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リオ五輪、足元で銃撃戦! 鉄道・バス…一生忘れられない乗り物たち

リオの街を走る路面電車=寺島隆介撮影
リオの街を走る路面電車=寺島隆介撮影

 五輪が始まり、今、世界で最も熱い街となったリオデジャネイロ。五輪前のインフラ整備で公共交通機関網は発達し、バスや電車、地下鉄などが、毎日多くの市民に利用されています。一方で、犯罪が多いリオでは日本と同じ感覚で乗ると思わぬトラブルに巻き込まれる可能性も。地上電車では大声でお菓子の売り子が迫り、スラム街を結ぶロープウエーでは足元で銃撃戦が…。取材で現地入りした際に体感した「スリル」と共に交通機関を紹介します。(朝日新聞デザイン部・寺島隆介)

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リオデジャネイロの観光名所、コルコバードの丘に着いた聖火=2016年8月5日、諫山卓弥撮影
リオデジャネイロの観光名所、コルコバードの丘に着いた聖火=2016年8月5日、諫山卓弥撮影

【登山電車】帰りの水は値上げ

 有名なコルコバードの丘のキリスト像の足元まで連れて行ってくれるのが登山列車です。2本のレールの間にはラックレールが敷設され、車両側のギアとかみ合わせて力強く上ります。

 座席は丘の頂上に向かって左が進行方向、右が反対側を向いています。反対側を向いて座ると終点付近でリオの雄大な景色が堪能できます。乗客は観光客がほとんどで家族連れやカップルばかり。皆カメラやスマホを手に思い思いに撮影会をしていて、全く警戒せずに乗れました。

 行き帰りの途中で水の売り子が近づいてきて、列車はそれに合わせるように停車します。登り500ミリリットル4レアルの水は、下りは5レアルに。丘の上は日差しがきついので値上げされても買う人は多く「さすが!」という感じです。

登山電車の乗客に近づく売り子=寺島隆介撮影
登山電車の乗客に近づく売り子=寺島隆介撮影

【VLT(路面電車)】レール横に監視員の安心さ

 VLTはリオの中心街で運行している路面電車。日本と違ってリオでは歩道のすぐ横にVLTのレールがあり、歩行者はVLTがそばまで近づいてきても堂々とレールを横切っていきます。事故を防ぐためVLTの前をバイクが走り、レール上の歩行者に注意します。

 車内は窓が大きくて見晴らしが良く、採光も多くて明るい。中心街を走るので乗客は会社員や観光客が多いです。

 また駅間のレール横には監視員が立っているため、安心です。カメラを持ったまま降りようとすると、「このあたりは車外のほうが危険なので、降りたらカメラは鞄の中に入れておくように」と通訳に注意されました。VLTからの車窓に気を取られ、緊張が緩んでしまいました。危ない危ない。

路面電車のVLT。乗客には観光客も多い=寺島隆介撮影
路面電車のVLT。乗客には観光客も多い=寺島隆介撮影

【BRT(連結バス)】混雑時は注意

 BRTは専用レーンを走る連結バス。鉄道よりも整備コストがかからず、オリンピック開催までに交通インフラを充実させるため、鉄道が少ないリオの南側に多く整備されました。かなりのスピードを出し、連結された後ろ側は時おり大きくはねますが、体が支えられる座席のおかげで乗り心地は意外に悪くないです。

 夕方だと仕事帰りの乗客ばかりで危険は感じられません。通訳ともスマホ片手で話しができました。

連結バスのBRT。ホームとの隙間が広いので降りる時は要注意=寺島隆介
連結バスのBRT。ホームとの隙間が広いので降りる時は要注意=寺島隆介

 リオに来て気づいたのが、サンバや陽気なイメージとかけ離れて、街には色みがないこと。看板や広告はほとんどなく、建物は薄いコンクリート色です。鮮やかなのは黄色いタクシーと海と壁の落書きくらいなので、BRTの青い車体は街中でかなり目立ちます。

 防犯を意識することはほとんどなかったBRTですが、車体とホームとのすき間が気になりました。日本では考えられないほど広く、正直危ない。小柄な乗客は軽くジャンプして下車していました。ホームには乗客の安全を見張る駅員もおらず、混雑時の乗降には注意が必要かも。

【地下鉄】危なそうな人はあんまりいない

 岩盤を堀った状態のまま整形していない駅構内は、照明の少なさも手伝ってまるで洞窟に入り込んだよう。濃い青色の車両が多いが、紫と緑の鮮やかなメタリック色の車両もあり、それが停車していると構内が明るい感じになります。
 
 乗客は多く、通勤時は東京と変わらない混み具合です。次々乗り込む乗客に危なそうな人は見られません。スマホを使用している乗客は多く、日本人が使用していても奪われることはなさそう。ただ、スマホに集中していると持ち物を狙われてしまう緊張感はあります。

 iPhoneは高値でさばけるらしく、よく狙われるそうです。背面のアップルマークが隠せるスマホケースは必須です。目的地まではずっと壁を背中にして、死角ができないようにして乗りました。

リオの地下鉄。車内ではスマホを出してもそれほど危険を感じなかった=寺島隆介撮影
リオの地下鉄。車内ではスマホを出してもそれほど危険を感じなかった=寺島隆介撮影

【地上電車】窓ガラス割れたまま走る

 リオの中心駅、セントラル・ド・ブラジル駅に停車している車両のほとんどで運転席のガラスが割れています。割れ方から銃痕には見えませんが、修理せずに運行しているということは、珍しくないということ?

 目的地へ向かう電車に乗るため12番ホームに向かうと島型ホームそのものに番号が割り振られています。つまり、ホームを挟む線路両方が12番線となり、どちらの電車が出るのか分からない…。しかも、ホームに設置してある情報モニターに出発時刻は表示されていない!

 結局、出発する電車を教えてくれたのは、ホームにいた清掃員のおじさんでした。「この電車がでるぞー」と大声を上げると皆その電車に乗り込むというローカルルール。

窓ガラスが割れたまま走る地上電車=寺島隆介撮影
窓ガラスが割れたまま走る地上電車=寺島隆介撮影

 車内は広告は一切無く、シンプルで統一されたデザインです。硬そうなプラスチック製の座席が見たことのない並びで配置されています。

 通訳に「車内ではスマホやカメラは出さないで」と注意され、慌ててバッグに。発車すると短パンにサンダルの男性が大声で菓子の車内販売を始めました。明らかに鉄道会社に許可された販売員ではない。全く意に介さない乗客らの服装はジーンズにTシャツといったラフな格好が多く、地下鉄とは客層が違います。

 通訳に「周りをじろじろ見ず、乗客とも視線を合わせないように」と言われ、観察するのを止めました。車内で襲われるときは銃やナイフを見せて荷物を渡すよう要求してくるらしい。抵抗すると無理やり奪うために撃たれることもあり、おとなしく渡したほうがいいと聞き、誰か近くに来ると反射的に緊張してしまうようになりました。

地上電車の車内=寺島隆介撮影
地上電車の車内=寺島隆介撮影

【ロープウエー】まさかの銃撃戦

 ロープウエーは終点までずっとファベーラ(スラム街)の上を通ります。

 8人乗りの客室は駅中でも完全には停まらず、スキー場のリフトの様に乗降します。通訳と2人で乗り込むと、すぐ他の乗客が乗り込んできました。「強盗か!」緊張が走ります。目の前に座ったその男性と目が合い、荷物を抱えた手に力が…。

 緊張が解けたのは若い女性も乗り込んできた時でした。話を聞くと2人ともファベーラの住人で、広大なファベーラから出るための日常の足として利用していました。日本では他人との相席は遠慮しますが、リオでは積極的に相乗りしてきます。今回は運が良かっただけで、いつ犯罪者と相席になってもおかしくないのがロープウエーなのです。

スキーのリフトのようなロープウエー=寺島隆介撮影
スキーのリフトのようなロープウエー=寺島隆介撮影

 延々と廃墟のような家が続くファベーラは圧巻です。ここでは近代的なデザインのロープウエーは、全く景色になじみません。見下ろす側と見上げる側の位置関係も資本主義の象徴みたいに思えてきます。

 衝撃だったのは、足元で「銃撃戦」が起きたこと。ファベーラは麻薬密売や銃犯罪と隣り合わせのスラム街です。警察との銃撃戦が起きることは聞いていましたが、まさか自分がそれを体験するとは思いませんでした。

圧巻のファベーラの町並み=寺島隆介撮影
圧巻のファベーラの町並み=寺島隆介撮影

 初めて聞く銃声は思っていた以上に大きい。急いでアクリル製の窓から身を隠しました。駅までゆっくり移動するロープウェーが腹立たしい。最寄り駅に着くと運行停止に。大きな銃を持った警官に階段を下りて隠れているよう指示され、ファベーラの真ん中で身動きできなくなりました。

 1時間後銃声は止み、親切な駅の女性清掃員がタクシーを拾える安全な場所まで案内してくれることに。1時間半振りに駅を出て歩いたファベーラは、人がやっとすれ違える幅の道と急な階段が複雑に入り組んでいる迷路のような丘でした。女性のおかげで無事にタクシーを拾えました。「オブリガード!(ありがとう)」

まさかの銃撃戦=寺島隆介撮影
まさかの銃撃戦=寺島隆介撮影

「日本人は金持ち」

 リオでは日本人は金持ちという認識があって狙われやすく、サンパウロ在住の日本人通訳は「どれだけ長く住んでも日本人の顔に生まれたことで、他のブラジル人より警戒しないといけない」と話していました。

 実際に乗ってみて、確かに日本と同じ感覚でリオの公共交通機関を利用すると、思わぬ犯罪に巻き込まれそう。でも、リオの乗客たちは日本と違ってとてもフレンドリーなのも事実。「コンニチハ」と挨拶されて会話が始まることは何度もあり、困っていれば声をかけてくれます。

 銃撃戦の記憶は鮮烈でしたが、土産話としてはこれ以上ないインパクト。もう二度と乗る気はありませんが…。

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