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「似顔絵」に「全面QRコード」…変な選挙ポスターの真面目な理由
選挙ポスターって、どれも似ていますよね。やたら爽やかな笑顔、でかでかと書かれた名前。ただ、時々「なにこれ?」と思わず立ち止まってしまうポスターに出くわすことがあります。ネットで以前話題になった2枚について、ご本人に「なんでこんなの作ったの?」と聞いてきました。(朝日新聞大阪本社生活文化部記者・松本紗知)
まずは、2015年4月の甲府市議選に、似顔絵のポスターで立候補した松本重崇さん(41)。当時は食品製造会社でパートとして働いており、現在は農業を始めようと準備をしています。
そもそも、選挙に出たいと思ったのは、今の政治や社会への不満からでした。
「漠然としているんですが『今の日本は面白くない』と思っていて。正しいことを正しいと言わないし、真面目な人が損をするし、お金が全ての尺度になっている。でも、そういう不満を、自分が何もしないままで言うのは嫌だった。じゃあ立候補してみようと」
普段から政治活動をしているわけでも、組織に所属しているわけでもない松本さんは、「普通のやり方では自分は当選しない」と考えました。
また、選挙に関心のない人に興味をもってもらいたいという思いもありました。
名前を連呼する街宣活動や、にやけた笑顔の選挙ポスターなど、「現行の選挙運動が嫌いだった」という松本さん。これまでとは一風変わった選挙活動を展開しようと決心します。
「でも、奇抜すぎると批判されるリスクもある。ポスターに関しては、批判されない奇抜さということで、似顔絵にしようと思いました」
似顔絵は、自分を慕ってくれている小学生のめいに頼んで描いてもらいました。
「自分に好意を持ってくれている人が描いた絵であれば、見た人にもその気持ちが伝わる」という狙いからです。
実は、このポスターは蓄光塗料を使い、夜になると光る……はずでした。
「家で試した時はうまくいったのですが、外ではうまく光ってくれませんでした。日が暮れて徐々に暗くなっていくからでしょうね」
結果は、立候補44人中最下位の141票で落選。「もともと選挙に興味のない人にまで声を届けられなかった」と振り返ります。
一方、ネットで話題になったり、テレビの取材を受けたりするなど、「面白さに興味を持ってくれる人もいた」と、手応えも感じました。ネタになることにも「似顔絵のポスターの意味があった」と松本さんは言います。
「政治や選挙というと、みんな一歩引いてしまう。でももっと、政治はネタにしていいと思う。馬鹿なことをやってたり、変わってたりする方が、世間話になりやすい。僕のことも『こんな馬鹿なやつがいる』と、ネタにしてもらいたい」
次に、QRコードを全面にあしらったポスターで2015年4月の愛知県一宮市議選に立候補した森光弘さん(52)を訪ねました。パソコン講師の森さんがQRコードのポスターで選挙に出たのには、「ニート、25才」とうたって2015年の千葉市議選に出た、上野竜太郎さんの選挙ポスターの影響があったと言います。
「ニュースで上野さんのポスターを見て、すごいインパクトがあった。もともとQRコードのポスターを構想していたのですが、改めて、ああいうポスターもありなんだ、と思いました」
地方政治の場から「脱原発」を訴えようと、市議選に臨んだ森さん。陣営を持たず、インターネットを活用してたった一人で選挙活動を繰り広げ、「10年後の選挙活動」を意識しました。
「組織ではなく個人として、どう選挙に向き合えるのかを実感したかった。個としてインターネットを通じて、広く多くの人に自分の主張を伝えたいと思っていました」
「一番の目的は当選ですけど、正直、陣営を持たない私が簡単に当選できるわけではない。だからこそ、新しい形の選挙運動をして、将来への布石にしたかったんです」
選挙運動の中心は、市内700カ所以上の掲示板にポスターを貼りに行くことでした。ポスターのQRコードを読み取ると、森さんのフェイスブックページにつながります。そこでは、森さんのプロフィールや、政策を読むことができます。
また、ポスターを貼り終えると、JR尾張一宮駅前でカメラに向かって演説し、動画配信サービス「ツイキャス」を使って公開しました。合わせて、駅周辺で朝と夕方に「朝カフェ」「夕暮れカフェ」と題した対話の場を設け、投開票前日の土曜日には、最多の10人が集まりました。
結果は53人中52位の401票で落選。
「奇跡は起きるんじゃないかとも思ったんですが、この手法はまだ早かったかなと思いました。ポスターも全部貼りきれなかったので、そこだけでも人の手を借りて、全部貼ってからスタートした方がよかったかもしれません」
しかし、インターネットを中心にした選挙活動を「やってよかった」と森さんは言います。そこには、人手とお金がかかる一般的な選挙運動への批判があります。
「今みたいに、何億も何十億もお金がかかるような選挙が続いちゃだめだと思うんです。僕の選挙活動にかかったお金は、1枚5円のポスター代だけで4千円弱。それも自腹です」
「何年か後には、きっとこの『ネット選挙』の手法を取る人が出てくると思っています」
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