お金と仕事
搾取型インターンの見分け方 期間は?報酬は? 説明会なしは要注意
今では就職活動と切っても切り離せないと言われるインターンシップ。7月は「夏のインターン」の募集、締め切り時期です。インターンシップでは、本来の意味である「就業体験」を提供してくれるもの、1日のセミナー形式で業界や仕事情報を提供してくれるもの、企業にとっての採用活動になっているもの、そして、最悪、無給でバイト扱いされるもの……。同じ「インターン」という言葉でも様々です。失敗しない選び方について、企業の採用部門にアドバイスもしている採用コンサルタントの谷出正直さんに聞きました。
「インターンって7月から募集しているんですね…」
「はい。7月以前、6月からインターンシップの情報が掲載されたサイトが各社オープンするので、6月スタートが一般的になっています。現在のインターンは大きく分けて、夏、秋、冬の時期に企業が実施されています。7月は夏のインターンの募集、締め切り時期です。参加希望者が多い企業は、選考を行って絞り込んでいます」
「インターンも色々なんですね。夏のインターンはどんな学生が参加するんですか?」
「学生は、夏休み期間を活用して、インターンに参加します。8月~9月にかけて参加するのが夏のインターンという位置づけになります。インターンに参加する学生の多くは、就活前の大学3年生や修士1年生ですね。中には、大学1年生から参加する人もいます」
「夏休みをインターンに費やすんですか?」
「そうですね。学生にとって、夏休みは、比較的、自由な時間が確保できるので、インターンの参加を考える学生が多いですね。最近では就活に有利になるからという理由の学生も増えています。就活が始まる前から社会や仕事に興味を持つという点で、夏のインターンに手を上げる学生は、就職への意識が高い人が多いといわれています」
「夏合宿も海外も行かずインターン。たしかに意識高いですね…」
「大学生活についての考え方次第ですが、この時期から社会との接点を持とうとする学生は、その後の就活がうまくいくパターンが多いです。社会についてリアルな姿を知ることができますし、仕事内容ややりがい、厳しさを知ることで、自分の選択が明確になりますから」
「インターンって、事実上、選考の一部なんですか?」
「現状、経団連は、インターンと採用活動を分けるという話にいなっていますので、選考の一部ではないということなのですが、実際は、選考につながっているケースがあります」
「やっぱり…」
「選考につながっていなくても、インターンに参加することで、その企業や事業、仕事を理解できるので、結果的に選考に通りやすくなる場合もあります」
「時期によって違いはあるんですか?」
「冬のインターンと呼ばれる1~2月に行われるインターンは、より就活とつながるケースがあります。学生が就活直前に企業のことを知るので、就活の広報解禁(17採用は3月)時にインターンに参加した企業に応募することが多くみられます。その理由は、学生が企業を知っているから。つまり、インターンを通じて、認知されていることが、応募することにつながっています。その効果を狙う企業が増えてきました。」
「本来、インターンと採用活動って別ですよね?」
「もちろん、インターンシップの本来の意味である『就業体験』として実施して、採用活動と明確に分けている企業も多くあります 」
「最近は、大学側もインターンに積極的とか」
「そうですね。背景には、新卒入社後の離職率の高さを改善したい政府が大学に働きかけていることがあります」
「新人が3年で辞めてしまう『3年後離職率』の問題ですね」
「はい。雇用のミスマッチは政府も深刻に考えています。就業体験ができるインターンに参加して、働くことを知ること、自分の得意・不得意を知ること、企業の社風や文化、社員を知ることを通じて、就職し、ミスマッチを防ごうとしています。そのためにインターン参加することで単位認定する大学に運営費交付金をつけています」
「夏休みをインターンに費やそうと思ったら単純作業の連発だった…みたいにならないためにはどうすれば?」
「同じ単純作業でも、会社側と学生側の考え方、解釈で変わります」
「というと?」
「例えば名刺の整理をやってと言われたならば、その人の人間関係を見ることができるし、業界や役職、エリアを分けてみることで様々な情報を得ることができます」
「なるほど」
「学生側の気付きも大事ですが、企業側も、その仕事の意義や前後の様子をちゃんと説明してあげることも必要です。それがないと単純作業として捉えてしまい、不満だけが残る残念な結果になりかねません」
「きちんとした就業体験ができるインターンはどうやって見つければいいのでしょう?」
「まず期間です。インターンの参加期間として、1日から半年や1年の長期にわたるものまで様々なものがあります。就業体験を考えると2週間、少なくても1週間は参加したいですね。1日だけのものは、セミナーや講演形式が多いので、就業体験という意味では、なかなか厳しいかもしれません」
「報酬は?」
「多くの企業は交通費を支給することがあります。宿泊費については、補助が出たり、社員寮を提供したりするケースもあります。そして、数はかなり限られますが日当などの報酬を出す企業もあります。エンジニアのような専門的な分野は、企業のニーズもあり、月30万円以上出すところもあります。企業のインターン受け入れに対しての本気度の1つとしてみてもいいかもしれません」
「期間、報酬、それ以外は?」
「なんといっても、事前に説明会、インターンの内容についての説明があるかどうかが重要です」
「説明会…ですか?」
「いきなりインターンをスタートさせるのは、企業にとってもリスクが大きいです。たとえ企業に悪意がなくても、ミスマッチが起きるリスクが高くなります。インターンに学生が求めている内容や希望と、企業が提供してくれるものを見極める機会として、説明会があるかないかは重要です」
「最近はユニークなインターンも増えていますね。あれって何狙いなんですか?」
「今はネット上に多くの情報があふれていて、企業は何とか学生に知ってもらおう、認知度を高めようとしています」
「必死なんですね…」
「企業を知ってもらわないと、存在していないのと同じ意味になりますから。特に学生に知名度のない中堅・中小企業などは、話題作りのために、ユニークなインターンを実施することがあります」
「例えばどんなインターンが?」
「無人島や山、海外で行うインターン、合宿型のインターン、複数企業が合同で行うインターンとかですね。こういった企業は、twitterやまとめサイトで紹介されたり、学生同士で紹介しあったりと、情報が広がりやすくなります。結果、自社HPや就職サイト内での自社ページのアクセスが急増し、企業認知度の向上につながります」
「無人島って…人生的に学びはありそうですが、就活的にどうなんでしょう…」
「他の学生との差別化につながる珍しい体験は、面接などで使えます。そもそも、ユニークなインターンは参加人数が限定されるので、多くの場合、選考があります」
「選ばれし者なんですね」
「選考を突破して、参加することになるので、多くの企業から評価される学生であるともいえます。ですので、結果的に複数の内定を得てしまいます」
「企業的には…」
「インターンに参加した学生から採用につながればいいなぁと考えていますが、ぶっちゃけ、企業は話題になればいいと割り切っているところもあります」
「な、なるほど」
「インターンが終了しても、また次年度に、過去こんなユニークなインターンをしていたと言われることなど、様々な場面で会社の存在が学生の目に触れるだけで、目的は達成していることになります」
「注意した方がいいインターンはありますか?」
「ビジコン(ビジネスコンテスト)と呼ばれる、新規事業のアイデアを考え、提案させるインターンがあります。ここ最近増えているように思います。企業は事業を考える基礎知識として、業界やビジネスモデルの説明と自社が持っている実績やリソース紹介に時間をたっぷり割くことができます」
「それって…」
「いわば就活時の会社説明会の内容に近づきます。その内容が『刷り込み』みたいなところがあって、社会経験の少ない学生は、社会を見る基準が特定企業の考え方に縛られてしまうことが起きます」
「というと?」
「例えば、ある業界で『いい会社』の基準は平均給与の高さだと説明されると、その後、他社の資料を見ると、どうしてもそこに目が行ってしまう。本当はビジコンを企画した会社が自社に有利なポイントをアピールしただけかもしれないのに」
「極端な表現になりますが、ビジコンは、学生を『放置』することもできます」
「放置!」
「1週間の期間でインターンをする際、1日目は、企業の概要やビジコンの目的、目標の話で終了。2日目~4日目が考える時間。5日目、最終日に経営陣へのプレゼン。というスケジュールの場合、2日目~4日目は会議室に缶詰になってアイデアを考えさせるんですが…」
「それで、それで?」
「その間、企業として、何もしなくても学生が自分たちで動いてくれます。企業からすると、マンパワーを最小限にして、運営ができます。」
「ダメじゃないですか!」
「ただそうしてしまうと、学生の満足度が上がらず、企業は何のためにインターンを受け入れたのか、わからなくなってしまいます。もちろん全てのビジコンが悪質なわけではありません。経営陣や社員がアドバイザーになってくれることもありますし、ビジネスの考え方の枠組みを教えてくれたりすることもあります」
「学生はどんな心構えでのぞめば?」
「参加する時は、ビジコンの内容や最終目標、スケジュール、関わる人などをしっかりと確認すること。また、学生自身のインターンへの参加目的、得たいことを明確にしておくことをおすすめします」
「インターン一つとっても、色々、落とし穴があるんですね…。それにしても、就活の情報は膨大です。ちゃんとした情報を手に入れるにはどうすれば?」
「同級生をライバルと思わず、どんどん、自分の志望企業や悩みを打ち明けることです」
「でも、ライバルですよね…」
「メリットの方が格段に大きいです。学生が個人で収集できる情報には限界があります。まわりの人を巻き込んで、お互い情報のフィルターになれば、誤った情報に振り回されなくてすみます」
「フィルター…たしかにそうですね」
「そして、一番大事なのは社会人に会いに行くことです。ネットに出ていない話は、たくさんあります。今、現在のリアルな情報、具体的な仕事の内容や裏話、人生のターニングポイント、ウソみたいな本当の話、人の価値観、発言の意図やそう考えるようになった背景。ネット全盛の時代だからこそ重要なんです。いろんな情報から自分が大切だと思うこと、興味を持つことを見つけてもらえればと思います」
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谷出正直(たにで まさなお) 大手人材総合サービス会社で約11年間、新卒採用支援事業に従事。その後、独立し、現在は、企業の採用コンサルや就活情報の発信、講演、執筆活動などを行う。
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