話題
囲まれ殴打…見て見ぬふり…でも、生きろ! イジメ受けた漫画家の思い
「かつて地獄を見て大人になった方々へ そして今、地獄を見て泣いている子供達へ 生きろ!死ぬな!生きろ!」。そんなメッセージとともにツイッターに投稿された漫画に、共感の声が寄せられています。
話題
「かつて地獄を見て大人になった方々へ そして今、地獄を見て泣いている子供達へ 生きろ!死ぬな!生きろ!」。そんなメッセージとともにツイッターに投稿された漫画に、共感の声が寄せられています。
「かつて地獄を見て大人になった方々へ そして今、地獄を見て泣いている子供達へ 生きろ!死ぬな!生きろ!」。そんなメッセージとともにツイッターに投稿された漫画に、共感の声が寄せられています。描いたのは、小学館の漫画雑誌で「機動戦士ガンダム アグレッサー」を連載中の万乗大智さん(47)です。かつて自分が受けたいじめの経験をもとに描いた4コマ漫画。そこに込めた思いを聞きました。
話題になっているのは6月18日の投稿です。万乗さんが小学生時代に受けたいじめのことが4コマ漫画で描かれていて、こんな回想が添えられています。
◇ ◇ ◇
バンジョーはね、小学生の時 一時期ひどいいじめにあったの。毎朝学校に行くのがつらかった…… 地獄のような日々だった
いじめられる理由は特にないの、ただいじめっ子から「標的」にされたの。そういう流れがあるの……
ある時 いじめっ子グループに囲まれて1人1人順番になぐられることがあったの。A君の順番がきたの。A君は本当はそんなことしたくないって目でこちらに訴えてたの。でも殴らないと自分が「標的」にされかねない……
そこで見た目は本気に殴ったように見せかけて すごくやさしく腹に一発A君はこぶしを入れたの。その時バンジョーはすごく泣いたの。なぜかすごく涙がとまらなくなって……泣いたの
その時……実は1番悲しくてつらいと感じたのが いじめっ子グループに何もいわないでただ黙って見ていたクラスみんなの目だったの
なぜかそれが1番つらくて 心がもう壊れそうだったの…… そういう気持ちはね、今でも決して忘れないよ……決して
この投稿の後、万乗さんは「エピローグ」と題した後日談もアップしました。
いじめの標的から外れ始めたころ、中心メンバーだったH君が、用があって家に来たときのことが描かれています。
玄関に置いてあった自作のガンダムのプラモデルにH君が見とれていたので、「あげるよ それ」と言ったときから空気が一変。翌日からガンダム好きな友達になったという話です。
これらの投稿に対し、ネット上では「共感しました。私も一時期標的にされましたので」「私も小学校の頃は似たような感じでやられてました」「周りの目……あれはツライですよね」「ガンダムによって生まれた不思議な縁ですね」といった声が寄せられています。
投稿した漫画にどんな思いを込めたのか? 万乗さんに話を聞きました。
――いじめに関する漫画をツイッターに投稿しようと思ったきっかけは
「特に深く考えて何かを発信しているわけではなく、ふと思ったことや、思い出したことを気軽につぶやく場であって、今回もたまたま、ガンダムのプラモデルを見て思い出した体験をつぶやいてみただけです。絵の軽さを見てもお分かりの通り、いい話を描こうとか、教訓めいたことを描こうとか、そういう意図は一切なく、ふと思い出して描いた程度です」
「たまに子ども時代のそういう話を4コマにして出すのですが、反響の大きさに、逆にこちらが驚いているというのが本当のところです。ただ、描いた後に泣いている子どもたちのことを想像して、もし、そういう子どもたちがいるなら、頑張って乗り越えて欲しいなと思い、その気持ちを漫画のタイトルにしました」
――万乗さんの体験にもとづく実話ですか
「完全に実話ですが、4コマなので出来事をまとめて描いています。例えば輪になって一人一人に殴られた話は、実際は教室ではなく運動場の隅でしたが、似たようなことは教室内でも行われて、その度に教室内のいじめを見ないように『無視』する空気がつらくて、そういう気持ちや出来事をまとめたという感じです」
――今も心に残っているのでしょうか
「深く深く残っています。そして『自分も気づかない間に、他人に対して理不尽なことをしてきたことがあるのではないか』と見つめ直すきっかけにもなっています」
――この出来事を通して、万乗さんの人生や考え方に変化があったのでしょうか
「具体的に『こう変わった』ということは難しいのですが、人の心を想像するということを、さらに強くするようになったといえるかもしれません。実は、この前にも、深く心に刻まれた出来事がありました。幼稚園のころの体験で、自分が加害者側であったと気づく話です。かつて、それも4コマ漫画にしてツイッターでアップしたところ、すぐに1万リツイートを超えて驚いた経験があります」
「今回の4コマはある意味、その時の4コマと対になっているといえるかもしれません。また、今回描いた漫画の後にも、深く心に刻まれた別の出来事がありました。それもいつか、ツイッターで4コマにして載せようと思います」
――その後、A君やH君と会う機会はあったのでしょうか?
「A君とH君とは、クラス替えとともに、特に友達付き合いすることはなくなりました。やはり微妙な空気がながれる関係ですね。いじめていた側も、冷静になって子ども心に、いろいろ感じることはあったのかもしれません。それは私にもわかりません」
――描くにあたって、心がけたことは
「ウソを描かない、あったことをただ描くということです。誤解してほしくないのは、ガンプラで仲良くなった話はいい話に見えますが、そうではないのです。あれは、いじめの標的から外され始めて、ある程度落ち着いたときのエピローグとして起こった話で、決してガンプラで相手を買収していじめを乗り越えた話ではありません。物語的に感動させたければ、脚色してもっとドラマチックにできたでしょうが、ただ起こった事実を描いただけです」
――反響については
「いろいろ反応はあるでしょうが、その人が感じたことがその人にとっての真実だと思います」
――漫画を通して伝えたいメッセージは
「描いた後で感じたことですが、もし今、同じように暴力に苦しんでいる子どもたちがいれば、『命を絶ちたい』と頭をよぎることもあるでしょう。しかし、今は信じられなくても、今は夜でも、朝には必ず太陽が昇るように、いじめは永遠には続かない。だから、自殺などはやめて欲しいという思いです。誰かにすがってもいい、逃げまくってもいい。反対に、理不尽な暴力に対してやられないように鍛えてもいい。何をしてもいいので、自殺だけは選択肢に入れないでほしいと思います」
――いじめ問題については
「昔も今も変わらずに子どもを苦しめている暴力的な、あるいは精神的ないじめは、見えないところで続いていると思います。ですので、できたら周りの大人がそれをキャッチし、手を打ってくれるようになってほしいと思います。子どもによっては、大人に打ち明けあけることができず、一人で悩んで泣いている子も多いと思います。大人の方々にこそ想像力を持ってもらい、子どもの危機を察知し、彼らを助けてあげてほしいと思います」
――H君との接点となった「ガンダム」に関する漫画を連載中ですね
「ガンダムの仕事を宣伝する気で描いたわけではないので、ただ一言、『人生何が起きるかわからない、不思議な縁だなあ』ってことだけですね」
――これからの活動予定は
「バカみたいに単純ですが、いい作品を描きたい。いい作品の定義ってなんだろう?と考えたとき、世の中はイデオロギーや政治的なスタンスで、時代ごとに『いい』や『悪い』が変わっていく部分があるかもしれませんが、本当にいいものって、いつの時代でもいいものなんだ、って想像します。例えば、献身的な主人公の振る舞いに感動して心の奥から涙を流した時、その涙は何か本質的な『いい』ものが、心に響いたからなんだと信じています」
「これは、心から尊敬する藤子・F・不二雄先生から教えていただいた漫画についての話でもあります。読んだ後に残る気持ち、読後感。これを大切にしなさいと。読んでよかったと心に思わせる大切な何か。そういった大切な何かを探して、読んでよかったと思っていただける作品を描けたらと思います。自分が愛する漫画、特に少年漫画って、そういうものだと勝手に信じています」
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