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夏の甲子園 鳥取勢「2勝」の壁、ついに60年 なんで勝てないの?
「2勝」なし、全国でぶっちぎり
今年も熱戦が続く夏の高校野球。その舞台となる甲子園で、人口最少の鳥取県勢が破れていない大きな壁があります。今年も県代表の境が初戦で敗れ、ここ60年、夏の甲子園で2勝できていません。この不名誉な記録に鳥取県の高校野球関係者がどう思っているのか、5月まで鳥取で取材をしていた記者が聞きました。
参加校が25、硬式野球部員が1千人を切っている鳥取県勢が60年間越えられない夏の甲子園「2勝」の壁。戦前は4強入り4度と、トップクラスの実力を持っていました。最後の「2勝」は1956年の夏。戦後まもなく朝鮮(当時)で抑留された体験を持つエース長島康夫投手が原動力になり、4強入りを果たしました。それから大きな壁が立ちはだかっています。
81年の選抜で4強入りした倉吉北も「2勝」はできず、近年は初戦突破も難しくなっています。2000年以降に初戦を勝ったのはわずか3回。12年に鳥取城北が香川西に勝ち、天理(奈良)に挑みましたが、2―6で敗れました。13年に、八頭が初戦で角館(秋田)を破りましたが大阪桐蔭に0―10。二塁も踏めない完敗でした。
今年こそ2勝の壁は破られるのか。そんな期待がかかる中、鳥取県代表の境は明徳義塾(高知)と対戦しました。序盤から明徳義塾の機動力に揺さぶられ、守りでは5失策と2―7で敗れました。攻撃では鳥取大会で粘りを見せた打線が沈黙。3回には一時同点となる本塁打を放ちましたが、それ以外のチャンスは作れず、今年も「2勝」の壁を破れませんでした。これで「2勝」なしはついに60年になってしまいました。
ほとんどの地域がここ10年以内に「2勝」しており鳥取の60年は飛び抜けています。
春夏通算8回、八頭(やず)を甲子園に連れて行った徳永昌平前監督(62)は、「全国レベルの投手を打てるだけの打撃力が足りない」と話しました。2000年代、県勢の夏の甲子園の1試合あたりの平均得点は3点弱。一方、平均失点は7点弱です。運動神経の良い選手が県外に流出すること、競技人口が少ないことをあげて、「先発メンバーに打てる選手をずらりと並べることができない」と語りました。
60年前に「2勝」した米子東の紙本庸由監督(35)は「鳥取のチームは、いつからか全国制覇を目指すことをやめてしまった」。そう切り出しました。紙本監督によると「2勝したら、8強か16強。8強に入るチームは全国制覇できる力がある」。つまり全国制覇を目指していない以上は、夏の甲子園で2勝するのは難しいということでした。
その他、県内の高校野球関係者など約20人に聞くと、こんな理由もありました。
・1勝してしまうと2勝する気がなくなってしまう。
・県内の指導者が若い人が多く、指導歴の長い人が少ない。
・そもそも運動神経が違う
・鳥取県全体で強くしようという機運がおこらない。
・夏の甲子園で勝つのに必要な本格派投手が登場しない。
13年から2年間、鳥取で高校野球の取材をして、「2勝」の壁を知りました。なぜ、壁が破れないか、ずっと取材してました。感じたのは、自らの可能性を閉じてしまっているのではということでした。
取材をして気づいたのは、ふがいない記録に悔しそうじゃないこと。「夏はそんなに勝っていないんですね」「悔しい?そりゃあ悔しい」。言葉とは裏腹に、淡々としていました。3年間、鳥取にお世話になっているだけに、ショックでした。
鳥取県の人口は全国でダントツに少なく、野球部の部員数も全国最少。そして夏の甲子園で成績を残せていないことも事実です。もちろん勝利が全てでないことはわかっています。ただ甲子園で戦うのは同じ高校生。強豪校の選手だって、緊張も、動揺もするはず。ビッグネームを倒すことだって、不可能ではないはずです。
ここ数年、大きく力をつけ注目されているのが私立の鳥取城北。今夏は甲子園に出られませんでしたが、過去5年で3回出場しています。大阪の枚方ボーイズでコーチを務めた山木博之監督のもと、打撃力が大幅にアップ。健大高崎など関東の強豪校などとも練習試合をしています。
こうした学校が起爆剤になってくれれば。鳥取の球児たちはもっとできる。そう思っています。
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