お金と仕事
電通「鬼十則」生みの親、晩年に語った「健康の大切さ」
女性新入社員が、過労の末に自殺した電通。過重労働を許す風土をつくった一因と指摘されているのが、65年前につくられた電通社員の心得「鬼十則」です。しかし、この鬼十則をつくった電通発展の立役者が、「睡眠の大切さ」も説いていたとツイッターで話題になっています。また、自らが大病を患った晩年には「健康の大切さをしみじみ考えた」とも語っていました。その真意とは何だったのでしょう? 記者が取材をしました。
鬼十則は、電通の「中興の祖」と呼ばれる第4代社長・吉田秀雄氏が1951年に作りました。現在も電通の社員手帳に掲載されています。
仕事への取り組み方を「自ら創るべきで、与えられるべきではない」「周囲を引きずり回せ」などと説いたものですが、中には「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは」と激しい言葉を含んだ項目もあり、「時代錯誤」といった批判が出ています。
そうした批判の中、吉田秀雄氏が「できるだけ睡眠をとること」と社員に呼びかけた際の文章が、ツイッターに転載されました。
2000以上の「いいね」がついた投稿もあり、「これを鬼十則の前文につけておけば、まだましだったかもなぁ」といったコメントが寄せられています。
この文章を調べると、1964年の吉田氏の一周忌に作られた追悼集「鬼讃仰」(おにさんぎょう)に収録されていました。1959年に電通社内に出された吉田氏の訓示で、内容は以下の通りです。
鬼讃仰には吉田氏が会議などで表明した、計40の訓示や説示が収められています。
大半は「働いて働いて働きまくれ お互いのために みんなのために」「命がけで仕事を」「仕事の鬼となれ」など、鬼十則と同様の激しい言葉が並びます。
そうした中でなぜ「できるだけ睡眠を」という呼びかけが、生まれたのでしょうか。
鬼讃仰を読むと、働くなかで体調を崩す電通社員が、当時も相当数いたことがうかがえます。
吉田氏は亡くなる1年前の1962年、大病と闘いながら出席した社内会議で「健康がいかに大切か、今度ほどしみじみ考えさせられたことはない」と明かし、病に倒れて休んでいる社員が「何十人か」いると述べています。
また、鬼讃仰には、以下のような吉田氏の言葉が複数回出てきます。
この言葉通り「午前八時から午後八時まで」働くのが当時の日常なら、鬼十則に忠実であっても、本人が心がければ睡眠時間を確保できそうです。
一方、昨年12月に自殺した電通の女性新入社員はツイッターに「誰もが朝の4時退勤とか徹夜とかしてる中で新入社員が眠いとか疲れたとか言えない」とつぶやいていました。
「鬼讃仰」の書名にある「讃仰」という言葉。広辞苑によると意味は「ほめたたえてあおぐこと」だといいます。
電通で脈々と受け継がれてきた鬼十則。しかし社員を取り巻く環境は、大きく変化しています。鬼十則のとらえ方も、変化を迫られそうです。
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