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まるさんからの取材リクエスト
体操の技の名前は誰が決めるのでしょうか?
体操の技の名前「昔は、割と適当だった…」 ウチムラの可能性は?
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体操の技の名前は誰が決めるのでしょうか?
体操の技の名前は誰が決めるのでしょうか? まる
8月31日、東京都内で日本体操協会が開いたリオ五輪の祝勝会。「僕だけない。すごく悲しい。でも、ここまで体操で結果を残してきて、名前がついた技がないのも、逆にありかなと最近思うようになってきた」。個人総合で2連覇したエースの内村航平選手は、そんな自虐コメントで会場を笑わせました。では、名前がない選手は優れていないのでしょうか。いったい、どういう仕組みで命名されるのでしょうか。
リオ五輪の体操男子団体で金を獲得した日本代表メンバー。白井健三選手がゆかと跳馬で5個も「シライ」と名がつく技を持っています。加藤凌平選手、田中佑典選手はつり輪で「カトウ」「タナカ」、山室光史選手は平行棒で「ヤマムロ」と、名前がついた技があります。過去には「ツカハラ」「モリスエ」といった名選手の名前のついた技も。
体操の新しい技には、今回のリオ五輪で白井選手が跳馬で決めた「シライ2」のように、初めて成功させた選手の名前がつくのが慣例となっています。今回の団体金の日本のメンバーも5人中4人は、自らの名前がついた技を持っています。
体操では五輪や世界選手権などの大きな国際大会で初めて成功させた技に、その選手の名前がつきます。国際体操連盟の採点規則に、2013年版から明確に「技の命名」という項目ができ、ルール化されました。
採点規則に載っていない技か、載っていても誰もやったことのない技が新技として認められ、選手の名前がつくのです。体操のルールに詳しい日本体操協会の遠藤幸一常務理事によると、13年度版の採点規則では、男子だけで20以上の日本選手の名のついた技があるそうです。
遠藤常務理事は「2012年までは命名は割と適当だった。国際体操連盟の技術委員の裁量が大きかった」と言います。
例えば、ある伸身の宙返り技があるとします。誰もやったことがないから新技だと認める委員長もいれば、「誰かがやった屈伸の宙返りを伸身にしただけ」だからマイナーチェンジで、新技とは認めない委員長もいたそうです。
それが2013年からルールが明確化されました。「仮にメダルが取れないような選手でも、新技開発に力を入れれば、自分の名前が残るかもしれない」と遠藤さん。選手にとっては新たなモチベーションになりそうですね。
ところで、技の名前で日本人に最もおなじみなのは、鉄棒の「月面宙返り(ムーンサルト)」(後方かかえ込み2回宙返り1回ひねり下り)でしょう。
1972年ミュンヘン五輪で塚原光男さんが演じた革命的な技です。日本では「月面宙返り」「ムーンサルト」で通っていますが、海外では「ムーンサルト」では通じません。あくまでも「ツカハラ」。ツカハラは発音しにくいので『ツーク』なんて呼ばれているそうです。
遠藤さんは、内村選手と似たケースとして、1968年メキシコ、72年ミュンヘンと五輪の個人総合を2連覇した加藤沢男さんの例を挙げてくれました。
加藤さんも自らの名のついた技は平行棒の一つだけで、難度も低い技だったといいます。それでも「美しさ、習熟度で他を寄せ付けない素晴らしさがあった。今ある技を究極まで磨き上げていた」。今の内村選手のスタイルと通じますね。たとえ名前のついた技がなくても、内村選手や加藤さんの美しい体操と五輪2連覇の偉業は後世に残ります。
また、単発技ではありませんが、内村選手が2014年の世界選手権の鉄棒で演じた連続技は、世界を驚かせました。最高ランクとなるG難度の「カッシーナ」とF難度の「コールマン」の離れ技を続けて決めたのです。遠藤さんは「連続技にも名前がつくなら『ウチムラ』とついてもおかしくない」と言います。
さて、4年後の東京五輪も今から楽しみです。個人総合と団体を極めた内村選手。「名前がついた技がないのも、逆にありかなと」と言っていましたが、ファンとしては豪快な新技を決めて「ウチムラ」の名をつけてほしい、という思いもあります。
すべての種目でミスが許されない個人総合で、完璧に演技を決めるのが内村選手の長所。そのオールラウンダーをやめて、種目別に特化した選手になれば、新技を披露する可能性も広がるかもしれません。「誰もやったことがない大技をやる能力は十分にある」と遠藤さん。個人総合3連覇を狙うのか、得意な種目に絞って極めていくのか。ファンの期待はふくらみます。
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