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政治コント どこまでやったら怒られる? ザ・ニュースペーパーの流儀
フランク・ミュラーのお怒りを買った「フランク三浦」。パロディーに目くじらを立てて怒る人もいれば、クスッと笑う人もいます。政治家などに扮し、「偽物」を通して社会を風刺するコント集団「ザ・ニュースペーパー」がすすめる、偽物の楽しみ方とは?(聞き手 朝日新聞地域報道部記者・田中聡子)
――フランク三浦の騒動、どうでしたか?
山本天心)明らかに笑える感じがいいですよね。三浦勝訴の判決が出て、「ああ、日本もしゃれが通じるようになったな」ってうれしかったですよ。
福本ヒデ)みんな「似てるもの」って好きですよね。ものまね番組もあるし、プライベートの会話でも「誰かに似てる」って盛り上がるでしょ。
渡部又兵衛)で、まねをしながら、「本物は言わない本音」みたいなことを言うと喜ばれる。偽物だって分かっててもね。逆に、偽物なのに怒られることもあります。政党の集会にもよく呼ばれるんですけどヤジがすごい。たとえば共産党の集会で安倍さんのまねをすると「うそつくなー」とか真顔ですごいヤジがくるんですよ。そういう偽物の楽しみ方もあるんじゃないかな。
福本)そうそう一種のガス抜きね。本物には言えないし、そもそも会うこともできない。だから、僕たちが表現すると、喜んでくれるんですよね。フランク三浦や他のパロディー商品も「偽物だからだめだ」って責めるんじゃなくて、偽物の楽しい使い道がたくさんあるはず。だれも傷つかない面白いパロディーは、これからもどんどん増えてほしい。
――コントでまねする時に、線引きみたいなものはありますか?
福本)犯罪の被害者や加害者みたいに、見ている人が不愉快になるものはやりません。それ以外であれば、何でもやります。ネタも何でもあり。
渡部)見た人から「あれはちょっときついんじゃない」と言われることはあるけど、意見は人それぞれですからね。うちらはどの政党の味方でもない。だからどの政党の所にも行きますし、どの政党の人もネタにしますよ。おもしろければね。
――政治家からケチをつけられたようなことは?
渡部)文句はないけど、「本物」は偽物を「似てる」とはなかなか認めてくれませんよ。
山本)「ザ・ニュースペーパーに物まねされるようになったら一人前」という人もいるんです。
渡部)「僕のまねしてよ」って言ってくる人もいるね。でも「話題にならなきゃやりませんよ」って言ってます。みんなが知ってる人じゃないと、まねもできないでしょ。岡田(克也)さんなんか開口一番に「もっと出してよ、僕のこと」って言ってたっけ。けっこうまねしたよね。
福本)いや、ちょっとだけですよ。やっぱ民進党はね……。
渡部)それぐらい盛り上がってないってことだな。うちらの中でも盛り上がってないんだから、一般の人にとってはもっとでしょう。
――安倍政権は、長期政権になりましたね。
福本/安倍役)おかげさまで、安定してます。ステージのあとロビーでお客さんを見送るんですけど、「がんばってね」と声をかけてくれるお客さんが驚くほど多い。すごい人気です。長いから、みんなが知ってるって、強いですね。それに一度失敗した人は、何に対しても、用意周到な感じで。失点が少ない。
――今の政治情勢は、ネタとしておもしろい?
渡部)面白くないですね。自民独裁みたいで。一般の人も面白いと思ってないんじゃないですか? 安倍さんが最初に総理をやめたころは、たくさん取材がきました。小泉、福田、安倍に扮してずいぶんテレビに出ましたよ。それが、民主党政権になったあたりから、ぱたりとなくなった。
福本)それまでって、自民党がひどいていたらくで、テレビも自民党のことは「たたいていい」という空気があったでしょう。でも、民主党政権は、当初、みんなが本気で期待していたから、たたきにくい雰囲気があったんでしょうね。民主党が絶対的な権力じゃないことも関係するんだろうな。それ以来、今もぱったりです。
――報道が政治をちゃかせなくなっているということと、報道の自由の問題とはつながる面もありますね。
福本)でも、「報道の自由」っていうけど、不祥事とか不倫とかばかり騒ぐ報道ってどうなんだろう。清原、ベッキー、宮崎謙介。徹底的に報道して、話題にならなくなったらぱたんとやめる。本当にあそこまで糾弾されることなんでしょうか。我々がやってることよりも、よっぽど不謹慎ですよ。
渡部)確かにニュースはすぐ変わっちゃうね。うちらもめまぐるしくネタを変えないといけないんで、大変ですよ。
福本)正直、マスコミもけっこう風刺の対象です。安保法施行の民意よりも、不倫や不祥事が大事なんですか? 重要度の順位をそろそろ見直さないと。今回の震災もいつまでどういう報道していくのか、見てますよ。国民も風刺の対象ですよ。たとえば、反安保のデモ。シールズやデモに参加する国民もネタにしました。「よくやってる」って持ち上げるだけっていうのに、違和感があったから。なんでもネタにしますよ。
渡部)うちらは主張はしません。見た人に自由に考えて欲しいから。楽しみながら考えてもらうっていうスタイルです。
山本)うちらは、いい「ばったもん」ですよ。
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ザ・ニュースペーパー 1988年結成。国内外の政治や社会など幅広いニュースを素材に、政治家や有名人の物まねをしたコントが人気。新作DVD「ザ・ニュースペーパー LIVE 2015」が発売中。
「パロディーの境界線」は4月23日発行の朝日新聞夕刊紙面(東京本社版)「ココハツ」と連動して配信しました。
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