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「ひきこもり=男性」じゃない! 女性当事者が見つけた居場所とは
すっかり日常用語になった「女子会」ですが、最近、ひきこもり経験者の女子会ができ始めています。「ひきこもり=男性」というイメージの陰で、女性のひきこもりは長年注目されない存在でした。「ひきこもり女子会」は、女性の当事者たちがようやく見つけた居場所になっているようです。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)
6月末、東京・渋谷で開かれた「ひきこもり女子会」にお邪魔しました。
集まった女性は、約30人。会場となった小さな会議室は、ほぼ満席でした。若い人から、白髪交じりの人まで。年代は様々です。
「女子会じゃないと、来られなかったです」
「男性が苦手で。女性同士で話せるのは安心します」
「当事者会に行ってみたけど、私しか女性がいなくて、居づらくて」
参加者たちが、こぼした言葉です。
「ひきこもり=男性」というイメージをもつ人は、多いのではないでしょうか。
ひきこもりの当事者たちが集まる場所は全国各地にありますが、参加者のほとんどまたは全部が男性ということが多いそうです。実際は、女性のひきこもりは少なくないのですが、男性ばかりの場所は居づらく、当事者会に行けないという女性たちがいます。
一部ですが、男性参加者から好奇の目で見られることもあり、さらにハードルが高くなっているようです。
この「女子会」は、ひきこもりの経験者でつくる「ひきこもりUX会議」が企画しました。
運営メンバーの中に女性が2人いて、この日もコーディネーターを務めました。
そのうちのひとり、林恭子さん(49)は「女性限定の居場所にニーズがあると確信はありました」と話します。
UX会議は昨年、女性のひきこもり当事者向けに、メイクと服のコーディネート講座を開きました。ひきこもる女性たちの中には、自分の見た目に自信を持てない人が少なくありません。外出するハードルを下げようと、講座は計4回開きました。
いずれも予想を超える人数が集まり、すべての会で満席に。
そこで今回、本格的に女子会を開くことにしたそうです。
女子会には、首都圏だけでなく、静岡や群馬からわざわざ来たという人もいました。
参加した女性たちは、口から言葉があふれ出るかのように、次々に自分のことを語っていました。
この場所に、とても強いニーズがあったんだなあと、痛感させられます。
ちなみに、「外出できるならひきこもりではないのでは?」と思う人もいるかもしれません。
「本当に家から一歩も出られない」という人は、もちろん来られません。当事者会は、少しずつ出られるようになった人、かつてひきこもりを経験し体験を語りたい人と、いろんな状況の人が参加できます。
UX会議は、今後も女子会を続ける方針で、次回は8月23日を予定しています。
こうした女性限定のひきこもり当事者の集まりは、最近ようやく登場し始めた、新たな動きです。
横浜市の当事者会「ひき桜」でも、6月から、通常の居場所会とは別に、女子会を始めました。
担当する成瀬さん(39)は、「ひき桜」の運営メンバーのうち、唯一の女性です。女子会には、男性の運営メンバーは参加しません。
「女性のひきこもりは少ないという思い込みは当事者自身にもあって。メディアの『女性の方がコミュニケーション力が高く社交性があるから、ひきこもりは少ない』なんていう分析を聞いて、『女性なのに社交性がない自分って相当ダメなんだな』と追い詰められる人もいます。ただでさえひきこもり状態であることに負い目を感じるのに、立場のなさを感じ、さらに閉じこもってしまう」
「でも、ネットで他の女性のひきこもり当事者の声を探していくと、けっこうな数が見つかる。そして、みんな自分と同じような負い目や肩身の狭さを感じていました。実は女性のひきこもりは結構いるのに、出ていける場所がないだけなんじゃないか、需要があるのに供給がない状態なんだと気付きました」
こちらも女子会は好評で、参加してみたいという問い合わせがあちこちからきているそうです。
成瀬さんは言います。
「同じ立場の女性とできるだけたくさん会う事で、安心したい。悩みや苦しみや不安を共有したい。友達がほしい。ひきこもりである事を隠したり負い目を感じる事なく、おしゃべりして楽しみたい。そういう居場所をつくることで、それぞれが抱える問題を解決する糸口が見つかり、社会に問題提起できたらいいなと思います」
女性のひきこもりが注目され始めたのは、ここ数年です。
そのきっかけが、ジャーナリストの池上正樹さんです。著書「ひきこもる女性たち」(2016年5月発売、ベスト新書)などで、存在に気付かれていない女性のひきこもりがあると、問題提起しています。
池上さんに聞きました。
「私自身も、『ひきこもりは男性特有の問題だ』という先入観がありました」。一般に女性は、昼間に家にいても、必ずしも不自然ではありません。しかし男性は、昼間に近所で姿を見られると「あの人は仕事をしていないのか?」と怪しまれやすいです。そのため、家から出られなくなり、女性よりもひきこもりになりやすいと言われています。
「でも、偶然、あるひきこもり女性からのメールをネットメディアで紹介したら、すごい数の反響が女性から届いたんです。その後も、女性のひきこもり特集を書くたびに、その数は増えていった。今では、私のもとに届く当事者からのメールは、男女半々です。女性たちの話を聞いていると、ひきこもり男性と同じ心理状態でした」
池上さんは「メディアがえがく『男性が薄暗い部屋の中に閉じこもっている』という典型的なひきこもり像は、実は専門家や支援者側ももっている」と指摘します。
「女性の当事者に『女性は結婚したら解決するよ』『買い物に出られるなら元気でしょう』と言ってしまう専門家や支援者は少なくありません。本人たちは、自分が抱える生きづらさを分かってもらえず、絶望し、社会から排除されていく。ひきこもりという状態は、なった経緯も状態も、千差万別です。例えば買い物には行けても、それ以外は家にこもり、友達もおらず、社会から隔絶され、心を閉ざしていれば、本質的にひきこもり状態と同じです」
また、社会的にあまり知られていない点として、池上さんは「女性のひきこもり当事者の中に、性被害にあった人たちがいる」ことを挙げます。実態把握は難しいですが、例えば、子どもの頃に受けた被害を「なかったこと」にして成長し、ふとしたことで傷が戻ってきて、ひきこもってしまう事例があるそうです。こういう女性は、男性主体の居場所に行くのはとてもハードルが高いです。
「ひきこもり女子会」は、今回例に挙げた「ひきこもりUX」や「ひき桜」以外にも、数は少ないですが、何件か事例があります。
池上さんは「女子会は、ようやく都会でできはじめたくらいなので、地方はまだまだ。当事者会のあり方は、多様であっていい。『ひきこもり=男性』というイメージにとらわれず、それぞれの当事者の思いに寄り添うことが大事です」と話します。
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