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投票用紙、想定外の書き間違い「ビートたけし」って?候補者の感想は
選挙の時、他の人が書いた投票用紙って、見ることができませんよね。それは、立候補する人たちも同じです。もし、自分に入れてくれた人たちの票を見ることができたら、どんな感想をもつんでしょう? 聞いてみました。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)
「自分の名前が書かれた票を見たのは、初めてです。そんな経験、普通できませんからねえ」。松丸まことさん(58)。東京都足立区議会議員です。【写真1】は、2015年5月に松丸さんが初当選した時の票です。
選挙結果をめぐり、「もう一度票を調べ直すべきだ」という異議申し立てが選挙管理委員会にあった時、有効か無効か微妙な票の実物が、判定結果と共に公開されることがあります。
足立区議選挙でも異議申し立てがあり、再調査の結果、計264票が判定し直され、公開されました。問題になったのは、最下位当選した松丸さんと、わずか1.2票及ばず次点で落選した候補者・滝上明さん(65)の票でした。
無効票も含め、足立区選挙管理委員会が再調査を実施しました。
再調査に立ち会ったのは、松丸さんの妻の恭子さん(44)。
「他の人が書いた票って、初めて見ました。無効票には、『ビートたけし』とか有名人の名前を書いたものや、何を書いているのか全く読めない票がありました。あと、候補者名の書き間違いが多くってびっくりしました。本当にその人を支持して書いてるの?って思っちゃいました」。
そう。264票の中には、名前を書き間違っている票がゴロゴロ(【写真2】)。
でも、これらはすべて有効票です。うっかり書き間違っただけと判断されれば、有効になります。できるだけ投票者の意思をくもうというのが、選管の基本方針です。
松丸さんは「有効か無効かの判断って、選管の『たぶんこの人に入れたかったんだろう』という推測なんですね。『そこまで有効って認めるの?』と疑問に思うものもありました」と、振り返ります。
再調査の時、問題になった票のひとつが【写真3】です。あの有名な「池上彰」さんが思い浮かびます。ただ、足立区選管は、これを滝上さんの有効票としました。なぜなら、「『たきがみあきら』と音が似ていて、誤記と推測できるから」。
足立区選管によると、著名人かどうかの前に、まずは候補者の中から似ている人を探す、というのが原則だそうです。別の票で「いけがみ」と名字だけ書かれたものもありましたが、こちらは無効判定でした。
「たきがみ」と似ているけれど、候補者の中には「ふちがみ」という人もいて、どちらに投票したかったのかわからないから、という理由です。
無効票の中には、著名人の名前を書いた票もよくあります。恭子さんと同じく再調査に立ち会った松丸さんの支持者は、「大竹まこと」と書かれた無効票を見つけ、「『いけがみあきら』が有効なら、『大竹まこと』も有効では?」と言ってみたそうです。
でも、「大竹まこと」は無効でした。ただ、「あの著名人だから」ではなく、候補者の中に「大竹」さんがいたから。大竹さんへの投票なのか、松丸(まこと)さんへの投票なのか分からないから無効、という理由だそうです(【写真4】)。
ちなみに、再調査の結果、滝上さんの票の中に無効票が3票見つかりました(【写真5】)。
この結果、松丸さんと滝上さんの票差は4.2票差に広がり、当落の結果が変わることはありませんでした。足立区選管は、無効票を誤って有効票に入れてしまっていたことを「重く受け止める」と陳謝。再発防止策として、開票作業をする職員のスキルアップを図るとしています。
実は、再調査をしてみたら「有効票(無効票)が増えた」という事例は、相次いで起きています。最近でも、熊本市議選挙(15年4月)、相模原市議選挙(15年4月)、山口県周南市議選挙(12年5月)、東京都渋谷区議選挙(11年4月)などがあります。地方選挙は票数が少ないので、ほんの1~2票で当落の結果が変わることも少なくありません。
松丸さんは「まさか『さきがめ』なんて票が有効になっているとは思わなかった。開票作業はちゃんとやっている、と思い込んでいたので。再調査がなければ、有効とされたままでしたよね。国政とか他の選挙でも意外とあるのかもしれないけど、再調査をしないので、わかりませんよね。私も対立候補もお互い傷つきますから、開票作業は、厳密にやってほしいです」。
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