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電通「鬼十則」染みついた風土 「1年の年次の違いは海よりも深い」

電通の社員手帳にある「鬼十則」
電通の社員手帳にある「鬼十則」

目次

 過労死問題で揺れる電通。現場の社員は会社の風土として染みついた社員の心得「鬼十則」の精神は変わっていないと言います。24歳の新入社員、高橋まつりさんの過労自殺の25年前、1991年にも同じ24歳の若さで自殺した社員がいました。会社側は再発防止につとめてきたと説明しますが、悲劇は繰り返されてしまいました。

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「取り組んだら放すな、殺されても放すな」

 電通の企業風土の象徴ともいえるのが「広告の鬼」と呼ばれた故吉田秀雄氏が1951年に書いたという10カ条の遺訓「鬼十則」です。

 その一節には「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……」などの言葉が並びます。

 「鬼十則」は電通の社員手帳にも記載されてきました。電通の中堅社員の一人は「鬼十則」について「うちの哲学。入社研修で学んだし、一部はそらんじられる」と話します。

 この社員は「良くも悪くも体育会系でタテ社会」の社風で、「花形の局では『1年の年次の違いは海よりも深い』と言われている」と言います。

長時間労働の批判を受け午後10時で一斉に消灯された電通本社ビル(右)は=2016年10月25日、東京都港区、林紗記撮影
長時間労働の批判を受け午後10時で一斉に消灯された電通本社ビル(右)は=2016年10月25日、東京都港区、林紗記撮影 出典: 朝日新聞
「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……」。電通の4代目社長で、「広告の鬼」と呼ばれた故吉田秀雄氏が1951年に書いたという10カ条の遺訓「鬼十則」の一節だ。長時間労働を助長しかねない電通の企業風土を象徴する社員の心得として知られ、高橋さんの遺族側が問題視している。
2016年10月28日:(けいざい+ 深話)電通、過労自殺再び:下 「鬼十則」の風土、今も:朝日新聞紙面から
「鬼十則」は今も、電通の社員手帳に残る。中堅社員の一人は「うちの哲学。入社研修で学んだし、一部はそらんじられる」と話す。「良くも悪くも体育会系でタテ社会」の社風で、「花形の局では『1年の年次の違いは海よりも深い』と言われている」という。「命を削って給料をもらっているところはある。今回の過労自殺はひとごととは思えない」とも話した。
2016年10月28日:(けいざい+ 深話)電通、過労自殺再び:下 「鬼十則」の風土、今も:朝日新聞紙面から

「かとく」が抜き打ち調査に

 そんな電通で2015年末に起きたのが、24歳の新入社員、高橋まつりさんの過労自殺でした。

 高橋さんの自殺などを受け、違法な長時間労働が常態化していた疑いがあるとみて、東京労働局の「過重労働撲滅特別対策班(かとく)」などが、本支社に抜き打ち調査に入る事態になりました。

電通本社に強制捜査に入った厚労省の職員ら=2016年11月7日
電通本社に強制捜査に入った厚労省の職員ら=2016年11月7日 出典: 朝日新聞
14年6月に関西支社(大阪市)が、昨年8月には東京・汐留の本社が、違法な長時間労働をさせたとして労働基準監督署から是正勧告を受けていた。その4カ月後、男性と同じ24歳で新入社員の高橋まつりさんが過労自殺した。さらに、本社勤務だった男性社員が3年前に亡くなり、過労死を認められたと関係者は明かす。「全国過労死を考える家族の会」の寺西笑子代表は「過労死を繰り返す企業には社会的な監視が必要だ」と憤る。違法な長時間労働が常態化していた疑いがあるとみて、東京労働局の「過重労働撲滅特別対策班(かとく)」などが今月14日、本支社に抜き打ち調査に入り、刑事事件としての立件も視野に調べを進めている。
2016年10月28日:(けいざい+ 深話)電通、過労自殺再び:下 「鬼十則」の風土、今も:朝日新聞紙面から

最高裁判決「過労死問題のバイブル」

 電通では、25年前にも過労による社員の自殺が起きています。

 遺族側は、深夜の退館記録などをもとに、男性が長時間労働を強いられていたと主張しました。会社側は男性の自己申告による記録をもとに、「時間外労働が突出して多いわけではない」「在館時間がすべて業務にあてられていたわけではない」などと反論しました。

 2000年3月、最高裁で電通に安全配慮義務違反があったと認定されます。

 「会社は労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務がある」。初めてこう言い切った最高裁判決は「過労死問題のバイブル」(岩城穣弁護士)になったと言われています。

 電通は責任を認めて遺族と和解。再発防止に向け、「長年にわたって適正な勤務管理、長時間勤務抑制、社員の健康維持のための取り組みを実施してきた」(広報部)と説明しています。

電通本社(中央)=2016年11月7日
電通本社(中央)=2016年11月7日 出典: 朝日新聞
地裁判決は、男性が亡くなった8月に10回、前の月も12回、東京の本社を午前2時以降に退社していたと認定。こうした事実をもとに、「常軌を逸した長時間労働をしていた」として遺族の訴えを認めた。裁判は最高裁まで争われ、2000年3月、電通に安全配慮義務違反があったと認定された。「会社は労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務がある」。初めてこう言い切った最高裁判決は「過労死問題のバイブル」(岩城穣弁護士)になった。
2016年10月28日:(けいざい+ 深話)電通、過労自殺再び:下 「鬼十則」の風土、今も:朝日新聞紙面から
電通は責任を認めて遺族と和解。再発防止に向け、「長年にわたって適正な勤務管理、長時間勤務抑制、社員の健康維持のための取り組みを実施してきた」(広報部)と説明する。
2016年10月28日:(けいざい+ 深話)電通、過労自殺再び:下 「鬼十則」の風土、今も:朝日新聞紙面から

手帳の掲載とりやめへ

 「鬼十則」をめぐっては、社員手帳への掲載とりやめが発表されています。長時間労働を是正するねらいで、管理職を部下が評価する双方向評価制度なども来年1月から導入する予定です。

 管理職を部下が評価する制度は「360度評価」として導入し、社員の様々な価値観や仕事観を労働環境に反映させるとしています。

「鬼讃仰」に掲載された吉田氏の肖像写真。隣に「鬼十則」が載っている
「鬼讃仰」に掲載された吉田氏の肖像写真。隣に「鬼十則」が載っている 出典:電通「鬼十則」生みの親、晩年に語った「健康の大切さ」 - withnews(ウィズニュース)
昨年末に女性新入社員が過労自殺した広告大手の電通は9日、社員手帳に載せてきた社員の心得「鬼十則」を、2017年版から掲載しないと発表した。長時間労働を是正するねらいで、管理職を部下が評価する双方向評価制度なども来年1月から導入する。
2016年10月28日:電通、「部下が上司評価」制 「鬼十則」非掲載も発表:朝日新聞紙面から

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