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トランプ勝利、ぶっちゃけ私に影響あるの? 専門記者に聞いてみた

大統領選で投票をするトランプ氏=2016年11月8日、ロイター
大統領選で投票をするトランプ氏=2016年11月8日、ロイター

目次

 大方の予想を見事にひっくり返し、次期米大統領に選ばれたのは、暴言王ドナルド・トランプ共和党候補。いったいなんで当選しちゃったの? まさか…戦争とかする気? 就活に影響は? 票数で負けているのに選挙で勝つってあり? 「トランプショック」がしっくりこない大学生が専門記者に聞いてみました。(朝日新聞国際報道部記者・中野寛)

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結局、なんで当選?

 質問したのは今年、大学生になったユリコさん。回答したのは米大統領選に詳しい三浦俊章編集委員です。アメリカには特派員として2001年から03年に勤務。ブッシュ大統領やオバマ大統領についての本も出しています。

ユリコさん

あのぉ……結局、なんでトランプさん当選しちゃったんでしょうか?

三浦記者

今のアメリカ社会で、繁栄のおこぼれにあずかっていない貧しい人たち、特に白人の男性の不満の受け皿になったのです。金持ちや権力を持っているエリートたちに反発する「庶民の革命」と言っても良いかもしれません。彼らにはトランプ氏の乱暴な言動が、世の中を変えるパワーに思えたのです。

ユリコさん

過激なことを言っていたと思うんですけど、戦争が起きる可能性は?

三浦記者

トランプ氏の言葉は過激ですが、彼を支持する人たちは、アメリカは「世界の警察官ではない」と考えています。内向きの思考なので、アメリカが攻撃されたら別ですが、他の国のために出かけて戦争をすることは支持しないと思います。

ユリコさん

変な話、就活とか影響あります?

三浦記者

昔から、アメリカがくしゃみをすると、日本は風邪をひくと言いますよね。そのくらいアメリカの動向に日本経済は直結していますから、これからどんな経済政策を打ち出してくるのか、注意してみていた方が良いかもしれませんね。
トランプ氏の勝利を伝えるニュースに見入る日本の為替ディーラー=2016年11月9日、東京、ロイター
トランプ氏の勝利を伝えるニュースに見入る日本の為替ディーラー=2016年11月9日、東京、ロイター

仲直りできる?

ユリコさん

反トランプ派の若者が、けっこう抗議とかしているみたいですけど、トランプさんは仲直りする気があるんでしょうか?

三浦記者

たとえその気があったとしても、埋めることのできない深い溝がアメリカ社会に生まれてしまいました。

ユリコさん

暴言を吐きまくっていた割には、勝利宣言がわりと「融和」ムードだったような感じがしました。

三浦記者

選挙で戦うモードから、大統領として現実に仕事をするためのモードに切り替えたのでしょう。
「I'm STILL WITH Hillary」と書いた紙を掲げる民主党支持者=2016年11月9日、ロイター
「I'm STILL WITH Hillary」と書いた紙を掲げる民主党支持者=2016年11月9日、ロイター

票数では勝ったのに落選って?

ユリコさん

「選挙人」とか「総取り」がいまいちわかりませんでした…

三浦記者

民主・共和党などがそれぞれ選んだ候補者に対し、全米の有権者が票を投じて決めます。ただ、その票数の多い・少ないだけで決まるわけではない点が特徴です。

ユリコさん

えっじゃあ一番、多く票を取った人が当選するわけじゃないんですか!

三浦記者

ポイントになるのが、計50州と首都ワシントンにそれぞれ割り振られた「選挙人」。ほとんどの州で最も得票数の多い候補者にすべての選挙人が割り当てられ、選挙人がその候補者に最終的に投票をして次期大統領が決まるのです。

ユリコさん

つまり…一人一人が直接、投票するわけではないということですか?

三浦記者

有権者一人一人は候補者を選ぶので、直接選んでいるようにも見えますが、実は途中にこの選挙人という仕組みがはさまっているんですね。有権者の投票によって1人でも多くの選挙人を勝ち取った候補者が、大統領になるわけです。選挙人の人数は、人口などに応じて決められます。最も多い選挙人を持つのはカリフォルニア州で55人、最も少ないのはアラスカ州などの3人。合計で538人います。
トランプ氏の勝利を伝える看板=2016年11月9日、ロイター
トランプ氏の勝利を伝える看板=2016年11月9日、ロイター

なんでこんなややこしい仕組みに?

ユリコさん

それって、選挙人が多い州に住んでいる人の方が、責任重大ということですか?

三浦記者

そこが不思議なところで、大きい選挙区が必ずしも影響力が強いわけではありません。たいていの州は、民主、共和のどっちかがいつも強くて、最初から勝負が決まっているのです。

ユリコさん

最初から……。

三浦記者

そういう州は、どちらの党も熱心に選挙運動はしません。激戦となってどちらに行くのか分からない州に選挙運動は集中し、そういう州の動向がものを言うのです。特徴的なのが、1票でも多くの票を得た候補者が、その州に割り振られた選挙人を全て獲得できるという点です(メーン州とネブラスカ州を除く)。これを「総取り方式」と呼んでいます。

ユリコさん

となると…アメリカ全体で見たら票数は多いのに、選挙結果で負けるということも?

三浦記者

まさに今回の大統領選がそれです。直近では、2000年の大統領選。民主党のゴア氏は共和党のブッシュ氏より多くの票を得ましたが、選挙人数で上回ったブッシュ氏が当選しました。

ユリコさん

何か不公平な…どうしてわざわざややこしい仕組みになったんですか?

三浦記者

実はこの仕組みの原型は、18世紀末に作られたのです。米国は1776年に英国から独立を果たしましたが、最初は13の州(当時)がバラバラでした。それではやっていけないということで、州が中央政府のもとに集まる「連邦国家」になったのです。

ユリコさん

200年前、、ですか…

三浦記者

はい、200年以上前のことです。日本は江戸時代のど真ん中ですね。連邦国家の仕組みとして、中央政府の代表に大統領、州ごとに2人の代表を送る上院、庶民の声を反映する下院という形が作られました。広大な国土から票を集めることが難しかったこともあり、間接選挙制である「大統領選挙人制度」の仕組みを入れたのです。現在のような「総取り方式」は、19世紀後半に定着したと言われています。
トランプ氏の勝利を伝える新聞=2016年11月9日、ロイター
トランプ氏の勝利を伝える新聞=2016年11月9日、ロイター

わりと古風なアメリカ人

ユリコさん

文句は出ないんですか?

三浦記者

制度への批判はありますが、仕組みを変えるほど強くはないようです。政治学者らの間では「得票数で選ぶべきではないか」という議論はありますが。「ゴア対ブッシュ」の時にも、不満は大きな声にはなりませんでした。

ユリコさん

へえー。

三浦記者

むしろ、200年以上も続くこの仕組みを結局、ベストと考えているように感じられます。また、選挙人数は各州の中央政府に対する影響力の大きさに結びつくので、既得権益を守りたい各州の思惑もこの制度が維持される背景にありそうです。

ユリコさん

ITとか進んでいる国なのに、なんか古風なんですね……

三浦記者

ちなみに、大統領選が「11月第1月曜日の次の火曜日」に開かれるのも、当時と同じなんですよ。

ユリコさん

なんか意味あるんですか?

三浦記者

11月なのは、農産物の収穫が終わる時期に合わせたからで、日曜日は人々が教会へ行くため避けられました。昔は投票所へたどり着くのに1日かかることもあり、月曜日ではなく火曜日に。カトリック教の祭り「万聖節」にあたる11月1日が重ならないようにとの配慮もあってか、「第1月曜日の次の火曜日」と決まったのです。
大統領選から一夜明けたホワイトハウスを歩く女性=2016年11月9日、ロイター
大統領選から一夜明けたホワイトハウスを歩く女性=2016年11月9日、ロイター

生トランプ、いつ見られる?

ユリコさん

で、トランプさんも大統領として日本に来ることになるんですよね?

三浦記者

実は、大統領の就任は来年1月20日です。

ユリコさん

わりと先ですね。

三浦記者

これでも、以前に比べると短くなったのです。かつては翌年3月の就任でした。しかし1933年、当選したフランクリン・ルーズベルト氏が就任するまでの5カ月間、当時続いていた大恐慌に対応できない期間となってしまったことが問題視され、今のように1月になりました。

ユリコさん

早く見たいです。

三浦記者

日本に来るのは就任してからなので、来年以降、ということになりますね。日本については、「米軍駐留の負担を大幅に増やせ」などの発言が注目されたトランプ氏。どんな影響を及ぼすか、政府関係者はドキドキしているでしょうね。

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