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超ロングセラー絵本『かわ』 絵巻版で削られた言葉、90歳作者の思い
絵本『かわ』は刊行してから50年、世代を超えて愛読されてきました。83刷まで版を重ねたロングセラーの絵本が、『絵巻じたて ひろがるえほん かわ』として今年9月、7メートルの絵巻となった新しく出版されました。最新版では、出版当時に存在した「ある言葉」が削られています。世代を超えて親しまれた絵本、なぜ今、7メートルの絵巻を作ったのか? 消えた言葉の意味とは? 作者の加古里子さん(90)や編集者の思いを聞きました。
『かわ』が生まれたのは1962年。雑誌『こどものとも』7月号に掲載されました。山から始まり、山間部や平野部を蜿蜒と流れ、最後に海に帰る物語が、川の旅ととして、流域の様子とともに細かく描かれています。
作者の加古里子さんは、「だるまちゃんとてんぐちゃん」「からすのパンやさん」など多くの名作で知られる絵本作家です。
『かわ』では、ダム・水田を耕す水牛・ベビーカーを押すお母さん・保育園児たち…昭和の当時の風景が懐かしく表現されています。
絵本の対象年齢は4歳からですが、幅広い年齢の子どもが、それぞれの年齢に応じて楽しめる作りになっています。
もともと、28ページの絵本だった『かわ』ですが、このたび絵巻となって新たに出版されました。
ページを広げると約7メートルにもなります。全部広げると、源流から海までの川の旅が一望でき、最後は4ページ分、通しで海の風景が描かれています。
絵巻を企画した福音館書店の庄司絵里子さんは「以前から絵がつながっていること気づいた読者が、絵本を2冊ばらしてつなげ、川の流れを指でずっとたどって子どもたちと楽しんでいたんです」と語ります。
絵巻にできるのではないか、という気持ちは庄司さんの中にもずっとあったそうです。
ただ、個人で作って楽しむ絵巻ならば、つなげる際に多少のズレがあっても大丈夫ですが、商品にする場合は問題です。
「難しかったのが貼り合わせです。7カ所貼り合わせているのですが、絵巻の良さをいかすため、川や道がきれいにつながるように貼り合わせるのが一番大変でした。」
商品化にあたり、製本の工夫を重ね、製本のスピードよりも精度を優先して、大半の工程を手作業で行うことにして、絵巻仕立てを実現させました。
絵巻は、『かわ』が最初に刊行された月刊絵本『こどものとも』の創刊60周年記念として出版されました。
実は絵巻版では、初版にはあったある言葉が入っていません。工場や製油所の絵には、もともと、次のような言葉が書かれていました。
「まちの ごみや きたない みずが ながれこんで、かわは すっかり よごれてしまいました。」
絵本が生まれた1960年代の日本では公害が問題になっていました。2016年になった今、川はきれいな流れを取り戻したとして、絵巻仕立ての最新版はその2行のテキストを削除することにしたのです。
ただし、現在は公害以外にも新たな環境問題が山積しているのも事実です。作者の加古さんは、絵巻版の出版にあたり、現代社会に対し、次のように述べています。
「次々に違う環境問題がでてきているけれど、川の汚染のように目に見える形ではなく、現在は例えば大気汚染など見えにくい形になっています。こういった環境汚染の原因は人間で、生きて社会を作る人間として、こういった問題を解決しようとしなければならないと考えております」
7メートルという絵本としては異例の作りとなった『かわ』。川の流れを細かく描いた作風のメッセージは色あせることなく、自然の大切さを伝えています。
加古さんは「世界にはもっと長い川、様々な地域、気候帯があります。そういう川を描くような人が出てこられることを願っています」と話しています。
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