build the wall!”と叫ぶ屈強な男性たちがいた。その男性たちが、”Build the wall”することの現実性をどれほど信じているのだろうかと疑問に思いもした。
しかしあの場では、そんな“些細な”ことはどうでもよかった。その日参加した集会の中で、ナチス式敬礼をしていた男性は”些細な”出来事の一つに過ぎなかった。
だからこそ、「頭の良い人たち」は危険視するのだろうけれど。
約30分の演説の後、トランプ氏はプライベートジェットに戻っていった。
観衆は、すぐには会場を離れず、トランプ氏が乗る飛行機が去って行くのを見守っていた。
会場にはオペラ、トゥーランドットの「誰も寝てはならぬ」が大音量で流れ、その曲にのせて、飛行機は格納庫から離れていった。観衆はみな、機体に向けて手を振っていた。我らがヒーローの出陣を見守る人々。まさにそんな光景だった。
だだっぴろい格納庫、たった1台の飛行機、スピーカーとそこから流される音楽。最小限の要素で、最大限の演出効果を生み出すトランプ氏の手法に、ただただ驚いた。それをやってのけるトランプ氏は、やはりただ者ではないと思った。
会場を出ると、トランプグッズを売る露店が道路にあふれていた。Tシャツは20ドル、帽子は15ドル、缶バッジは1個2ドル。
「いや~。何か買っていくか!」
ライブ後にアーティストのグッズを買うような気分で、Tシャツを1着買ってしまった。
それは、もはや“カモフラージュ用”ではなかった。
「トランプが大統領になるのはヤバい」
「トランプ大統領誕生でアメリカが終わる」
なるほど、そうなのかもしれない。政治経験ゼロのテレビスターに、世界最大の国のかじ取りを任せるなんて、バカげている。トランプ氏の躍進を日本から見ていた時、私たちはそう思っていた。トランプ現象は「得体のしれない奇妙な出来事」のように感じられた。
しかし、実際にアメリカに来てトランプ氏の支持者に会い、トランプ氏の集会に参加したことで、その考えは変わった。
トランプ氏の集会に参加していた彼らにとって、トランプ氏に投票することは至って普通なことなのだ。彼らにとって、トランプ氏への投票は合理的な選択なのだ。トランプ氏は、自分たちミドルクラスの意見を代弁してくれる力強いヒーローであって、「インチキヒラリー」なんかよりもよっぽど信用が出来る人物なのである。それが、私たちの見たトランプ氏だった。
私たちが日本にいた時、「得体が知れない」と感じていたトランプ現象は、有権者が自分の支持する候補を応援するという、ただそれだけの単純なことだった。俺の母ちゃんが、橋下さんを好きで、だから橋下さんを応援しているという、それと全く変わらなかったのだ。
「得体のしれない何か」の正体を知ったころ、私たちは確かにトランプ氏が支持される理由を理解していた。なぜトランプ氏が人気を集めているのか。その答えを、ほんの少し理解できたような気がしていた。
会場から空港に戻るUberの車内で、運転手の女性と会話が弾んだ。
「それにしてもあなたたち、随分たくさんトランプグッズを買ったわね」
「いえ、なんというか、これは冗談で買ったお土産みたいなものですよ」
この時もまだ、トランプ氏が大統領になるとは思っていなかった。会場では役に立ったトランプグッズも、「日本に持ち帰るころにはただのネタ土産にしかならないだろうな。友達に見せて話のネタにでもするか」。そう思っていた。
まさか「次期大統領」のグッズになるとは、夢にも思っていなかった。
(後編に続く)
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