お金と仕事
「フランク三浦」がOKなら「スマン・スミス」は? パロディーの境界線
スイスの高級時計のパロディー商品「フランク三浦」。この商標をめぐる裁判で、知財高裁が今月中旬に出した判決は「三浦OK」。記者にとっては朗報だった。なぜなら、母の愛用品だから。見回すとパロディー商品はさまざまだけれど、どこまで認められるのか? 大事なのは「本気度」だった。(朝日新聞東京本社経済部記者・大内奏)
パロディーTシャツを自社でつくって売っている、東京都内の洋服店。取り扱う40種類のなかでの売れ筋は、adidasの定番人気スニーカー「STAN SMITH」を元にした「SMAN SMITH」Tシャツだ。企業ロゴはayamalに変更。20~40代の男女に「おしゃれで面白い」と人気という。
「ユーモアをこめ、さりげなくひねるのがデザイナーの腕の見せどころ。変えすぎては格好悪いし、元ネタと間違われたら、ただの偽物になってしまう」と女性店長。
パロディー商品が法律的に認められるには。「大きなポイントが、全体として似ていないことと、買う人が元の商品と間違えないこと」と企業の商標の相談にのる弁理士の富澤正さんは話す。
フランク三浦の裁判で、「元ネタ」であるフランク・ミュラー側は「語感が極めて似ている」と主張した。しかし裁判所は「イメージや外見が大きく違う」と判断。値段も4千円ほどで、本物とはケタが三つ違うことも考慮された。
ちなみに「SMAN SMITH」については「商標登録されている『STAN SMITH』とちょっと似すぎかもしれないですね……。グレーですかね……」(富澤さん)
高級ブランドのロゴに似せた時計や財布を激安で売るのはOKってことだろうか。CHANELならぬCHAMELの時計、千円で売れば通用するのか。
これは駄目だった。パロディー商品が許されるための二つ目のポイント、元の商品の脅威になったり、ブランド価値を下げたりしないことに反する。明らかに偽物とわかっても、出回れば元のブランドイメージを傷つける。同じく弁理士の越場洋さんは「フランク三浦は本気でパロディーをした。一種のユーモアとして評価できるレベルに達していた」。だからこそ元ネタの不利益にはならないと裁判所が判断した、との見立てだ。
母にも聞いた。「なぜフランク三浦を使っているの?」。答えは「面白いでしょ、って友達と盛り上がれるから」。高級ブランドの代用品ではなかったんだね、母さん。
元ネタに似ている部分があるから、パロディー商品は売れる。でも、元ネタに似せすぎると許されない。現役の政治家を元ネタにコントを演じる役者に聞いた言葉がこれ。「パロディーは、本物にはできない表現ができる。だから社会のガス抜きになる」
「パロディーの境界線」は4月23日発行の朝日新聞夕刊紙面(東京本社版)「ココハツ」と連動して配信しました。
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