お金と仕事
年金は本当に損? リターン2.3倍の試算「投資」的にはアリかも…
「払うだけ損」「本当に老後の安心になるの?」――。何かとケチがつく年金ですが、見方によっては、国が扱うお得な「金融商品」ともいえます。3400万円を「投資」すると2.3倍の7900万円になる試算も。なぜなら、財源に消費税などが入っているからです。消費税と言えば、参院選直前に安倍晋三首相が増税先送りを表明しました。じゃあ、増税しなかったら年金への影響は? 参院選を前に、年金についてあらためて考えます。(朝日新聞文化くらし報道部記者・井上充昌)
年金は「賦課方式」と呼ばれ、現役世代が支払う保険料で今の高齢者の年金を賄っています。親に仕送りをしているのに似ています。
自分が支払った分をとっておいて、後で自分が受け取る「積み立て方式」ではありません。お年寄りの数が増えると、支え手の若い人が大変と言われるのはこのためです。
では、支払った保険料に対して年金はいくらもらえるのでしょうか。厚生労働省は昨年9月、年齢別の試算を出しました。
モデルは、会社員の夫と専業主婦(同い年)の2人世帯。夫は20歳から60歳まで、42.8万円の月収(ボーナス込み)で働いたという想定です。退職後に、平均余命まで年金を受給したと仮定して計算しています。
厚労省は、経済状況によって3パターンの試算を示しました。今回引用したのは、このうち経済成長が比較的順調な場合のものです。
現在70歳の人は1千万円を支払い、5.2倍の5200万円をもらいます。一方、20歳は3400万円払って、2.3倍の7900万円を受け取ります。20歳の方が額が大きいのはこの間、物価が上昇しているからです。
世代間でこれほど「格差」があるのは、どうしてなのでしょうか。
少子高齢化が進んで、昔は安かった保険料が徐々に上がってきたためです。今の厚生年金の保険料率17.828%(今年8月まで)は、50年前は5.5%(男性)でした。
厚労省年金局の担当者は「昔の人は親と同居したり仕送りしたりして、保険料を払う以外でも親の生活を支え、生活水準も低かった。今とは単純に比較できません」と説明します。
ただ、20歳でも払う分の2.3倍は受け取れる、と見ることもできます。
もし年金という仕組みがなかったら、自助努力で老後に備えなければなりません。どれぐらい必要なのでしょうか。社会保険労務士でファイナンシャルプランナーの澤木明さんに試算してもらいました。
将来受け取る年金額が平均的な夫婦2人世帯(受給額=6400万円)の場合、自分で貯金するには、20~60歳の40年間で毎月13万3千円の積み立てが必要になります(無利子と仮定)。仮に投資信託で、ずっと年1%で運用したら月10万9千円になります。
それが、年金だと保険料は平均月3万6千円。妻の分も含まれます。
月3万6千円払って、老後は多いときで月24万円もらう。どうでしょうか。
独身の場合、年金額は3600万円。貯蓄だと月7万5千円、1%運用だと月6万1千円となります。ただ、いずれも、物価の変動は考慮していません。
澤木さんは「年金は国が強制的に加入させる制度ですが、こんないい話はないでしょう。毎月13万円の貯蓄が必要なら、給料は住宅ローンとそれだけで消えてしまいます。今はたっぷり給料をもらう人も少ないし、老後資金を全て自分で賄うのは不可能です」。
では、なぜ、支払った額以上の年金が受け取れるのでしょうか。それは、基礎年金の半分は消費税などで賄われるほか、厚生年金は雇用している企業が同額を負担しているためです。
安倍首相は参院選直前に増税の先送りを表明しました。増税すると買い物を控えがちになります。安倍首相は、先送りの理由として景気対策を強調しました。
本来、消費税が8%から10%に上がると、増える税収5兆円のうち3~4兆円は借金返済に使われる予定でした。国は毎年30兆円の借金を繰り返しています。将来的には年金に回すお金に響くかもしれません。
今回の選挙の焦点のひとつである消費増税の先送り。18歳だっていつかはリタイアする時が来ます。消費税って今のお小遣いの使い道だけじゃなく、将来にも響く問題なんですね。
ちなみに、もしインフレが起きても、年金は、完全にではありませんが物価や賃金に合わせて増えます。死ぬまでもらえるので、平均より長生きしても安心です。
年金は老後への備えというイメージが強いですが、若くして障害者になった場合でも「障害年金」を受け取ることができます。
国民年金の1級だと月8万1千円、2級は6万5千円。障害基礎年金の受給権を持っている20~30代の人は46万3千人います。配偶者が亡くなった場合に受け取れる「遺族年金」もあります。
こんなオプションは普通の金融商品には絶対、ありません。
年金制度は破綻するのでは、と危ぶむ声もあります。
これに対し、澤木さんは「年金が少なくなるかもしれませんが、破綻は考えられません。その時は国家財政や国民生活全体が破綻する時ではないでしょうか」と話します。
もちろん、これは厚労省の試算を前提としています。加入者と同額の負担をしている企業の負担分も含めて試算すべきだという意見もあります。ただ、年金なしで自分の力だけで老後に備えるのは現実的ではなさそうです。
1/8枚